19.束の間の休息
2つ目のオーブへの魔力の注入も無事終わり、数日かけて王都・フォースに帰ってきた。
カレン、アニスの二人とも、今日でお別れだ。
「「嫌です蓮華お姉様ぁぁぁー!!」」
と言って離れないのをどうしようか。
ほら、ポータルの前で二人がそんな事言ってるから、通行人の人達が驚いてるよ。
ん?驚いてる?
そこへ、もう一人のインペリアルナイトであるセシルさんがやってきた。
「お勤めを無事終えられた事、まずは感謝を、蓮華様」
恭しく礼をする。
こちらも礼を返す。
「いえ。カレンとアニスの助けがあればこそですよ」
と笑顔で返す。
その言葉に驚いた様子のセシルさん。
「蓮華様は、不思議な方ですね。カレン卿にアニス卿が呼び捨てを許容するなんて、今まではあり得ませんでした」
そんな事を言ってくる。
そんな事言われても、なんでかこうなっただけだしなぁと。
「ほらカレン、アニス、そろそろ離れて。私帰らないといけないし」
「「嫌です蓮華お姉様!」」
……これだもんなぁ。
どうすれば良いんだ。
そんな時に、セシルさんが助け船を出してくれた。
「カレン卿にアニス卿、蓮華様はまだ、お勤めがあるのだ。我儘を言うものではない」
その言葉に、うっとなった二人は、渋々私から離れる。
「ありがとうセシルさん」
「いえ。ですが、こちらとしても驚いているのです。まさかカレン卿にアニス卿が、女性である貴女にここまで心酔するとは、と」
「あぁー……」
言葉を濁す。
だって私も驚いてるからね。
そんな事を言っていたら、二人がとんでもない事を言い出す。
「「私達は蓮華お姉様の物ですから」」
その言葉に凍りつく私とセシルさん。
周りで見守っていた人達も、信じられないモノを見た顔をしているのが分かる。
氷からいち早く溶けた私は叫ぶ。
「だから、誤解されるような事を言うなと言ってるでしょー!?」
それはもう全力で。
セシルさんが少し笑っている。
「ふふ、まさかカレン卿にアニス卿がそこまで……蓮華様、いったいどんなマジックを使ったんです?」
なんて、心底興味深そうに聞いてくる。
「さ、さぁ。私もなんでこうなったのかさっぱり……」
と素直に答えたんだけど。
「成程、無自覚なのですね。もしかしたら蓮華様は、天性の人たらしなのかもしれませんね」
なんて笑顔で言ってくる。
いやいや、私はモテた事ありませんよ。
モテてたら独身でいませんって。
考えてて悲しくなってきた。
「蓮華お姉様、本当に行ってしまわれるのですか?」
なんて悲しそうな顔で言ってくるカレン。
いや、そりゃね……。
「うん、まだもう一つのオーブも行かなきゃならないし、もう半分を行ってくれてる奴が遅かったら、手伝うつもりだし。まぁ、あいつの事だから大丈夫だとは思うんだけどね」
と苦笑しながら言ったら。
「「蓮華お姉様、あいつとは誰ですか」」
なんて姉妹揃ってくいついてきた。
えぇぇ……そこにくいつくの。
「ほら、二人は聞いてるんじゃない?私ともう一人、オーブの事で旅立った人が居るのを」
その言葉に。
「「あぁ!」」
と納得したようだった。
なんでこの二人、私が絡むとアホになってるんですかね……。
それを見ていたセシルさんが凄い笑っている。
「ははっ……蓮華様といるカレン卿にアニス卿はとても楽しそうだ。願わくば、蓮華様にはこの国に居て貰いたい程だ」
なんて言ってきた。
私は苦笑する。
「しかし、それが今はできないのは重々承知しております。ですから……また、いらしてください。我々は蓮華様をいつでも歓迎いたします」
そう、言ってくれた。
「はい、ありがとうございます」
と笑顔で答えておいた。
