第41話 勇者はとっくに死んでいる
朝日も昇り切って、クラスメイトたちが起き始めた。
みな帰り支度を済ませ、朝ごはんのために宴会場へと集まる。
どうやら昨日の緊急事態のことは、ダンジョンに賊が入り込んだために中止、ということになった。
本来であればもう少し不満が零れそうなところだが、予定変更で観光地巡りになったことで大半のクラスメイトの溜飲は下げられた。
大半というのはもちろん、納得していない者もいるわけで。
「まったく、アタシの実力を見せつけるチャンスだったのに」
カインがいつもの調子でふてくされている。
端正な顔立ちにはいくつもの傷が残っていて、迷宮の進行に苦労していたのは容易に想像できた。
「カインは中止になってよかったんじゃないのか?」
「勇者シオン、なんてこというの! あなたにはやはり一度調教が必要のようね……」
「カインさん、やめてください! シオンくんには指一本触れさせませんからね!」
ミラが揚々と立ち上がり、宣言する。カインの目にも闘志の火が宿り、まるでライバルを見るような目つきでミラを見ている。
いやいや、全く勝負になってないから。ミラの圧勝だから。
昨日の命のやり取りをしていたことがまるで嘘のように、日常に帰ってきた気がして自然と笑みがこぼれた。
「シオンくん、わ、私は本気ですからね! 誰にも渡しません!」
「ミラ、それってもはや、告白とも取れるよ」
食事を口に運びながら、リンが冷静につっこむ。
その指摘が図星だったのか、ミラの頬は徐々に紅潮する。
「ち、ちがっ、いやちがわ……ないけど……」
声もだんだん小さくなっていく。なんだか俺も気恥ずかしくなってきて目が合わせられない。
「全く目の前でイチャコラしてくれちゃって、許せないわ……!」
ただ朝食をとって帰るだけだというのに、全く騒がしいやつだ。
しかし今はそんな様子も心地よく思える。
「ほらほら、朝食の時間ですから騒がないでくださいよー」
クロウ先生に制されてようやく落ち着きを取り戻し、朝食を再開した。
そらからもなんどか目線だけでカインとミラの攻防が繰り広げられていたが、俺は気にしないことにした。
朝食を終え、宿に別れを告げて港へと向かう。
来た時と同様、街の人々は歓声をあげて俺たちを見送ってくれた。
きっと次にここへ来るときは、俺に対する接し方も大きく変わっていることだろう。
今は純粋に、ただの生徒として受け入れてくれるこの声を満喫しておく。
魔法船へと乗り込み、街の人たちに手を振る。
みな一様に笑顔を振りまいている。
戦争の最中にあるこの世界において、笑顔でいられるのはきっと勇者の存在がおおきいのだろう。
これからは、俺が、この人たちを守っていかなければならないんだ。
自然とこぶしに力がこもる。
やれるのだろうか、俺に。
いや、やるしかないんだ。
しばらく甲板で外の空気を浴びていると、雲海を抜け、茫洋な大地が姿を現した。
この視界いっぱいに広がる大地のいたるところには人々が根付き、希望を頼りに生活をしている。
数えきれない人の今後の運命は俺の手にあると思うと、覚悟が揺らぎそうになる。
そんな俺の胸中を察したのか、リンが隣まできて優しく肩に手を置いた。
「忘れないで、シオンは1人じゃない」
「ああ、わかってるよ」
優しさとも、釘を刺しているとも取れる一言に背筋を伸ばす。
そうだ、もう決めただろ。
「僕たちで、この世界の人たち皆、救っちゃおう」
釘を刺す、といったのは撤回しなければならない。
リンの顔には迷いなど感じられない。ただ純粋に世界を救うことに燃えている、といったところだろう。
「そうだな。勇者はとっくに死んでいる。だから――――俺が勇者になるんだ」
2人で気持ちを高めあい、これから迫りくる事象への心構えを固める。
空の上で気持ちが高ぶっているのか、やる気が満ち満ちてくる。
しかし、俺たちはまだ知らない。
俺たちが救おうとしているこの世界が、歪み始めていたことを――。
ここまで読んでくれた方、ありがとうございました。
伏線とかいろいろ残したままですが、一旦ここで一区切りとしたいと思います。
反響があれば続編書いてみようと思いますが、改めて振り返ってみると推敲するべきところがたくさんあるなあと感じています。
なので、この作品に使おうと思っていた設定等は別の作品に流用しようかと今のところは考えています。
それか、ごっそり書き直すかですね。
なにはともあれ、10万字以上の作品をかけたのはこれが初めてだったので、素直に嬉しいですね。
今はまた別の作品を執筆中なので、一区切りつけられるところまで書いたら毎日投稿していこうと思います。
それではまた、どこかで。




