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村人だけど、わけあって追放令嬢を破滅から救うにはどうしたらいいか真剣に奔走することになった  作者: 礼(ゆき)
10万字版

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45,かえりたいところ

「懐かしい」

 俺の部屋に入るなり、フェリシアは目を輝かせて部屋じゅう眺めまわす。


「あんまりきれいな家じゃないんだから、そんなに見てくれるなよ」

「元は私の部屋なんだ。

 懐かしむぐらいいいじゃないか」


 フェリシアは窓に駆け寄る。

「この眺めが見たかったんだ」と喜んでいる。

 

 俺は後ろに目をやる。

「こんなとこ、居心地悪いだろ」

 ラルフの方が、寂れた村社会には慣れてない。

 ずっと貴族の暮らしのそばにいたのだから。

 大きな体を小さくして、おずおずと入ってくる。

「地方の村人の家なんて、こんなもんだよ」


 フェリシアが窓をあけた。

 ふわっと緑と花の香りをのせた風が流れてくる。

 フェリシアの髪が柔らかく揺れる。


 きれいでかわいい女の子。

 昔は寂しげ哀しげだった瞳には、強い光が宿っている。

 レオンとして生きた時間が、彼女を強くしたのだろうか。

 それなら、それで、冥利に尽きる。


 ラルフは奥にすすみ、何もない壁に背を付け立つ。

 俺はベッドに腰かけて、二人と向かい合った。 


「今回はレオンを迎えにきたんだよ」


 フェリシアが窓辺から外を眺めつつ、切り出した。

 学園へ復帰の誘いか。

 それならもう、決めている。

 俺は肘を膝に乗せ、手を組み、顎をそこに乗せた。

「俺はここでいいよ。

 元々村人なんだからさ」


 二人が顔を見合わせため息をつく。わかってないですね、とラルフがつぶやいた。


 フェリシアが重々しい口調で話し始めた。

「今回の経緯で、レオンの中に聖女の力が眠っていることが王、宰相、もちろん大臣家が知ることになった」

「だろうね。アリアーナを癒してしまっているし、ウィリーにも見られてる」

「さらに重要なのは、聖女の力が出産と共に次世代へと受け継がれることが判明したこと」


 それのどこに重要点があるんだ。

 訝る表情を読み取ったラルフが「全員が警戒しているんですよ、レオン」と告げる。


「警戒? 何を。

 俺がおとなしく村人であれば関係ないんじゃないのか」


「そうじゃない」とフェリシアが頭をふる。

「君が誰と婚姻するか。

 婚姻だけでない、誰とどこで関係を持つのか。

 そこら辺の村娘と関係を持たれたらどうすると本気で国の中枢で話し合われているんだよ」


 俺の目が点になる。

 一体、何を言っているんだ。


「今はレオンをどこぞの貴族の子弟に据えて、復学させようと宰相家と大臣家の間で話が進んでいる。君の魔力量では、最低でも貴族でなければ学園にい続けられないからね」


「そんな都合のいい貴族なんてすぐ見つかるわけ……」

 ないじゃないかとまで言えなかった。

 フェリシアの「大臣家をなめてはいけない」という言葉が被る。

「大臣家が口笛を吹けば、候補なんてすぐ見つかる。

 君の存在は、あまりにも異端すぎて、あの宰相家と大臣家を協力させるほどに危険なんだよ」


「そんな化け物あつかいしないでくれよ」

 話がよじれすぎて、頭が痛む。


「アリアーナの商才にも手を焼いている大臣家だ。このままでは他家へ嫁に出すのも難しいアリアーナの婿に、大臣家は後ろ盾がないレオンを本気で狙って画策している様子さえある」


