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その13

「アッハッハ! こいつはとんだ茶番だぜい!」


 そんな馬鹿笑いをする探偵を尻目に船虫さん。この様子を不安げに見ながら、そっと小声で


「間違いないの? 田部ちゃんよ」


「はい、警部。顔はともかく、あの脚は間違いありませんから」


「はあ?」


 こりゃ立証は難しい――こう思ってる時、場の緊張感を一掃してきたのは


「その着うた、やめろって言ってるでしょが!」


「ま、いいじゃないですか、木俣さん……もしもーし! 船虫だがあ?」


『警部、白子です。実は、しーちゃんがおねえちゃんを指摘しまして』


「おお! 実はこっちもな、たった今、大先生が指摘したんだ!」


『ええっ?』


「で、しーちゃんは何でわかったんだ?」


『それがテレビに流れたローカル色豊かな“スーパー銭湯”のCMを見て、指摘したんです。おねえちゃんがいるって』


「そかそか……」

 ここで警部殿、まるで悪さをして一人立たされてる小学生の如き娘に、わざと聞こえるよう


「あの女の子が、“スーパー銭湯”のCMを見て『誘拐したおねえちゃんがいる』って、言ったんだな!」

 これを聞き、一瞬で顔面蒼白になった娘。


「じゃあ悪いが、しーちゃんを連れてこっちへ向かってくれ」


 船虫さんが電話を切った後、女流探偵が頷きながら


「ふうん、そっかあ。上半身は幼き娘が指摘し、下半身は若き変態が指摘した……こうなるのか」


「ちょっと。やめてくださいよ、そんな言い方!」


 この時、すでに娘の様子の変化に気づいた江戸川社長さんが


「沙希! 本当に誘拐したのか!」


 有無を言わさぬこの言い方に、相手は崩れるようにその場へしゃがみ込んでしまった。

 これを見た江戸川さん、吐き捨てるように


「……警部さん、見ての通りですよ」



「沙希ちゃんとやら、詳しくは署で聞くからね」


 何とも優しいハゲ、いや船虫さん。合流してきた白子刑事と娘を挟む格好で、車へと乗り込んだ。 

 そして、そこに走りよってきたのが


「おねえちゃん!」


 この姿を見たミニスカ娘、ハラハラと涙を流し


「お嬢ちゃん、ゴメンネ」


 そして、これにもう一人も涙を流し――


「何故におまえさんが泣くんだあ?」


「だって、木俣さん。何だか可愛そうになって」


 そう言いつつ田部君、ハンカチで目頭を押さえている。


「はあ? 自分が指摘したんだろ? この脚の持ち主に間違いないって」


「そ、そうですが」


「そんなんじゃな……」

 ここで己の無い胸を叩いた木俣さん――鈍い骨の音しかしなかったのだが


「私のような立派な探偵にはなれんぞよ!」


「別に僕って、探偵志願者でもなんでもないんですが?」


 この時、車の中より顔を出してきた船虫警部が


「木俣さんも田部ちゃんも、アリガトね!」


 これを見た瞬間、手をかざしたお二人さん。


「んもう、眩しいからオツム下げなさんなって!」



 車が去るのを見送った木俣さん、いまだ涙ぐんでるか弱い男に


「じゃあ、帰ろっか! ちょうどいい塩加減になってるしな、おにぎり君!」


 そして乗り込んだボロ車、すぐに――いや、やっとの事で発進したものの、いきなり木俣さんが大声を張り上げ


「そう、うな垂れなさんなって、エロカワさん!」


 これにキッと顔を上げた中年男


「江戸川です!」



「やっと、片付いたなあ」

 

 こう言いながら、バックミラーを手前に傾ける探偵さん。


「もう、危ないですって!」


「いいじゃん、ちょっとくらいさ」

 そして思いっきりの笑顔を繕い


「せーの! 木俣だけに………キマッタ! イェイ!」


 だがこの時、偶然なのか、はたまた己の意志によるものかは定かではないが――可愛そうにもミラー君、枠から外れ落ちて割れてしまったのだった。


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