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元ホームセンター店長、異世界で過剰防衛に目覚める〜ゴミスキル【鬼ごっこ】でタッチした瞬間に、傲慢勇者が全人類から殴られる〜  作者: 月神世一


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第一章 秋月冬夜の過剰防衛戦記

「村を焼いてバズりたい」ヤラセ勇者の襲来。ビビリな元店長は、震えながら『名刺』を差し出す

「あー、テステス! 配信映ってる? よし。えー、神チューブ(ゴッドチューブ)をご覧の皆様、勇者ゼロスです! 今日は辺境のポポロ村が、凶悪な魔物の群れに襲われているという情報を聞きつけまして——急行いたしました!」

ルナミス帝国と獣人王国の緩衝地帯に位置する、のどかなポポロ村。

その入り口で、白々しい作り声が響き渡っていた。

声の主は、白銀に輝くミスリルマントと神聖な鎧に身を包んだ美青年。炎上神ワイズの加護を受け、莫大な課金によってステータスを限界まで引き上げた最強の勇者、ゼロス・ディバインだ。

彼の周囲には、高価な機材を持った撮影スタッフと、重武装の凄腕傭兵たちがズラリと並んでいる。

「見てください! あの燃え盛る炎! 逃げ惑う哀れな村人たち! ああっ、悲惨だ! 神よ、なぜこのような悲劇を……! でも安心してください、この勇者ゼロスが、必ず魔物を討伐してみせます!」

ゼロスはカメラに向かって、ワザとらしく涙を拭うような仕草を見せた。

だが、カメラの死角になっている彼の顔は、下劣な三日月型に歪んでいた。

当然だ。

村を襲っている魔物——低級の死蟲機ネクロバグどもは、ゼロス自身が「魔物誘導香」を使って意図的に呼び寄せたものなのだから。

すべては、神々が運営する動画配信サイト『ゴッドチューブ』で再生数(PV)を稼ぐための、悪劣なヤラセ(炎上)配信だった。

「(ひひっ……いいぞ、同接がガンガン伸びてる! ワイズ様の言う通りだ、悲劇的であればあるほど馬鹿な視聴者は食いつく。ここで俺が村人を『ギリギリで』救えば、好感度もスパチャも爆稼ぎだ!)」

