バカな奴とバカな俺
公務所を出ると、女将さんとマリンが待ってくれた。
「お待たせして、すみません。」
一礼した。
「別にいいよ。とりあえず、ここではマズイ。どこかに入ろう。」
なんでもない会話をしながら歩きだし、高級レストランの個室に入った。
「ここなら良いだろう。…ジン、私からは聞かない。だが頼りたくなったら教えな。」
その気遣いが嬉しかった。
「ありがとうございます。マリンはあまり心配してないけど、マリンも誰にも言わないようにね。」
「当然です。ごしゅ…ジン様が秘密にしていることは、誰にも言いません。」
「女将さんは、カンナからなにか聞いてます?」
「あの子も言っていい事と、悪い事の分別はついてるよ。だから、私は本当に知らない。」
「そうですね。女将さん、迷惑かけますが、頼った時はよろしくお願いします。」
「任せときな。それで話をした表向きの理由は、なんになったんだい?」
さすがだな。
「…そうですね。俺の祖父がリオンさんを世話した人でした。」
「ほぅ…。オーブリオンがあんたにリオン呼びを許すなんてね…。ただ、自分の都合で呼ぶんじゃないよ。あんたの発言や行動で、オーブリオンが傷つくからね。理不尽を受けた時の切り札として持っとくのが、一番良いからね。」
「それはもちろんです。リオンさんを怒らせるような事はしませんよ。」
「それは良かった。私もつまらない理由で死にたくはないからね。あれは化け物だ。私が相手するのは無理だ。」
いやいや、女将さんだけじゃなく、人である限り誰にも相手出来ませんよ。と言いたかったが、言えない。
話の後、昼食として食事をしたが、女将さんの料理の方が美味しかった。
それを女将さんに言うと、マリンが同意した。
それに対して、当たり前だよ。と言っていたが、嬉しそうだった。
【黒ランプ】に戻ると、師匠がカンナとエリーゼを自分の後ろに庇って、誰かと言い合いをしていた。
「…カンナと嬢ちゃんに触れんじゃねぇ!!」
「ボルドー、なに言ってるんだ。カンナは僕の婚約者じゃないか、カンナも僕に会いにきたんだろう?」
「うるせぇ!お前が勝手にカンナを婚約者って言ってんだろうが!俺とアンナ、それからカンナも一度たりとも、良いと言った覚えはない!!」
「シングルの癖に、口だけは達者だな。トリプルの街長の僕のお嫁さんになるんだ。悪い事じゃないだろう?ついでにそこお嬢さんも一緒にもらってあげる。」
なに言ってんだろう?あいつ…。
怒りももちろんあるが、ため息が出てしまう。
「女将さんあいつですか?面倒臭い奴は?」
「そうだよ。ジンなら飛び出すと思ったんだけどね。」
「会議の時にも思ったんですが、ちょっと昔の知り合いに似てて、少し驚いたっていうか呆れてましてね。まぁ、師匠が守ってくれているのが、一番大きいですよ。どんな奴なんですか?」
「そうなのかい?まぁ、あんな奴はどこにでもいるからね。あいつの名前は、シンツーって言ってね。レベル8なんだけど、トリプルの街の【ランローバ】の街長で、自称カンナの婚約者さ。シンツーは今、結婚してる奴が5人いるんだが、どれもシングルやダブルの街から半ば強引に結婚してるんだ。向こうは善意なんだろうが、こっちはいい迷惑を越えて害悪さ。」
そうなのか…。やっぱり、なんか似てるな…。
それにしても、シンツーって…。もう少し考えろよ。アイドルが少し可哀想だ。
そう。俺が殺しかけた、慎二にそっくりだった。
それにしても…。本当にため息がでる。
それとありがとう。リオンさん…。早速役に立ちそうです。
だが、一応女将さんに確認しておこう。なんかやらかすかもしれないからな。
「今こそ、虎さん…リオンさんの力を借りる時ですよね。」
「そうだね。あいつには凄く効くだろうね。」
悪い笑顔で言ってきた。
大丈夫みたいだったので、
「すみません。私の仲間兼婚約者達になにか用ですか?」
仲間兼奴隷じゃ、俺が思うバカなら、なに言うか分からないからな。念のために言った。
カンナとエリーゼは顔を赤く染めていた。
師匠がなにか言おうとしたが、女将さんにボディブローをされて悶絶していた。いつの間に…。
「なにを言う。君は確か、アークを殺した成り上がり君か…。カンナは僕の婚約者だ。」
俺は成り上がったのか?よく分からん。
そんなバカの言った事よりヤバイ…。マリンの機嫌が…。
「違いますよ。カンナとエリーゼ、そしてこちらのマリンは三人とも私の婚約者です。」
ふぅー。危ない、危ない。俺は無罪だ。なんに対してかは分からないが…。
マリンの機嫌が少しマシになった。
「なに?この美しい女性を3人も娶るのか?それは不義理ではないのか?」
こいつはなに言ってんだろう?
