12.カズもまた箱庭の世話で一杯なのだ-これはそろそろ派兵はしないとね-
全44話予定です
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カズの仕事と言えば最近では多岐にわたる。[モグラ]の一件であったり、同盟連合の代表としてたびたび駆り出されたりと、決して暇な部類には入らないだろう。最近はもっぱらそのような雑務が増え、研究所にいても書類や報告書に目を通すくらいしかできていない。彼が本来おこなってきた[研究職]とは疎遠になりつつあるのだ。上に立つものとして、これはどうしても避けられないものなのだろう。彼の師匠ともいえる存在である神崎がそうであったように、カズもまた[研究所]という箱庭の世話で一杯なのだ。
そんな中、旧イエメンの内紛、いわゆる内戦に関して、以前からレイドライバーの派兵の打診をされていた。しかしあれやこれやで結局今まで派兵などと言っていられなくなっていたのも事実である。
――これはそろそろ派兵はしないとね。じゃあ。
内戦を主導している側も、鎮圧する側も武器が弱体化しているという現実がある。実際の内戦は互いに小火器でやりあっているのだ。そこに突如現れた人型。それはさぞかしまぶしく見えただろう。今の旧イエメンを統治している元首からは[是非に]とまで言われているのである。同盟連合本体から軍事物資も到着しつつあると聞いている。その辺りはカズとしても上層部と話し合い済という訳だ。
「トリシャ、だよな。さすがに新人を充てるのはいささか気が引ける、よなぁ……」
カズが悩むのも無理はないだろう。先日のグランピア攻防戦で消耗した戦力を[どうにかこうにか]してアルカテイルへの前線投入をしたのだ。そこから引き算しようにも、新兵を派兵して[さあやってこい]とはさすがになり得ない。第一、相手との折衝ごどたって想像される状況で一新兵にそこまで権限を課すのは、流石に対外的に見ても[ナメている]と言われかねないからである。
「一番適任なのはゼロシックスのサブプロセッサーなんだけど、流石に」
サブプロセッサー単品での派兵はしたくないというのが本音だ。それは、出来ることならパイロットがいたほうが何かと都合がいいからである。戦績はすべてパイロットのものになるからである。そこで表彰や懲罰を受けるのはパイロットだけで話が完結する。そこに[ヒト]でない[モノ]であるサブプロセッサーだけで行ったらどうなるか。
「じゃあトリシャを行かせよう。機数は一体でいいだろう、いや、もう一体いるか?」
カズはいまさらながらにゼロフォーという存在に頼っていた部分が大きいことに気が付く。確かに構想として、実験としてゼロフォーを多戦線に送り込んだのだから。そして当の本人は現在、帝国にいる。そして一体だけで行かせるのをためらう理由。それは以前に話したツーマンセルの原則である。
軍隊や警備会社等で脅威と対峙する人たちは、基本二人一組が最小単位なのだ。それは、二人でいれば全周囲に警戒が効くし、囲まれても生き残れる可能性が高くなるからである。もちろん三人、四人と増やせばより効果は高まるが、それ以上となると指揮官が必要になるし、指揮系統がしっかりとしたものが必要になる。その場の判断で動けて、しかも死角がほとんどないという、その最小単位がツーマンセル、つまり二人一組という訳だ。
「うーん、さてともう一体となると、順当に考えて新人だよなぁ」
と言いながらカズは手元の資料をあさっていた。カズの手元にはすべてのパイロット、サブプロセッサーの[諸元]が記されている。そこに嘘偽りは一切ない。客観的に書かれた資料なのである。
そんなカズは先ほどゼロエイトとパイロットであるフィリスとの仲介を収めて、レイドライバー部隊がここエルミダス基地をホームグラウンドにしていた頃に使用していた自室でうんうんと唸っている、という訳である。
――となると、新人だよなぁ。そんな適任いたっけか?
そう思いながら改めて一から資料を読み返す。すると、とある項目で目が留まった。
「ゼロナイン?」
今回、三期生として配属された新人の機体だ。搭乗者はチェン・シューフイとある。
資料に一つずつ目を通してから、
「これは……。誰だこんな組み合わせにしたやつは、って研究所か。まあ、確かに分からなくないよ、パイロットもサブプロセッサーも好戦的な組み合わせじゃあ暴走したときに収拾がつかないし。でも、なぁ」
今更ながらにここ最近の自分の忙しさを悔いたのである。
ゼロナインとシューフイ、この組み合わせはそれはそれで選んだ人間を見てみたい、カズにそう思わせるものなのだ。
だが、新人枠の五名を組み合わせるにあたって一番効率的なものになっているのも事実である。だから[おい、ちょっと担当者?]とはいかなかったのである。片方が好戦的ならば、もう片方を内向的な慎重な人材を充てる。もちろんパイロット、サブプロセッサーを育成しているのだから、使えない人材は育ててはいない。仕上がってきたパイロット、サブプロセッサーそれぞれ[使える]人材になっているのは当然と言えば当然なのだ。
だが、その中でもやはりどうしても敵に、さらに言えば人間に武器を向けるが苦手な人材が一定数出てくるのもまた真実なのだ。全員が全員ゼロシックスのように敵兵を殺傷して[気持ちいい]などと感じるわけではない。
「とりあえず読んでみるか」
カズは資料をもう一度くまなく読み返した。
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