21.王都・エイランド
泉の前で向かい合う私とアーネスト。
「俺も最後のオーブに行くとするよ。まぁ大丈夫だと思うけど、蓮華も気をつけろよ?」
「分かってるよ。最後まで気を抜かないさ。お前も油断なんてして怪我するんじゃないぞ?相手が気の毒だからな」
その言葉に苦笑するアーネスト。
「あ、ああ。肝に銘じてるよ」
それは、今も心配そうに見送ってくれてる二人の為だ。
「アーちゃん、レンちゃん。気を付けるんだよ?何かあったら、すぐ帰ってくるんだよ?」
「アーネスト、蓮華。危ないと感じたら、退くのもまた勇気ですよ。大丈夫、邪魔なモノは全てこの私が排除してあげますからね」
なんて過保護すぎる二人に苦笑しながら。
「「行ってきます!」」
と言って、ポータルを起動させた。
その瞬間、王都・エイランドに到着する。
あれ?っと思う。
周りに誰も居ないのだ。
関所にも、ここから見る限り誰も居ないみたいだし、
この国の兵の人が待ってる風でもない。
以前までは母さんか兄さんが、話を通してくれていたみたいで、すぐに話が進んだんだけど。
とりあえず、関所の方に行ってみるかな?と歩き出したら、なんか向こうから車が飛んできた。
そう、飛んできたのだ。
タイヤが大地に着いていない。
目の前で車が止まる。
タイヤは着地の為だけについてるのか。
「はろー蓮華様。レンちゃんで良い?アタシはバニラ=ハーゲンダッツって言うの」
「アイスかよ!?」
突っ込んでしまった。
ヤバイ。
「ふふ、やぁっぱり。この名前にそう反応するのは、地球人よねぇ?」
なんて、言ってきた。
衝撃を受けると同時に、警戒レベルを最大まで上げる。
「あぁん、そんな目で見ないでレンちゃん。アタシ、転生者なの。レンちゃんなら、この意味分かるでしょぉ?」
転生者……成程。
もしかしたら私と同じ世界から来たのかもしれない。
「お互い話をしたいわよねぇ。だから、乗って?アタシの家へ案内するわぁ」
「私は、王宮からオーブの元へ案内してくれる人を待たないといけないから」
ついていきたいし、話も聞きたいのは山々だけど……当初の目的を忘れるわけにはいかない。
「あぁ、それなら大丈夫よん。アタシがその案内する者だからぁ。ロイヤルガードが一人、バニラ=ハーゲンダッツとはアタシの事よぉ」
なんて、ウインクしてきた。
うっそん……。
驚いている私に言う。
「この世界に、テレビや車を広げたのはアタシなのぉ。ビックリしたぁ?これでも300歳は超えてるおばぁちゃんだったりするのよぉ」
「マジですか……」
もはや、恥も外聞もなく言ってしまった。
「人間じゃないのに転生してしまったんですね」
と。
「あ、あらぁ。そっちに驚くのねぇ。面白い子だわぁレンちゃん」
とりあえず、悪い人?じゃなさそうだし、案内者って事だから、ついて行く事にした。
「それじゃ、飛ばすわよぉ!」
ブォン!
という音と共に、走り出す。
「ちょ、ちょっと!?街中をこのスピードで走るつもりですか!?」
なんせ、車のメーターを見るに、120kって出てるのだ。
「だーいじょうぶよぉレンちゃん。当ててぶっ飛ばしても、回復魔法かけておくから死なないわよぉ」
「そーいう問題じゃなぁーい!!」
私の叫びが木霊する。
結局、誰もひかなかったが、物凄く心臓に悪い運転だった。
この人、頭がぶっ飛んでる、間違いない。
「ぜぇっ……ぜぇっ……」
なんで助手席に座って疲れにゃならんのか……。
「ほらレンちゃん、中に入りましょーよぉ」
「くっ……誰のせいで!」
キッと睨むのだが。
「レンちゃんったら可愛い」
何の意味もなかった。
泣きたい。
そして屋敷の中へ入る。
この屋敷も大きかった。
カレンとアニスの豪邸程じゃなかったけれど、十分な大きさだ。
だけど、異様なのは。
「なんで入ってすぐの居間があるべき場所に、地下に続く階段があるんですかね……」
もはや、秘密基地かよ!っと突っ込まなかった自分を褒めたい。
「うふふ、秘密基地みたいでしょーぅ?」
「お前が言うんかいっ!」
もう、最初からずっとこの人?に翻弄されっぱなしである。
ニコニコと笑っているこの人が言う。
「レンちゃんって楽しい。私にそんなに突っ込んでくれる人、今まで居なかったのぉ。嬉しいわぁ」
周りの人、言ってやってよ。
本当にお願いします……。
この話が一向に進まない感じ、何とかしてください。
「ふふ、安心してレンちゃん。オーブのある場所にはねぇ、この地下の先から行けるからねぇ」
「!?」
衝撃だった。
まさかちゃんと案内してくれてたなんて。
いや、そーじゃない。そーじゃなくて。
「えっと……気のせいか、水の中に見えるんですけど」
そうなのだ。
水族館とでも言おうか、ガラス張りで外を見れば、魚が泳いでいるのだ。
「そうよぉ。オーブは海底にあるのよねぇ」
マジですか……今度は海底ですか。
これ、溺れたら助からないんじゃ……。
「だーいじょうぶよぉ。酸素を作る魔法も、魔道具も、ちゃんと開発してるんだからぁ」
魔法はともかく、魔道具!?それも、今開発って言った!?