ブーメランって言葉をこの世界にはないのかな?
本当に面倒臭い…。さっさと虎さんの力を借りれば良かった。
そんな事を考えてると…。
「なんだ。僕の言った事で改心したか。お前はそっちのマリンという女だけで我慢しとけ。」
くそっ、また失敗した。早く虎さんの力を出せば良かった。
マリンがなんとも言えない顔になっている。多分、選ばれなかったのは良かったが、選ばれないのはなんか嫌なんだろうな。
カンナとエリーゼは顔がさっきまで赤かったのに、今は青くなっている。こちらは選ばれて最悪って感じかな。
これ以上、変な空気にならないように早く終わらせよう。
「すみません。私の婚約者ですので、誰も渡せません。【ランローバ】の街長なのにこんな事が許されるんですか?」
「当たり前だ。なんたって、トリプルの街長だからな。」
なんか威張っていた。
「そうなんですか…。リオンさんに言っておかないとな…。」
ギリギリ聞こえるくらいで呟いた。
「ちょっと待て!お前はオーブリオン様の事を、僕でも呼ばせてくれない、オーブを抜いて呼ぶとはどういう事だ!!」
おぉーっ。リオンさんの事、リオンって呼ばせてもらうのってかなり凄い事なんだな…。
しかも、こいつリオンって呼ばないように、「オーブを抜いて」なんて言ってるし…。少し面白いな。
まぁ、従神様だからな。
早く終わらせよう。
ペンダントを出して、
「もし、理不尽な事があったら、俺の名前出していい。って言われてるんですよ。リオンさんにね。」
リオンさんの名前を少し強調した。
「くっ…。権力や力に頼るとは卑怯だぞ。お嬢さん方、今は撤退しますが、いつか悪の手から救ってみせます。」
そう言い残して、シンツーはどこかに走っていった。
突っ込みどころが複数あったが、シンツーはもういないので、どうでもいいか。
バカの事よりマズイな…。この状況…。
師匠は俺の事睨んでいるし、女将さんはこの状況を笑ってみてる。
そして…三人は、一人は選ばれなかったのが、嫌だったのか不機嫌で、二人はそんな一人を慰めているが、なんだか嬉しそうだ。あいつに選ばれた事がそんなに嬉しいのか?
「マリン、あんな奴に選ばれなくたって良いじゃないか。俺はマリンを一番愛してる。それだけじゃあダメなのか?」
「っ…、そんな事ありません。私はご主人様がいるだけで良いんです。」
マリンの機嫌が180度変わった。
助かった…。と思っていると、アラームが鳴った。
「ほう…。ジンよ…。カンナは一番じゃないのに、婚約者と言ったのか?」
殺気を込めて、笑顔で師匠が言った。女将さんも笑顔で楽しそうにこちらを見ていた。
助けを求めて二人を見ると、さっきまで機嫌が良さそうだったのに、悪くなって俺と目を合わせない。
カンナはふてくされてるし、エリーゼは悲しい顔をしていた。
この喜怒哀楽が入り混じった空間にいるのが辛かった。
俺はどうしたら良かったんだ。と誰かに言いたかったが、言っても俺が欲しい答えが返ってくる訳がない。
なにが悪かったのか分からないこの状況が早く終わるのを願った。
しばらくするとその願いは叶った。
師匠が、
「まぁ、その事は忘れて鍛練でもしよう。」
全然忘れてない感じで言ってきた。
アラームがまだ鳴っていた。だがこの状況から抜け出せるならと、「はい。師匠。」と言うと、
「それじゃあ、ついて来い。」
「えっ…いつもの鍛練ならここでも出来ますよ。」
「ここじゃあ、建物が壊れるだろう。迷宮にいくぞ。」
なにそれ…。だが答えられるのは一種類しかない。
その後、師匠と一緒に鍛練という名のなにかを受けた。
終わったのは、日付が変わった頃だった。
変わった頃に女将さんが助けてくれた。
適度に休ませてもらっていたが、開始2時間で100年の寿命が削れた。途中で限界突破組が上がった事と、【真回避】が【超回避】に昇華したおかげで、師匠の攻撃が当たるまでの時間が延びて、生きて帰ってこれた。
たったの半日くらいで、寿命が300年も減った。
やっぱり寿命は大切だ。レベルが上がってて良かった。
師匠のなにかを受けた後、【黒ランプ】に帰ると三人が待っていた。
なんか疲れているので、その事を言うと、カンナが「ジン様は、疲れないでしょう。」の言葉に二人が同意して、波状攻撃を受けた。
今日の夜は、マリンはなんだか優しくて、早めに満足していたが、カンナとエリーゼは違った。
カンナとエリーゼのコンビネーションで、俺の弾がなくなり撃墜した。
戦いは早朝まで続いた。
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