そうしたら、カレンが私を真剣に見つめてくる。
「蓮華お姉様、私、絶対に蓮華お姉様に追いついて見せます。妹と一緒に。だから……待っていてください。必ず……蓮華お姉様のお役に立てるように、力をつけておきます」
なんて、決意を秘めた眼で言われたら。
「うん、楽しみにしてるね」
と、言うしかないじゃないか。
その言葉に。
「「はいっ!蓮華お姉様!」
とびきりの笑顔で言ってくれたのは、言うまでもない。
二人とセシルさんを背に、ポータルを起動する。
「またね」
そう一言残して。
泉へついた。
一瞬すぎて、なんだかなぁという気持ちになる。
家へと歩く。
外からだが、なんだか声が聞こえる。
もしかしてと思い扉を開ける。
「ただいまー」
「レンちゃぁぁぁぁんっ!!」
なんて言いながら母さんが抱きついてきた。
エスパーかこの人は。
「か、母さん、相変わらず苦しいから!」
でも離れない。
「だって、だってぇ。レンちゃんが全然帰ってこないから、心配で心配でぇぇぇ……」
全然って、まぁ確かに前回より長かったけど、遠かったんだから仕方ないじゃないか。
「ああ蓮華、無事で良かった。私ももう少し遅ければ、遺跡へ向かう所でしたよ」
と兄さんがアーネストを抱えながら言ってきた。
なにしてんだこの人。
「お、おぅ蓮華。兄貴をなんとかしてくれ。さっきから抱きついて離れないんだよ」
あぁ……。
「私もその洗礼は受けたから、諦めろアーネスト……」
と今もなお母さんに抱きつかれてる私が言うのを見て、アーネストががっくりと項垂れる。
でも、ふっと顔を上げて。
「「ぷっ……あははははっ!」」
なんて、二人してお互いを見て笑ってしまう。
それを見た母さんと兄さんも、つられて笑う。
あぁ、私はこの三人が大好きだ。
それから居間へ入って、アーネストと情報交換をしあう。
母さんと兄さんも、横に座ってニコニコしながら話を聞いている。
「なんでっ……なんでだっ!蓮華にばっかり女の子で、俺は野郎共ばっかりとかイジメかっ!」
と叫んだ。
「そう言われても……」
なんとも言えない私だった。
アーネストは、聞けば最初の1つ目は私より遅かったが、2つ目が私より少し早かったみたいだ。
私の少し前に帰ってきて、今に至るというわけだ。
「まぁ何にしても、あと1つずつだし。まだ時間もかなり残ってるし、ちょっと休息してから、次は行かないかアーネスト。せっかく会えたんだし」
その提案に。
「おぅ、そーだな。俺もそうしないかって言うつもりだったんだ」
と乗ってくるアーネスト。
その言葉に、明らかに嬉しそうにする人達が二人。
うん、何も言わないよ。
アーネストも気付いてるけど、触れない。
だって言ったら、先が分かるから。
話題を変えるように、思い出したので伝える。
「そいえば、2つ目のオーブの所に、魔神・ゼクンドゥスってのと会ったんだけどさ」
その言葉に、母さんと兄さんの表情が変わったのを、私は見逃さなかった。
アーネストは、魔神?ってなんだそれって感じだ。
「私も種族については知らなかったんだけど、強かったよ。ちょっと本気出しちゃったよ」
「蓮華が本気出したのかよ。そいつはやべーな……」
アーネストが深刻そうな顔で言う。
「蓮華、帰ってこれたという事は、見逃してもらえたのですか?」
兄さんがそんな事を言う。
「ううん、ちゃんと倒したよ?マルコゲにして」
その言葉に驚いた顔をした兄さんだったけど。
「……成程。マーガリン師匠、アーネスト、蓮華。私は少し出ます。すぐに帰ってきますから、心配しないでくださいね」
と言って、外に出てしまった。
なんだろう、兄さんが外に出るなんて珍しいな。
母さんを見れば、真剣な表情をしている。
