↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
罪と私  作者: 霜月希侑
PR
1/7

罪と私


 私は、生きていることがひどく下手だ。生きるという行為は、借り物の衣をまとって舞台に立つような、居心地の悪さに満ちている。


 誰もが私を、ごく普通の女だと思うだろう。霜村侑月、二十四歳。どこにでもいるような顔をして、どこにでもありそうな日常を送っている。けれど、その内側には誰にも見えない裂け目がある。


 その裂け目を作ったのは、春木理沙だった。


 いや、違う。彼女は裂け目を作ったのではない。私の中に眠っていたものを暴き、その傷口を広げた。そして、二度と塞がらないものにしてしまった。


 理沙を殺したのは私だ。


 彼女の細い首に私の手が触れ、その温もりは少しずつ失われていった。息が途切れる瞬間まで、彼女は私を見つめていた。


 あの瞳は、私を赦していたのだろうか。それとも、最後まで呪っていたのだろうか。


 わからない。


 ただ一つだけ確かなことがある。


 彼女の最後に映った人間は、私だった。


 それを望んだのも、私だった。


 私は理沙を愛していた。


 親友という言葉では到底足りないほど、深く、醜く。


 彼女が笑えば嬉しかった。彼女が泣けば胸が締めつけられた。そして、彼女が私ではない誰かに微笑むたび、心の奥で何かが静かに壊れていった。


 私は彼女のすべてが欲しかった。


 笑顔も、涙も、未来も。


 彼女が誰かを愛するくらいなら、誰のものにもならないでほしかった。


 その願いは、愛ではなかったのかもしれない。


 執着だったのかもしれない。


 それでも私は、その違いを知ろうとはしなかった。


 今、私は海の見える古びたアパートで、窓の外をぼんやり眺めている。


 波は何事もなかったように寄せては返し、世界はあの日を知らないふりをして今日も続いている。


 けれど、私だけは止まったままだ。


 理沙の身体が私の腕の中で冷たくなっていった夜から、一歩も前へ進めない。


 彼女が最後に残した言葉は、私の名前だった。


「侑月」


 その声は今も耳の奥に残り続けている。


 あれは愛だったのか。


 憎しみだったのか。


 それとも、死を前にした人間が無意識に零した、最後の呼び声だったのか。


 私は知らない。


 知る資格もない。


 愛とは何なのだろう。


 人を救うものなのか。それとも、人を壊すものなのか。


 私にはわからない。


 ただ一つだけ言えるのは、私が理沙を愛したこと。そして、その愛が彼女の命を奪ったということだけだ。


 この物語は、私の告白である。


 赦しを乞うためではない。


 罪を軽くするためでもない。


 ただ、理沙という一人の人間が確かに生き、私という人間がその命を奪ったという事実を、最後まで書き残すためだ。


 私は理沙を忘れない。


 忘れることなど、できない。


 彼女を殺したあの夜だけが、今も私を生かしているのだから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
応援できればと思い来ました(^ ^) 一人称の告白でここまで温度を保つのは難しいのに、最後まで声が揺れないのが印象的でした。書く側だと、独白は途中で説明に傾きがちです。 「愛だったのか執着だったの…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。