Prologue
鐘の音が聞こえる。
5時を告げる…学校のチャイム。
パシン、と心地よい音とともに、グローブに収まるボールの重み。
ナイスキャッチ!と嬉しそうに笑う、姉ちゃんの頬は夕日に染まっている。
上手になったね、仁。
まだまだだよ…と生意気なことを言って、俺はまっすぐにボールを投げ返す。
全力で投げてみるけど、姉ちゃんは余裕でキャッチ。
仕方ないよな。
姉ちゃんは、チームのエースなんだから。
俺達の少年野球チームに、ピッチングで姉ちゃんに敵う奴はいない。
女の子にしとくのは勿体無いなぁと、監督はいつも言っている。
良いなあ、と皆に言われる度に、良くなんてねぇよ、と答えながら…
俺は内心、誇らしくて仕方がなかった。
茜色に染まるアスファルトの道を、姉ちゃんと並んで家へ帰る。
仁は将来何になるの?
興味津々の姉ちゃんに、わざとぶっきらぼうに答える。
プロ野球選手。
本当!?と目を丸くして、ポジションは?と重ねて訊く。
…キャッチャー。
どうして?と訊かれて…別にどうしてでもないけど、と答える。
姉ちゃんはきっとピッチャーになるから、俺はキャッチャーになって、姉ちゃんをリードしてやるんだ。
恥ずかしいから、教えてやんないけど。
いいなあ、とつぶやく姉ちゃんに、何で?と訊く。
姉ちゃんは悲しそうな目で、夕焼けの空を見上げる。
私、女の子だから…プロ野球選手にはなれないもん。
そんなことねえよ。
姉ちゃん男より上手いんだもん、絶対なれるよ。
俺が言うと。
本当!?とまた目を丸くして、嬉しそうに微笑んだ。
ありがとう…仁。
夕日に染まったあの笑顔。
もう遠い遠い所に行ってしまったけど…
俺の胸の一番奥には、今も大切にしまってある。