716.アーネストside74
「さぁ、こちらへどうぞ。何もない部屋ですが、ここではヴィシュヌに話を聞かれる事も、覗かれる事もありませんから」
「!!」
メシアに通され、部屋の中に入る。
部屋の中を見渡すと、必要最低限の物以外は何も無い。
大体人の部屋にはその人の個性が出るもんだが、この部屋は人が住んでいる、という生活臭がしない。
「はい、どうぞ。お口に合えば良いのですが」
メシアが指をパチンと鳴らすと、どこからともなくテーブルが現れ、その上には今入れたばかりとでも言うように、湯気が出ている紅茶の入ったカップが置いてある。
紅茶、だよな?
「あ、コーヒーの方が良いですか? 好きな物を創れますよ」
「ああいや、これで良……今作るって言ったか?」
「はい、正しくは模倣ですね。すでにある物を魔力で創っています」
「……」
「アーネスト。姉様は自分でなんでも創り、消すんだ。だから、この部屋には何もない……というか、必要が無いんだ」
成程……蓮華が出来るけどやらない事を、こいつは呼吸するように簡単にやってるって事か。
常識が俺達とは間違いなく違うんだな。
「あらあら。アクエリアスったら、そんなにひっついて。妬けてしまうわ」
「からかわないでくれ姉様……。私はアーネストの騎士となった。ただ忠誠を誓った相手に助言をしていただけにすぎない」
俺の耳元で話していたからだろう、そうメシアにからかわれる。
これを見るだけでも、姉妹仲は良いのだろうと思う。
創られた椅子に腰かけ、置かれたカップに手を伸ばす。
「!? ……うご、かねぇ!?」
「あら……? あっと、失礼しました。いつも通り重力を掛け過ぎていましたね。今解除します」
メシアが指をパチンと鳴らすと同時に、カップが急に軽くなった。
「ごめんなさいね。鍛錬の意味でも、いつも負荷を掛けながら過ごしていて。それが通常だからうっかりしていました」
「……」
違うな。今のはわざとだろう。
メシアは俺の力を計ろうとしている。
アクエリアスを下した俺の力が、どこまでのものなのか。
「勘違いしてるみてぇだけど。俺は普段から力を出してるわけじゃねぇぞ?」
「……そのようですね。純粋な神とは違うという事ですか」
兄貴や母さんから聞いた。
神は力の上限が決まっていると。
人間や他の生物のように成長する事が無く、だからこその神なのだと。
だけどこいつは、鍛錬をしていると言った。
それはつまり……
「メシア、お前も純粋な神じゃないって事か……?」
「アーネスト!?」
「……。……その通りです。私の本当の名前はファルネウス。幾千もの昔、創造神・デュナミス様に助けられた、ただの人です」
「なっ!? 姉様!?」
アクエリアスの驚きよう、もしかして姉妹にすら話してなかったのか?
いや、人が本当なら、姉妹ではないって事か……?
「私とアクエリアス達が姉妹である事は本当ですよ。デュナミス様のお力で、私の力を混ぜて創られた子達ですからね」
「「!!」」
それだと親と子なんじゃ……とも思ったが、そのデュナミスってのが親だとすれば、姉と妹達って事か。
「そのお前達の親でもあるデュナミスが、ヴィシュヌに囚われてるんだったな?」
「……そうです。私は、私達はだからこそ、表立って逆らう事は出来ません」
それだけ大切な存在って事か。
俺だって兄貴や母さんが人質に取られたら、従うしかねぇってなるから、気持ちは分かる。
いやあの二人が捕まるとか想像もできねぇけど。
「そのデュナミスってのは、あんまり強くないって事か?」
「そんな事はありませんよ。今の私でも、遠く及ばない程の力をお持ちのお方です」
「!!」
正直、メシアから感じる力は想像以上だった。
その力のメシアよりも、遥かに上だってのか。
「ヴィシュヌってのは、そんなに強いのか……」
「そうですね。力の強さというよりは、その特殊能力のせいと言えます。いえ、勿論力も強いですが、デュナミス様と比べるならば……蟻のようなものでしょう」
「……」
いや蟻て。
これ、メシアはかなり鬱憤が貯まってんじゃねぇか?
「現状、デュナミス様を封じている楔は六つ。そのうち四つまでは、私達で解除する手筈を整えられました。ですが残り二つのうち、一つが私達では手が出せません」
「つまり、その一つを解除するのに、俺の力を貸して欲しいって事だな?」
「はい。その鍵がある世界の名は、『ラース』……貴方が居た世界です」
「!! そんで、俺に何をして欲しいんだ?」
「『ラース』にある『龍脈のオーブ』を12個、持ち帰って欲しいのです」
「なっ!?」
それは、蓮華が魔力を込めたやつだよな!?
それを持って来いって!?
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