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LOST COIN  作者: 早村友裕
第三章 PAST DESIRE
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SECT.3 幸せであること

 いっぱい泣いたせいなのか、ねえちゃんを笑顔で見送る事が出来た。

 アレイさんはねえちゃんにものすごく睨まれていて、とても居づらそうにしていた。その視線は悪意というより嫉妬に近いもののような気がした。

 首を傾げつつもねえちゃんに微笑みかける。

「行ってらっしゃい、ねえちゃん」

漆黒星ブラックルビー騎士団ではいい子にしてるのよ?」

「うん、だいじょうぶだよ!」

 自然に笑えた。もうだいじょうぶだ。

 それを見てねえちゃんは少しだけ悲しそうな顔をした。

「もうあまり一緒にいられないかもしれないわね……寂しいわ」

「どうして?」

「何でもないわ。私の可愛いラック。元気でいるのよ?」

 ねえちゃんは笑って額に一つキスをしてくれた。

「行ってくるわ」

「うん。待ってて、強くなってすぐに行くから!」

 大きく手を振った。

 馬車が小さくなっていく。見えなくなるまでずっと手を振り続けた。腕も肩も痛くなったけどやめなかった。

 最後に馬車が消えてしまってから、もう一度涙が出そうになったけれど、ぐっとこらえた。

 泣かないぞ。強くなるんだ。

 次にねえちゃんとアレイさんに会うまでに見違えるくらい強くなって驚かせてやる!



 すぐに自分の部屋に引っ込んでタンスをひっくり返した。漆黒星ブラックルビー騎士団と合流する準備をしなくてはいけない。

 いま、気分が高揚しているうちにこの家を出なくては、またきっと不安になってしまう。

 しかし王都に来てからやたらと服が増えてしまったせいでなかなかうまくいかない。その様子を見かねたアイリスとリコリスが手伝ってくれた。

「このお服はどうなさいますか?」

「それはいいよ、置いていく。邪魔になるだけだ」

「こちらは?」

「そっちは持ってく、お気に入りだし」

 ほとんど荷物がそろう頃、テーブルの花瓶に刺してある羽根のことを思い出した。純白のマルコシアスさんの羽根と、青みがかったクローセルさんの羽根だ。

「あ、そうだ。ねえ、アイリス。この間みたいにマルコシアスさんの羽根縫い付けてよ」

 そう言うとアイリスの顔が曇った。

「あ、あの、ラック様。実は……」

 リコリスも困ったように見ている。相方に比べて少し大人しいアイリスは言いづらそうに言葉を紡いだ。

「その、マルコシアス様の羽根……悪魔の羽根が、その、私には少し毒気が強いらしく……」

「どうしたの?」

 首を傾げると、代わりにリコリスが言った。

「この間羽根を縫いつけた後、アイリスは体調を崩してしまったのです。悪魔の羽根は普通の人にとってあまりよい影響を与えない物ですから」

「え、そうなの?」

「コイン自体も耐性のない者が触れていると精神が崩壊すると聞きます。私達のように一般の者にとって悪魔の気は毒に近いものなのです」

 驚いた。

 自分にとってコインはお守りで、羽根は加護だ。むしろ身につけていなくてはいけないものだった。身につけているどころか一つは左手の甲に埋め込まれているぐらいだ。

「ごめん、アイリス。体調を崩しただなんて知らなかったんだ」

「いいえ。でも、羽根を縫いつけて差し上げることは出来ないのです」

「いいや、おれ、自分でやるよ」

「でも、ラック様。お裁縫はあまりお得意では……」

「隣で教えてくれるかな、アイリス」

 そう言うとアイリスは大きなブラウンの瞳で微笑んだ。

「ええ、喜んで」


 裁縫をするのはとても苦手だった。

 ずっとねえちゃんがやってくれていたし、王都に着てからはアイリスに任せっきりだったからだ。隣で見ていたから何となくやり方はわかるけれど、見るのと実際やるのは大違いだった。

 思うように針が進まない。

「やはり私がやりましょうか?」

「だめだよ、アイリスが体調崩すなんて。それに、おれまだまだいろんな事できるようにならないといけないんだから!」

 ねえちゃんとアレイさんに追いつくために。

「馬にだって乗れないし剣は使えないし言葉遣いは駄目だし、できるようにならなくちゃいけないことはいっぱいあるんだよ?」

「でもまだラック様はお若いですし、時間をかけて覚えていけばよいのでは?」

「ダメだよ。早くねえちゃんとアレイさんに追いつかなきゃいけないんだ、おれは」

 二人が大切で、隣に立って守りたい存在だから。

 力を込めてそう言うと、アイリスは朗らかに笑った。

「お嬢様は万能でいらっしゃいますからね。追いつくのはきっと大変でしょうね」

「うん。だから、おれがんばるって決めたんだ!」

 目は必死で縫い目を追いながら、純白の羽根を縫いつけていく。

「ラック様のそういうところが素敵だと思います。強い意思を持って努力できる姿はとても輝いて見えます。自分もがんばらなくちゃって思えるんです。そうやってラック様は周囲の人を明るく照らしてくれているんですよ」

「おれはアイリスとリコリスがいてすごく助かってるよ? 手伝ってもらってばっかりだ」

「それが私たちの仕事ですから」

 アイリスはそう言って微笑んでくれたけれど、その笑顔だってみんなを明るく照らしてくれると思う。

 自分はきっと出会う人に恵まれているんだろうな。

 この新しい世界に飛び込んでから、アレイさんもじぃ様も王様もサンもアイリスもリコリスもクラウドさんもダイアナさんも、もっともっとたくさんのヒトに出会ったけれど、みんないいヒトたちばかりだ。

 いまの自分は幸せだと思った。

 そして、そう思える事が一番幸せなんだろう。


 がんばろう。

 自分のためだけじゃなくて、みんなのために。

 そう決心して漆黒星ブラックルビー騎士団の訓練所に向かった。

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