SECT.8 サミュエル=L=メイザース
ジュデッカ城に入るのは二度目だ。
ところが、今回はなぜか門番の警備が厳しくて簡単には中に入れなかった。たぶん二人とも私服で来たのも一つの原因だろう。
「レメゲトンのアレイスター=クロウリーとラック=グリフィスだ。中に通してくれ。王と話がしたい」
そう言うと門番さんたちは掌を返したようにさっと道を開けた。
「レメゲトンて……すごいんだね」
「位としては騎士より上だ。国中でお前を合わせてもたったの6人しかいないからな」
ジュデッカ城の長い廊下を急ぎ足のアレイさんを追いかけながら、必死で不安を消そうと話しかけた。
「アレイさんはレメゲトンで騎士で伯爵なの?」
「名目上はそうだ」
「長い肩書きだねえ」
「仕方がない。気づいたら増えていたんだ」
そこでまた門番に止められた。
今日の警備は厳重すぎる気がするよ。門番さんがあちらこちらにいて、すぐに止められてしまう。
「どちら様ですか。謁見許可は?」
「レメゲトンのアレイスター=クロウリーとラック=グリフィスだ。許可はないが緊急で話したい」
アレイさんが早口で言った瞬間、門番さんの後ろから声がした。
「クロウリー伯爵、ゼデキヤ王がお待ちです。すぐ中にどうぞ」
ふと見るとそこには同じレメゲトンのベアトリーチェさんが立っていた。
この間王様に会った広くて明るい部屋とはぜんぜん違って窓の小さい、しかも書類に埋まった部屋の片隅に王様がいた。
王様の顔は口ひげ以外全く覚えていなかったが、その口ひげが少しも変化していなかったのでほっとした。やっぱりこの王様、王冠以外は普通のおじちゃんに見えるよ。
「すまぬな、クロウリー伯爵、それにラックも来ているか。すぐにヴァイヤー老師とメイザース侯爵も来るだろう」
「……一体何があったのですか?」
アレイさんが真剣な口調で聞いた。
「全員が集まってから話そう。大変な事態が起きた」
「それはねえちゃんが昨日から帰らないことと関係あるの……?」
一番聞きたかったことを口にした。
その瞬間に王様の顔が強張った。
心臓がどくりと跳ね上がる。ねえちゃんに何かあったんだ!
さらに問おうとすると、アレイさんがぽん、と肩を叩いた。
「落ち着け、ガキ」
「……ガキって言うな」
言いなれた台詞を吐いたら少し落ち着いた。
それでも心臓の鼓動はおさまらない。耳もとで大きく心臓の音が鳴り響いている。
沈黙の中で少し待っていると、扉が開いてじぃ様と共に一人の男性が姿を現した。
「すみません、遅くなりました」
初めて見るヒトだった。ぼさぼさと長い前髪に濃い紺のローブを纏ったそのヒトは眼鏡の奥の温和そうな瞳を困ったようにゆがめてこちらを見た。
「見たことのないヒトがいますよ?」
「つい最近レメゲトンに就任したラック=グリフィスだ。噂くらいは聞いているだろう」
「ああ、この子が例の……」
眼鏡のヒトはにこりと笑って手を差し出した。
「僕はサミュエル=L=メイザース。レメゲトンの一人です。普段は書庫に篭っているからあまり会う機会はないかもしれないですけれど、よろしく」
「おれはラック=グリフィスです。よろしくお願いします」
簡単に挨拶を済ませて、すぐに本題に入った。
「さあ、一体何があったか教えてください」
「急くでない、若造」
「うるさいくそじじぃ」
アレイさんがじぃ様を睨んだ。
「これはジュデッカ城内とレメゲトンだけで内密に処理したい……極秘事項として扱ってくれ」
「昨日の晩ですか?何が……」
「セフィラが、現れたのだ」
「!」
じぃ様と王様以外全員が息を呑んだ。
「このジュデッカ城にですか?!」
「そうだ。正確には夕刻、地下牢獄での出来事だ」
昨日の夕方、突如セフィラが地下牢獄に現れたらしい。
その場にいた衛兵たちを屠り、すぐ地上に飛び出してその場は騒然となった。
天使の加護を受けたセフィラはそのままジュデッカ城に侵入、何かを求めるようにしてさまよった挙句謁見の間にたどり着いた。
ちょうど居合わせたねえちゃんとじぃ様が応戦して……
「ファウスト女伯爵が第18番目の悪魔バシンを使いセフィラもろとも何処かへと空間転移したのだ」




