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村人だけど、わけあって追放令嬢を破滅から救うにはどうしたらいいか真剣に奔走することになった  作者: 礼(ゆき)
10万字版

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44,村人として

 元の体に戻った俺は、学園を休学した。

 貴族枠ならいざしらず、試験を通り入学する平民では、学力、特に魔力が不足していた。

 聖女の力を行使できなくなった俺は、手のひらから水差しいっぱいの水を出すのが精いっぱい。

 学園で学ぶには、使える魔力の種類も量もお話にならないレベル。

 

 俺の魔力は、ほとんど聖女の力で占められているってことなんだよな。

 こればかりはうまれもった魂に刻まれているわけで、自分ではどうしようもない。


 事情を知るフェリシアとセイジ、それにラルフの計らいで休学の手配が行われた。

 その後、ひと月ほど宰相家で療養させてもらう。

 女の子として過ごしてきた時期が長すぎ、言葉遣いやしぐさなど気をつけ徐々に修正する。

 平民の俺が貴族の邸宅で厄介を続けるわけにもいかない。

 俺自身、母さんや父さんに会いたくなり、宰相家を後にした。


 元聖女の母さんは、肉体も魂もそろった息子を初めて見て泣いて喜んでいた。

 父さんは昔の息子との違いに戸惑いながらも、徐々に受け入れてくれた。


 平民の家は貴族の住まう規模とは比べられないほど小さい。

 貴族の屋敷に慣れてしまった俺は、久しぶりに見た平民の佇まいに呆然としてしまった。

 慣れとはおそろしいものだ。


 居間に父母の部屋、梯子を上って俺の部屋がある。

 狭い平民の部屋。

 足が飛び出そうな狭いベッド。


 ここで生活していたことを実感し、改めて家に帰ってきたことに思いをはせる。


 そうして俺は、ずっと昔、当たり前のように過ごしていた日常へ戻った。

 ヒツジとヤギを引き連れ、牧羊犬とともに草原に向かう。

 

 過去との違いは、文字が読めて、書けること。

 手紙の代筆など頼まれることもあり、雨がふればもっぱら手紙を書いていた。

 仕事の幅が広がり、暮らしを楽にしてくれた。

 

 水桶に水をはるための水運びが不要になったのもありがたかった。

 学園で学ぶには足りなくても、日常水は大切だ。

 水があればなんとかなる。ラルフが昔そんなことを言っていた。本当にその通りだった。


 両手を掬うように構えると、そこから泉のように水があふれてくる。


 その水を最も好んだのは、牧羊犬だった。


 飲みたくなるとクンクンと鼻を鳴らして寄ってくる。

 手のひらを差し出すと、水がじんわりとにじむ。

 すると、牧羊犬はしっぽを振りながら、その手をなめ始る。

 満足すると顔をあげる。

 くりくりした丸い目。

 

 俺は牧羊犬の顔をなでる。


「ウィリーに似てるんだよなあ」


 この顔を見ていると、ウィリーを思い出す。

 きっともう二度と会うこともない。

 この国の王太子。


 フェリシアとの婚約が正式に発表されたと手紙で知る。

 フェリシアも王太子もどんどんと手の届かない人になっていく。

 いや、元の距離に戻っているだけなんだ。

 あまりに近くに行き過ぎたため、生き生きとした彼らを知っていて、もう会うことも叶わないから、ちょっと寂しいだけだろう。


 自分が女の子として過ごしていた時期、一生懸命彼女のことを考えていた。

 でも結局、彼女は王子様の元へ。


「お姫様は、王子様の元へ帰ってしまうものなんだね」

 

 過去の婚約破棄は家の事情のもと強行された。彼女を守るためのものだった。

 王様の意向は、美しい愛する人によく似た娘と自分とよく似た息子が、幸せになる姿を見たいのかもしれない。それが自分が果たせなかった夢として見ているのか。


 それ程にあの王様があの白銀の母を慈しみ、愛おしんでいたことは分かる。

 厳しい現実を生きているくせに、生きていただけに、時にそんな甘い夢を見たがる。

 男ってそういうアホな面があるのかもしれないなあ。

  

 背負う女の子はきっと冷酷なほどに現実的なのに。

 家の事情を最優先に考えているはず。力関係とか、付き合いとか、立場とか、家格とか。

 その選択に彼女の自由意思は関係ないのだろう。


 それでも、まあ、一種の失恋のような痛みを覚えた。


 そして、女の子だった俺を自分が自分を思うより思ってくれる執事もいた。


 ラルフと俺の共通点は、同じ顔の女の子に失恋したってことになる。


 残念な共通点だ。


 その後もラルフは順調に学業をこなしているという。

 元に戻ったら休学を余儀なくされた俺とは出来がちがうね。


 学園の長期休暇がきたら、村にくると手紙が来た。


 久しぶりに、会えるが今は一番楽しみだ。

 

               ☆


 平民の息子が家にいて、何もしないなんてことはない。

 ちょうど薪を割っている時だった。


「レオン」


 と、聞きなれた声に斧を振り下ろす手を止めた。


 肩にかけていた手拭いで、額の汗をぬぐう。


 まっすぐ前を見ると、懐かしい顔二つ。


「フェリシア。

 

 それに、ラルフも」


 うれしくて、顔がほころんだ。


 フェリシアはにこやかに手を振る。

 ラルフはちょっと複雑な顔をしてから、きれいな会釈を返した。

最後まで、お読みいただきありがとうございます。


続きが気になる、面白いと思っていただけましたら、


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