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――同時刻。ドームの屋上。
「ふぉふぉふぉふぉ……。どんどんバラ撒け、皆の衆!」
神様というか、「尿神」こと長之介が楽しそうに命令していた。銃身丸出しで。
「良いのですか、ご隠居。このような真似をして」
二回戦で伍朗に敗れた尿紳士、鳳凰院もここにいた。同じく銃身丸出しで。
「心配するな、鳳凰院の。日本ニョーイ界の重鎮たるワシが音頭を取っとるんじゃ。誰にも口出しはさせんよ」
「はぁ……。まあ私とて彼らを祝福したいのは同感ですが」
なぜかドーム屋上には……ざっと数えて総勢十四人。全員が男、というより全員ニョーイスト。表彰台に立つ伍朗と廉士を除いた、三位以下のメンバーだった。
みな一様に、腰には太く頑丈なロープを結びつけている。なにせ足場の悪い高所なのだ。滑落防止用だろう。
そう、伍朗たちを祝福した雪の正体は――ニョーイストが互いに放尿をぶつけ合い、飛沫が雪の結晶を作り出した人工の――いや「人尿」の雪だったのだ。
「ふぉーふぉふぉふぉふぉ。これぞシーズン限定の合体奥義『ホワイト・クリスマス』じゃ! ニョーイストにとって、これ以上の祝福はあるまいて! ふぉーふぉふぉふぉふぉふぉふぉ!」
高笑いする長之介。
「ん? どうしたんじゃ鳳凰院の、それにダニエルの。皆の衆も。放尿の勢いが落ちておるぞ」
ここに集めた連中は、この程度で残尿が尽きる手練れではあるまいに。
「……あ、いや、ご隠居……う、う……後ろ……」
「ふぉ?」
鳳凰院がブルブルと震える指で、長之介の背後を指さす。
そこには――全身漆黒のメイドがいた。
安全用ロープも何も身につけず、ただ己の足のみでドーム屋根を踏みしめる。
「皆さま揃って、どちらにおいでかと思えば……そのようなお戯れを……」
「ふぉふぉ、ふぉ……。まあ落ち着けメイドさんや。これはニョーイストとして最大のなぁ……」
ごきっ、ごききっ。
指の骨を鳴らす音が夜空に響いた。わりとリアルな殺意を伴って。
「ま、まってくれ。これはご隠居の命令で……我々は仕方なくっ!」
「一人あたり完全沈黙まで二秒として……ああ、意外に短いですね。三十秒あれば済みますか」
「きっ、聞く耳持ってねぇぞ!?」
日本を代表する屈強なニョーイストたちが、情けないほど慌てふためいている。
「やむを得ん! 皆の者、一時撤退じゃ!」
「無理ですよご隠居っ! ロープで体固定してるじゃないですか!」
「ふぉー!? そうじゃったァ!」
「――では参ります。『冥土フィンガー終焉式』! お嬢様に尿を浴びせるとは何事ですかーーーっ!!」
「「もんごめりっ!?」」
「……あれ?」
「どうしたゴロー?」
「いや、なんかさ……雪の色が赤くなった」
「?」
【大会結果】
第一回 全日本ニョーイ選手権大会
・参加者数…四百九十二人
・総観客数…五万二千七百三十七人(立ち見を含む)
・優勝者名…前出 伍朗(日本橋ニョーイジム所属)
・入院者数…十四人