「うふふ、驚いてるわねぇレンちゃん。アタシね、物を創るのが昔から大好きだったの。だから、元の世界にあったものは大抵作ったし、この世界に適応させるのも楽しかったわぁ」
その言葉に、更に驚いた。
この人は、本当に凄い人だという事を理解して。
「アタシはねぇ、レンちゃんのように強くはないかもしれない。だけど、物を創るっていう点でならぁ、誰にも負けないと自負してるわぁ」
私は初めて、母さんや兄さんとは違う意味で、尊敬できる人に出会えたのかもしれない。
ちょっと、頭おかしいけど。
「さぁてレンちゃん、まずはアタシの事を話すわねぇ。レンちゃんの事は、アタシの話を聞いてから、話せる所までで良いからねぇ」
「そんな私に好条件で良いんですか?」
「えぇ。アタシ、雰囲気でなんとなくだけどぉ、信じられるかどうかが分かるのよぉ。それでなくても、精霊様の加護を受けているレンちゃんが、悪い人なはずないからねぇ」
精霊様の加護?もしかしてウンディーネが何かしてくれたんだろうか。
バニラさんが話を続ける。
「アタシは今から320年前、この世界へ生を受けたわぁ。と言っても、最初はこの世界の事しか知らなかったのよぉ」
「もしかして、いつからか前世の記憶を取り戻したって事ですか?」
「そうよぉ。大体100年くらい経ってからだったけどねぇ」
それはまた、普通なら人生終わってるよ。
「でもねぇ、前世でもアタシは、別に交通事故や突然死だったわけじゃないのぉ。ちゃんと寿命まで精一杯生きて、家族に看取られて亡くなったわぁ」
家族に看取られて……か。
それは、良い人生だったんだろうな。
「アタシは良い親じゃなくってねぇ、ずっと研究にかまけてて、夫も子供も、ほとんどほったらかしだったわぁ。だというのに、アタシなんかを大事にしてくれて、死ぬ時なんて、泣いてくれて……嬉しかったのを思い出したのぉ」
「……」
何て言ったら良いか分からなかった。
私は三十五年しか生きていない。
そんな私では、声を掛ける事が躊躇われた。
「だからねぇ、今度の人生では、皆の役に立てるように生きようと思ったのぉ。前世での記憶を頼りに、色々開発していったわぁ。この世界の人達が、幸せに生きられるようにねぇ」
この人は、凄く立派な人だと思った。
第二の人生、好きに生きたって良かったはずだ。
その知識を生かして、どんな生き方だってできたはずだ。
なのに、その力を皆の為に使っている。
尊敬すべき人だ。
そう思った。
「レンちゃん、アタシはね、だからレンちゃんを尊敬してるのぉ」
え?なんでその流れで私を?
疑問が顔に出ていたのか、バニラさんが続ける。
「レンちゃんは、この地上を守る為に行動してくれてる。レンちゃんがどう考えているかは分からないけれどぉ、それって凄い事なのよぉ?誰にでもできる事じゃないのぉ」
そう、なんだろうか。
私にはよく分からなかった。
「うふふ、だからねぇ。アタシに協力させて?この地上に生きる皆を守る為に、アタシの知識と力を、レンちゃんに使わせて頂戴」
その、言葉に。
「バニラさん、よろしくお願いします」
と頭を下げた。
こんなに凄い人に協力してもらえるなら、こちらから頭を下げるべきだ。
そう思ったから。
「レンちゃんは良い子だねぇ。礼儀を知ってる。敬う事を知ってる。うん、アタシレンちゃんの事気に入っちゃったぁ」
「バニラさんは、尊敬できる人です。その、行動はハチャメチャでしたけど。でも、心に芯が通ってる。そう感じました。だから……信じます、貴女の事を」
手を差し出す。
バニラさんは驚いた顔をしたけれど、しっかりと握り返してくれた。
「よろしくねぇ、レンちゃん。アタシの自己紹介は以上だけれど、レンちゃんの事を聞かせて貰っても良い?もちろん、話せる所までで良いからねぇ」
そう言ってくれるバニラさんに、私は全て話す事にした。
この人なら、信じられると思ったから。
そしてそれは、決して間違いじゃなかったと思う。