 アリアーナと俺が。話が飛び過ぎて、理解が及ばない。


「待ってくれ。

 俺のいないところで、一体ぜんたいなんの話をしているんだ」


「聖女の力の所在が分かった以上、自由にはさせれないんですよ」

 ラルフが慰めるような、優し気な口調で語る。

「あなたに女児が恵まれた場合、その次世代の聖女は国の保護対象です。

 癒しや若返りは聞き及び、書物にも書かれていました。しかし、不死という魔法の使用方法は教会によって隠匿されていました。判明した以上、捨て置けないのです。

 現状、その力を内包しているレオンも保護対象なんですよ。

 レオンの伴侶もまた重要ですが、今は、その、あなたの行動すべてが、監視対象なんです」


「そんな。

 俺のどこまで監視されるって言うんだよ」


「そういうことを、本気で話している頭の固い御仁がいっぱいいるんだよ」

 フェリシアが窓辺から離れ、俺に近づく。

「実際、どうなの」

「どうなのって」

 フェリシアが俺をにらみ、俺はたじろぎ、冷や汗があふれる。

 視線が泳ぐ。

「まっすぐ見れないってことは」

「待ってくれ。

 俺はここに療養してたんだ。

 学園を去って3か月、ここにきて2か月。 

 男として過ごすのだって、十何年ぶりだと思ってるんだ。

 色々、生理的に違うだろ。

 女と男って」

 じっと二人に見つめられて俺の方がたじろぐ。

 どうしてそんなに冷静に聞いているんだ。


「一緒に寝てるのなんて、牧羊犬だけだよ」


 ついて出たセリフに、なんてつまんないことを言ってしまったのだと、恥ずかしくなった。

 穴があったら、どこでもいいから入りたい。

 両手で顔を覆うものの、顔中熱くなってどうしようもない。


「母さんだっている。

 娘が産まれたら、きっと大変だろうからって。

 本も持ってなさいって受け継いでいる。


 そんな監視なんてしなくても、俺が気を付けるから、そっとしておいてくれよ」


「本はあるの」

「あるよ」と俺はベッドの下に手を差し伸べる。

 木箱を引きずり出し、二冊の聖女の本のうち一冊を手に取った。

「ほら、懐かしいだろ。母さんの本だ」


 破顔一笑するフェリシア。

「本当に、懐かしい。子どもの頃、懸命に読んだんだ」

 手が伸びて、表紙を指でなぞる。

 細くきれいな女の子の指先。


 フェリシアとラルフの誘いは断れない。

 考えなくたって、直感でわかる。

 村人である以上、貴族の決定には従う以外道はないんだ。

 説得、懐柔が通じなければ、強行手段だって考えていてもおかしくない。


 貴族の女の子の不自由さってこういう感じなんだろうなあ。

 誰と結婚するか。

 どこに嫁ぐか。

 決めれないことが不幸とは思わない。

 アリアーナだって、いい娘であるとよく知っている。

 それでも、少しは自由でいたい。

 だれか、好きな人と結婚してって夢を見たい。

 俺がフェリシアであったら。

 フェリシアに戻れたら。

 たった一人、決めれるのに。

 

「あーあ、嫌になるよ。

 フェリシアに『戻りたい』って思っちゃうじゃないか」


 吐き捨ているようにつぶやいた。


 視界が反転した。


 目の前に群青色の髪の頭頂部。


 母さんの本を手にしていて。

 俺の手がその本の表紙に触れていた。

 

 感じる指先は、細く、柔らかく、小さい。

 

「レオン」


 口をついて出たのは、ついさっきまで自分だった名前。


 背後から強い風が巻き上がった。

 髪がなびく。

 白銀で、光の具合で金色を帯びる。


「俺の髪」

 すくった髪は、柔らかく、昔懐かしい花の香りを飛ばすようだった。


 レオンの顔が上がる。

 

 お互い目を丸くして、見つめあった。


「戻った、ね」

「ああ、戻っている」

 レオンが呆然と同意する。


「ラルフ」

 振り向いた。


 壁に背を当てていたラルフもまた目を見開いていた。


「戻った。

 戻っちゃった」


 前のめりに身を乗り出したラルフが、

 ぶつかるように俺を抱きしめる。


「ラルフ……痛い。

 痛いよ」


「嫌だ。

 もう、もう会えないと思ってたのに」


 絞り出すようなかすれた声。 

 俺に会いに来て、そ知らぬふりして、また我慢とか強がりばかりしてたのだろう。


 相変わらず、しかたないやつ。


「これ、魔法陣だよ」

 レオンの声に我に返る。


 動きにくい体はそのままに、顔をよじり、視線をレオンに向ける。

 ベッドに座っているレオンが、本の表紙と裏表紙を丹念に眺めていた。


「子どもの頃は、だたの装飾だと思っていた。

 こんなところに陣が描かれてるなんて気づかなかったな。

 いやあ、だまされた。

 書物に描かれてないわけだよ」


 本へ向けていた視線を俺とラルフに向け、にっとレオンが笑った。


「フェリシア。

 今、本気でつぶやいたんだろ。

『戻りたい』って」


 俺の頬がかっと赤くなった。

 おずおずとラルフの顔を見上げる。

 

「犬にかまれたと思って」


 そう言ったラルフの唇が、俺のそれにかぶさってきた。

 

              ☆


「あー、今のは見なかったことにするよ。

 わかってるの、ラルフ。

 フェリシアは王太子の婚約者だよ。

 でもって、レオンの魂が入ったフェリシアは聖女でもあるんだよ。

 君の言う、保護対象の女の子なんだよ。

 王太子の婚約者に手を出しても、聖女に手を出しても。


 君、首が飛んじゃうよ。


 理解してる、ラルフ」


「……なんか、うれしそうね。レオン」


「もちろん、うれしい。

 だって、俺はレオンに戻りたかったんだから」


このお話はいったんここでおしまいです。

最後まで、お読みいただきありがとうございました。


次作は明日から更新が始まります。


面白いと思っていただけましたら、評価と、次作をよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最初の生の時、レオンとフェリシアが最期を迎えた時の描写が衝撃でした。 生々しく映像が目に浮かび、悔しさと後悔が伝わって来て、そこからの入れ替わりの巻き戻りの人生。 性別まで変わってしまった…
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