表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/12

ツッコミは世界を救う

──魔王サルグレアの崩壊とともに、世界はボケ一色の呪縛から解放された。


 


「……空、青いなあ」


私は丘の上に寝転んで、空を見上げていた。


もう、パンケーキの山も、炭酸の海もない。


ただの、普通の世界が、そこには広がっていた。


「……なんや、ちょっとさみしいやん」


思わずつぶやいたとき──


「おーい、マナー!」


カイルが、ド派手な金ピカの全身タイツで駆け寄ってきた。


「うわあああああ!? なにそのビジュアル!! 反省しとる!? 世界救った直後やぞ!?」


「いやほら! 平和になった記念にさ、世界一目立つ格好してみたくなって!」


「平和ボケの見本市かいっ!!」


 


ミレイもやってくる。今日はいつもより……静か?


「ふふふ……我が詠唱ポエムが、世界に受け入れられた今──

この心に巣くう中二病も、少し大人しくなったようだ」


「いや自覚あったんかい!!」


「でも、第二詩集も作ってるわよ。笑いと混沌と紅茶のレクイエム!」


「もうカオス通り越して、精神のストレッチやわ!!」


 


ポチは、変わらず冷静に私の横に座る。


「……世界は、お前のツッコミで救われた。誇っていい」


「なんやそれ……言われたら照れるやん」


「ちなみに、救った直後に世界最強のボケ、カイルが爆誕したけどな」


「そこが最大のバグやねん!!」


 


====


 


──サルグレアは、現在《クスクス更生学院》で、新生ツッコミとしてリハビリ中。


「私、今度こそ笑われるじゃなく、笑い合える世界を作るんだ」


彼女は笑っていた。ほんまもんの、自然な笑顔で。 


「……さて、マナ。これからどうするんだ?」


ポチが尋ねる。


「ツッコミ魔法は、もう戦いに使わなくてもいい世界になった。でも、お前にはまだその力が残っている。どう生きる?」


 


私は立ち上がり、軽くストレッチする。


「決まってるやろ。世界中のボケにツッコミ入れて回る旅や!」


「旅って!? 何その終わらせる気ゼロの宣言!!」


「でもええやん! 今度は平和なツッコミ旅や。時には笑わせ、時には笑われ、そして、ちゃんとツッコむ……それが、うちの新しい生き方や!」


 


空は青く、風は優しい。


世界は今日も、どこかでボケている。


「さぁ、いこか! ツッコミは、止まったら終わりやからな!!」


 

====



旅立ちの日。

私は、ポチ、カイル、ミレイとともに、小さな村の門を出た。


 


「……なんかさ、エンディングっぽい雰囲気やけど」


「オレたち、これで終わりじゃないよな?」


カイルが、不安そうに聞いてくる。


「アホか。エンディングなんかボケの幻想や。ツッコミは、続いていくもんなんやで」


「かっけぇ……! 今のセリフ、ラストページに書いてそう!」


「お前が言うと全部安っぽなるわ!!」


 


ミレイがふわっと笑う。


「でも、本当に平和になったのね。詠唱詩に呪の一文字を入れなくなっただけで、なんて心が軽いことか……!」


「逆にちょっと心配やわ!? 大丈夫? 詩人としてのアイデンティティ!!」


「大丈夫よ。純粋な愛とツッコミの詩を書き始めたの」


「どこのニッチジャンル狙ってんねん!!」


 


ポチが、ふと歩みを止めて、振り返った。


「マナ。これから、お前のツッコミは何のためにある?」


 


私は立ち止まり、空を見上げた。

あの日、異世界に飛ばされたあの青い空と──同じ色の、今の空。


 


「──誰かを笑わせるためでも、正すためでもない。その人の孤独を、見過ごさへんためにあるんやと思う」


「……ふむ。見事な結論やな。まるで最終回みたいなこと言いおって」


「実際、最終回や!!」


 


カイルが背負った荷物の中から、バナナを出す。


「マナ! 見て! このバナナ、カーブしすぎて自分に戻ってきてる!」


「いや、どんだけ内省型バナナやねん!あとそれ、持ってくる意味あったんか!?」


「やっぱツッコミ最高!!」


「そやろ!! ツッコミ最高やろ!!!」


 


──笑いがあふれる。


この旅の間に、私はたくさんのボケと出会った。

でも、それ以上に──誰かと笑い合える幸せを知った。


 


「よっしゃ! ほな行くで、みんな!!」


「おーっ!!」


「新たな詩の旅路へ──いざ参らん!」


「次のボケに備えて、口のウォーミングアップは済ませとけよ」


 


 


ツッコミは、世界を救った。


けれど──まだ、救いたいものがある。


この世界のどこかで、


誰にもツッコんでもらえず、独りでボケている誰かがいるなら。


私は──その人に、届けに行く。


 


「私の名前は、辻本マナ。異世界で、レベル1から始めた──最強のツッコミ使いや!」


 


──そして旅は続く。


ボケと、笑いと、ツッコミが満ちる──世界のどこかで、誰かが笑えるように。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