002-03
PA、音声や映像を始め複数の入力情報から認識を行う、マルチモーダル・アン
ド・マルチファスィテッド・シンキング型AGI(汎用人工知能)によるサーヴィ
ス、パーソナルアテンダントの略称。
そのユーザーは、眼鏡型のウェアラブルデヴァイスを装着している者が一般的だ
が、蜷源るりは今現在、使用していない。
視力の矯正は不必要でも、眼鏡のレンズをスクリーンにして情報表示ができ、フ
レームにも、周囲全方向を撮影するカメラレンズ複数と、骨伝導マイクおよびスピ
ーカーが内蔵されている。
眼鏡をとおしてPAに、ユーザーの現況を伝えて把握させることで、その場に立
ち会ってくれているようなやり取りを実現するには、欠かせないアイテムとなって
いるのだった。
魁は蜷源るりの両耳へ目をやるも、肩までは届かない髪がすっかり隠していて、
ワイヤレスイヤフォンなどを装着していないかどうかも、実際のところ判断できな
い。
「そんなイケてる顔で、まじまじ私のこと見ないでくれないっ? 今は、私のコン
ちゃんとつながっていない、完全に素の私なんだからぁ――」
蜷源るりは髪を掻き上げて、両耳にも何も着けていないことを明らかにした。
「はぁ‥‥」
「てか蜷威クン、この御時世にスマホ自体もってない激レア原人なんでしょう?
一応は礼儀だと思ってなんだけど、それも私のコンちゃんからの指示なのよ。私が
見るからにバリバリ頼ってたら、こんな風に会話してくれないかもじゃない?」
「原人!? ‥‥あは、まぁそうかもですけど」
魁は思わず心からの苦笑をして、ようやくまともに蜷源るりと目を合わせる。
都内も大崎から、父方の実家があるこの土地へ逃遁を果たした魁には、県の北東
から山間部を封地にしていた蜷源家の開祖、俗伝の武将である蜷源武昌がどんな人
物かなど、知らなければ興味もない。
教科書に載りもしないその史談を、調べてみようとすら毫も思わずにいたけれど
も、蜷源るりの、凛然たる直線的眉や、咀嚼力の強そうな顎のラインは、大名家で
もある血筋を大いに頷かせる勇健を見て取らせる。
魁の、もはや完全自動化された警戒レヴェルの調整を、微妙に込み入らせてもい
た。
「とにかく、こまかい話の前におみやげおみやげ~。コーヒーだけでも飲んじゃお
うよ。これも私のコンちゃんのお勧めだから、どれだけ蜷威クンのためにマジ索り
したかが、キミの満足感で判断できるんじゃないかしら」
蜷源るりは、隣の机にトートバックを置いてそのイスに座り込むと、魁に断られ
ることなど心馳せに全くない勝手がましさで、マジョルカブルーのマグボトルと、
テイクアウトの紙袋に入ったツンブロードを使ったラップサンドを、魁の前にルン
ル~ンと並べていく。




