エピローグ
――二○XX年 春。
この日本のどこか。
「おーい」
「何だよ、遅ぇよ」
ターミナル駅の構内で、二人の若者が言葉をかわす。
「悪い悪い。待ち合わせが本屋の前っつーから、三階で待ってた」
「あー、そっか。あっちも本屋あったな。『大型テレビの前』って言っときゃ良かった。俺も悪かったよ」
「まあお互い様ってことか。……でも二十分もヒマじゃなかったか?」
「いや、テレビ見てたからな。お前『ニョーイ』って知ってるだろ」
「なんか去年か一昨年ぐらいから有名になったスポーツだよな」
「さっきその会見中継が始まったとこ。四年に一度の世界選手権に日本人が初出場するんだってさ」
「ふーん」
さほど「ニョーイ」に詳しくなさそうな二人が、大型テレビを見上げる。
画面に映るのはジャージ姿の青年。緊張でガチガチになっている。記者に世界選手権出場の意気込みを訊かれるが、どうにも話が要領を得ない。
そこへ乱入してきたのが、隣の席にいた美少女。鮮やかなドレスを翻らせて、ロングヘアーは品のいい髪留めでサイドテールにまとめている。
少女は青年から強引にマイクを奪い取り、いかにして自分はこの駄馬を鍛えあげたか、本場のニョーイスト何するものぞ!と吠えまくっている。
「こ、この娘。やたら強烈なキャラだな」
「所属ジムのオーナー兼トレーナーって書いてるけど、まだ中学生いくかいかないか、程度か」
「すっげぇ可愛いのにな……」
「ああ、残念な美少女ってやつか……」
そこへ青年にマイクが戻され、もし日本円にして約八千万円の優勝賞金が手に入ったらどう使うか、記者から質問が飛んだ。
青年が「いや、賞金なんて残らずコイツらの懐に入っちゃうんで。俺は夕食のおかずが一品増えるくらいです」と暴露してしまったところに、隣席の少女からヒジ打ちが炸裂。おまけに画面外からメイドさんのアイアンクローまで飛んできた。
「あのメイドもすっげぇスタイル良くて俺好みなんだけど……」
「ああ、残念な美人メイドってやつか……」
ボロ雑巾にされた青年に二人は同情しながらつぶやいた。
「でも海外にタダで行けてテレビに出られて、あんな美人たちと知り合いになれるのか。ニョーイっていいな」
「おまけに賞金八千万だってよ。まだ競技人口そんな多くないみたいだし、俺もやってみようかな」
「立ち小便しながら飛んだり絵を描いたりするだけだろ。ちょっと練習すりゃ簡単だな」
「あのテレビの代表選手見てたら、今すぐでも勝てそうな気がする」
「たしかに。日本代表があんなザコだったら楽勝じゃん?」
テレビを指さして笑う二人の背後から、不意に声がした。
「くくくっ……。やめときや。お前らじゃ百回死んでも『アイツ』には勝てんわ」
「おい、今こっそり文句言ったの誰だ!? 出てこいよ」
「知るかよ。こんな人混みじゃ分かんねえって」
ごった返す人の波にまぎれ、もう声の主は発見できなかった。
「ま、いいか。そんじゃ映画に行こうぜ。もうじき次の上映が始まるぞ」
「ほんとだ。もう行かなきゃ。この中継も終わりっぽいしな」
若者たちはテレビの前から立ち去った。
「――それではお茶の間からの声援に、いつもの決めゼリフでお応えください」
「ごきげん尿(キラッ☆)」
――終――