ゼロスは舌舐めずりをした。

彼の足元では、逃げ遅れた村の老婆が震えている。ゼロスはあえて助けない。魔物の鎌が老婆に振り下ろされる「最高の見せシャッターチャンス」を待っているのだ。

「(さあ、もっと絶望しろ! もっと絵になる悲鳴を上げろ!)」

魔物が鎌を振り上げた。

ゼロスが、悲劇のヒーローを演じるために剣の柄に手をかけた、その時だった。

「——お客様。当店での迷惑行為は、固くお断りしております」

震える、しかし妙に通りやすい平坦な声が、戦場に響いた。

ゼロスが苛立たしげに視線を向けると、そこには一人の冴えない男が立っていた。

年は20代半ば。薄汚れ、ところどころが不格好に膨らんだ作業着ツナギを着た、黒髪の男だ。

男の名前は、秋月冬夜あきつき・とうや

元・ブラック企業のホームセンター店長であり、現・ポポロ村のしがない一住民。

トーヤの足は、生まれたての小鹿のようにガタガタと震えていた。

顔面は蒼白で、脂汗が滝のように流れ落ちている。今にも胃液を吐き戻しそうな顔だった。

無理もない。トーヤの戦闘力は、この世界における一般人以下の「最弱」だ。

魔物に睨まれただけでショック死してもおかしくない。ゼロスが放つ圧倒的なプレッシャーの前に立つなど、本来なら自殺行為以外の何物でもないのだ。

死にたくない。関わりたくない。逃げ出したい。

トーヤの頭の中は、恐怖のサイレンがけたたましく鳴り響いていた。

彼の作業着が不格好に膨らんでいるのは、この世界に存在するタローマン(ホームセンター)製の『魔導防弾チョッキ』を、恐怖のあまり「3枚」も重ね着しているからだ。

それでも。

どれだけ足が震えても、トーヤは一歩も引かなかった。

彼の脳裏に、前世の忌まわしい記憶がフラッシュバックする。

上層部からの理不尽なノルマ。終わらないクレーム対応。人手不足による連続勤務。

そして——無理なシフトのしわ寄せを受け、過労で倒れ、二度と帰らぬ人となってしまった大切なアルバイト(部下)の顔。

『店長……ごめんなさい、今日のシフト、代わってもらえませんか……』

あの時、自分がもっと上層部に嚙みついていれば。

自分が、矢面に立って部下を守り切れていれば。

後悔と懺悔。それが、秋月冬夜という男の魂に刻み込まれた決して消えない呪いだった。

「(……もう二度と)」

トーヤは、ギリッと奥歯を噛み砕くほどの力で食いしばった。

「(もう二度と、俺のシフト(陣地)で、誰一人として欠けさせない……!)」

トーヤは大きく深呼吸をし、極限の恐怖を、長年のクレーム対応で培った「完璧な接客スマイル」の下に封じ込めた。

チャキ、チャキ、と。

重ね着した防弾チョッキと、ポケットに仕込んだ大量の防衛資材の音を鳴らしながら、トーヤはゼロスの目の前まで歩み寄る。

「おい、なんだテメェは! 撮影中だぞ、邪魔すんなゴミが!」

ゼロスがカメラの死角で、小声でドス黒い殺意を込めて凄んだ。

「これは失礼いたしました。私、この村でしがない裏方をしております、トーヤと申します」

トーヤは慇懃無礼にお辞儀をすると、作業着の胸ポケットから一枚の紙切れを取り出した。

それは、ポポロ村の村長名義で書かれた『即時退去勧告書』——トーヤなりの「名刺」だった。

「こちら、当村からのささやかなお願いでございます。直ちにお引き取りいただけない場合、少々『手荒な対応』をとらせていただくことになりますが」

「……はっ?」

ゼロスは、トーヤから差し出された紙切れを見て、ポカンと口を開けた。

そして次の瞬間、腹の底から馬鹿にしたような爆笑を漏らした。

「ぶあっはははは! なんだお前、頭湧いてんのか!? この俺に、勇者ゼロス様に退去勧告だと? たかが魔力ゼロの農民風情が、どうやって俺に手荒な真似をするってんだよ!」

ゼロスは苛立ち任せに、トーヤが両手で差し出していた紙切れを『バァン!』と勢いよく払い落とした。

紙切れが、宙を舞う。

その瞬間。ゼロスの厚い手袋越しの手が、トーヤの指先に「ガツッ」と触れた。

——接触、確認。

その刹那。

トーヤの薄く開かれた目が、冷徹な捕食者のそれへと変わった。

「……あーあ。もったいない」

トーヤは、地面に落ちた退去勧告書を見下ろしながら、ポツリと呟いた。

恐怖で震えていたはずの声は、氷のように冷たく、そして絶対的な強者の響きを持っていた。

「お客様は神様だなんて、とっくの昔に死語なんだよ。俺の店(村)で暴れるクレーマーには、相応のペナルティを受けてもらう」

「あ? 何をブツブツ言って——」

ゼロスが舌打ちをした、その直後だった。

『——————条件達成タッチ

世界を、異質なシステム音声が包み込んだ。

空気が凍りつく。風が止む。

ゼロスの心臓が、得体の知れない悪寒にドクンと跳ねた。

『ユニークスキル【鬼ごっこ】を起動します』

『対象:ゼロス・ディバインを【鬼(ヘイト対象)】に指定しました』

「……は? おに? なんだ、今の声は……?」

ゼロスが怪訝な顔で周囲を見回した。

だが、トーヤはすでに背を向け、足早にゼロスから距離を取っていた。

その背中は相変わらず丸まり「あー怖かった! 死ぬかと思った! 胃が痛い!」と全身から脂汗を噴き出している。

「おい、待てコラ! どこに行く気だ!?」

ゼロスが剣を抜こうとした。

——その時である。

「……あ?」

背後から、異常な気配を感じた。

ゼロスが振り返ると、そこには彼が金で雇ったはずの傭兵たち、そして撮影スタッフたちが立っていた。

彼らの様子が、おかしい。

全員が全員、白目を剥き、血管をブチ切れんばかりに浮き上がらせていた。

その口からは、ボロボロと泡を吹き、獣のような唸り声を上げている。

「殺セ……」

「汚物……生カシテオケナイ……!」

「アァァァァアアア! 宇宙一ノ、害悪ッ!! 死ネェェェエエエ!!」

「……え?」

次の瞬間。

傭兵たちの構えた大剣、槍、そして魔法のすべてが、魔物でも村人でもなく、真ん中に立つゼロスに向かって、一切の躊躇なく振り下ろされた。

「——は、ぎゃあああああああああああああああっ!?」

神聖な鎧が砕け散り、勇者の絶叫がポポロ村の空に木霊した。

遠く安全な位置からその地獄絵図を見下ろしながら、秋月冬夜はタローマン製の強力胃薬をボリボリと噛み砕き、冷たく言い放った。

「接客完了。……さて、俺は一切戦わないぞ。勝手に潰し合ってくれ」

読んでいただきありがとうございます。

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