罪と私
私は、生きていることがひどく下手だ。生きるという行為は、借り物の衣をまとって舞台に立つような、居心地の悪さに満ちている。
誰もが私を、ごく普通の女だと思うだろう。霜村侑月、二十四歳。どこにでもいるような顔をして、どこにでもありそうな日常を送っている。けれど、その内側には誰にも見えない裂け目がある。
その裂け目を作ったのは、春木理沙だった。
いや、違う。彼女は裂け目を作ったのではない。私の中に眠っていたものを暴き、その傷口を広げた。そして、二度と塞がらないものにしてしまった。
理沙を殺したのは私だ。
彼女の細い首に私の手が触れ、その温もりは少しずつ失われていった。息が途切れる瞬間まで、彼女は私を見つめていた。
あの瞳は、私を赦していたのだろうか。それとも、最後まで呪っていたのだろうか。
わからない。
ただ一つだけ確かなことがある。
彼女の最後に映った人間は、私だった。
それを望んだのも、私だった。
私は理沙を愛していた。
親友という言葉では到底足りないほど、深く、醜く。
彼女が笑えば嬉しかった。彼女が泣けば胸が締めつけられた。そして、彼女が私ではない誰かに微笑むたび、心の奥で何かが静かに壊れていった。
私は彼女のすべてが欲しかった。
笑顔も、涙も、未来も。
彼女が誰かを愛するくらいなら、誰のものにもならないでほしかった。
その願いは、愛ではなかったのかもしれない。
執着だったのかもしれない。
それでも私は、その違いを知ろうとはしなかった。
今、私は海の見える古びたアパートで、窓の外をぼんやり眺めている。
波は何事もなかったように寄せては返し、世界はあの日を知らないふりをして今日も続いている。
けれど、私だけは止まったままだ。
理沙の身体が私の腕の中で冷たくなっていった夜から、一歩も前へ進めない。
彼女が最後に残した言葉は、私の名前だった。
「侑月」
その声は今も耳の奥に残り続けている。
あれは愛だったのか。
憎しみだったのか。
それとも、死を前にした人間が無意識に零した、最後の呼び声だったのか。
私は知らない。
知る資格もない。
愛とは何なのだろう。
人を救うものなのか。それとも、人を壊すものなのか。
私にはわからない。
ただ一つだけ言えるのは、私が理沙を愛したこと。そして、その愛が彼女の命を奪ったということだけだ。
この物語は、私の告白である。
赦しを乞うためではない。
罪を軽くするためでもない。
ただ、理沙という一人の人間が確かに生き、私という人間がその命を奪ったという事実を、最後まで書き残すためだ。
私は理沙を忘れない。
忘れることなど、できない。
彼女を殺したあの夜だけが、今も私を生かしているのだから。