どうしたんだろう。と思っていたら
「アーちゃん、レンちゃん。少しの間ゆっくりするんだよね?なら、まずはお風呂に入ってらっしゃい。その間に、おいしいご飯を用意してあげるからね」
なんて言葉に。
「「はいっ!」」
アーネストと揃って言ったのは言うまでもない。
-ロキ視点-
ここですね。
アーネストと蓮華が住む場所とは遠く離れた地、魔界。
その更に奥地。
魔界に住む者でも、滅多に近寄らない僻地に来ていた。
「居るんでしょうゼクス。入りますよ」
扉を開け、中に入る。
そこには、グラスを傾け、上質と見て取れるワインを飲みながら、読書に耽る男がいた。
魔神・ゼクンドゥスだ。
「おお、ロキではないか。どうした、お前ほどの神が、俺を尋ねに来てくれたのか?」
と上機嫌に答える。
その理由は察しているが、それを思い通りにしてやるつもりはない。
だからこそ、私は来たのだから。
「ゼクス、少し前に少女と戦いましたね?」
その言葉に、僅かに動揺したのを私は見逃さない。
「あぁ、答えなくて構いませんよ。知っていますのでね。それについて、一言だけ言いに来たのですよ」
ゼクスは黙って聞いている。
「もし、彼女を殺したら……お前を殺す、ゼクス」
と、凄まじい魔力と殺気を込めて言い放つ。
それには驚いたのか、慌てて言う。
「な、何故だ。お前ほどの神が、たった一人の人間の女に、そこまで入れ込むというのか!?」
フン、と鼻を鳴らす。
「アレは人間ではありませんよ。だが、神でも無い。私の興味対象です。それを消す事は、この私が許さない。貴方は顔が広い、他の魔神達にも知らせておきなさい」
ゴクリ、と唾を飲み込むのが見える。
「わ、分かった。俺もロキを敵に回したくはない。だが、遊ぶのは構わんだろう?」
あまり束縛しすぎるのも良い結果にはならないか。
そう判断する。
「良いでしょう、そこまで貴方達を制限するつもりはありませんから」
と答え、その場を後にした。
-ロキ視点・了-
お風呂から上がって、食事をしている時に兄さんが帰ってきた。
「お帰りなさい兄さん」
「お帰り兄貴!」
二人で笑顔で迎える。
そんな私達に。
「ああ、ただいまアーネスト、蓮華」
と笑顔で言ってくれた。
相変わらずのイケメンである。
この人に愛の告白をされて、断れる女性なんて少ないと思う。
「あ、お帰りロキー。無事に終わった?」
なんてよく分からない事を母さんが言っている。
「ええ、大丈夫ですよマーガリン師匠」
と兄さんが答えた。
「そっか、流石ね」
と母さんと兄さんが答えるのを、不思議な感じで私達は眺めていた。
そして食事を終えて。
「なぁ蓮華、ちょっと良いか?」
なんてアーネストが言ってきたので。
ぐでーっとソファーで横になっている私は言う。
「めんどくさいからパスー」
と。
「なんでだよ!めっちゃ暇そうだろ!付き合えよ!」
なんて言ってくる。
「アーちゃん、レンちゃんが可愛いからって、無理やり付き合えはダメだよー?」
なんて母さんが悪乗りする。
「ちっがーう!俺は蓮華になんか全っ然欲情しませんから!まだ母さんのが魅力的だから!」
と全力で答えてる。
母さんのが魅力的なのは認めるけどね。
「言ったなアーネスト!?」
と悪乗りに便乗する私。
「ああ言ったね!真実だからな!」
「オーケィ、表に出ろアーネスト。一回ボコボコにしてやる!」
「望むところだ!」
「ボコボコにされるのを望むなんて、アーネストったらMだったのか」
「ちげぇよ!?分かってて言ってるだろ蓮華!?」
「もちろん」
「くぅっ……!」
っていう漫才みたいな話をしながら外へ出る私達を、母さんと兄さんは笑って見ていた。




