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村人だけど、わけあって追放令嬢を破滅から救うにはどうしたらいいか真剣に奔走することになった  作者: 礼(ゆき)
10万字版

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43/49

40,取引

 俺は大きく息を吸った。

 セイジは共犯者を求めているのか。


 すでに何をするか、どうするか、決めているのだろう。


 俺が、それに乗るか、そるか。


 嫌なことが脳裏をかすめる。

「ねえ、私が拒否したら、あなたはどうするの」

 こんな試すようなセリフ。きっとすぐばれるのに。


 セイジはほほ笑む。

「あなたは、素直で、可愛らしい少女だ。

 そして、とても危なっかしい。

 ラルフがほっておけないのもよくわかるよ」


 セイジが右手の平をかえす。

 水があふれて、平皿のような形が作られた。


「少し、外の様子を見てみようか」


 俺はその水かがみを覗き込んだ。


「魔力が少なく、出せる水量に限界があっても。

 器用に使えれば、色々できるんだよ」


 宙に浮く平たい水の表面がぽうっと光る。

 

 上空から塔のてっぺんが映る。

 徐々に下に降りていく。

 人影が二つ。


 セイジとレオンが対峙していた。


「なんで、ここに」


 待っててと言ったのに。


「彼は君の仲間だね。

 二年前の夜に君を助けた子だ。

 彼がレオンかな」


 隠しても仕方ない。

 俺は素直に頷いた。


「そうか、あれが君本来の姿なんだね。中にいるのは本物のフェリシアだね」

 では、と、セイジはもう左手の平も返す。

「もう一人はどうしているだろう」


 木の頂点が見えた。

 視界の始まりは空。ゆっくりと地に降りていく。

 今度は地面が盛り上がり、土壁ができていた。

 

 そこに背を当て、座り込んでいるのはラルフだった。

 土壁の向こうには、ドリューが剣を構えて立っている。


「ラルフは、まだ実践経験がない。

 ドリュー相手はきついだろうね」


 右腕を抑えている。

 衣服がところどころ赤く染まっている。

 額から、赤い雫が滴り落ちていく。


 ラルフが殺される。俺が殺されたように。

 今度は目の前で、ラルフがフィーのように殺されるのか。


「助けてあげようか」

 セイジがささやく。

「僕なら彼を助けられる」

 優しい笑み。

「僕に協力してくれるね」


 断れない。

 ラルフが死ぬのを黙って見ているかどうかなんて。


「ひどい」

 涙があふれそうになる。

「ひどいよ」


 セイジの手が伸びて、目じりをぬぐう。

「どうするの、泣いている暇はないよ」


 選ぶも何もないじゃないか。


「見てごらん。壁が壊れるよ」


 音はなかった。

 ラルフが魔力で作った土壁はあっけなく崩れる。

 その瓦解する土くれの中から伸びた剣が、ラルフの背を切り上げた。


 倒れこんだラルフの背。

 衣類がじんわりと赤く染まる。


「早くしないと、殺されてしまうよ」


 ドリューがゆっくりとラルフの元へ歩んでいく。

 

 脳裏に、フィーの首が刈られる光景がよぎる。

 あの時と同じだ。

 遠く、見ているしかない。

 黙って、殺されるのを見ているしかないなんて。


「……って」

「聞こえないよ」

「助けて……」

「じゃあ、約束だよ」


 突然、ドリューが吹き飛んだ。


「僕は水かがみの向こうに魔法を飛ばすことができるんだ。

 柔らかい風は移動に使え、鋭い風は刃になる」


 もう一度、ドリューが映し出される。

 今度は、彼の頭部を水が包んだ。

  

 俺は目をそらした。

 溺れ行く声も、もがく人の顔も、もう見たくなかった。


「終わったよ」


 再び水かがみを見ると、ドリューがあおむけに倒れていた。

 すでにその顔には生気はない。


「ラルフは……」


 水かがみの映像が切り替わる。

 背から血を流すラルフが倒れていた。


「助けたいか」

 うなづくしかない。

「いい子だ。

 助けたいなら、水かがみに手を触れてごらん」

 

 言われるまま、触れる。

「水かがみがラルフの背に近づく。

 君はいつものように、癒しを与えるといい」


 傷ついたラルフの背。

 伝わってほしい。

 どうか、治りますように。

「光と、

 時の……加護を」


 ラルフの背が光る。

 びくっと体が動いた。

 彼に癒しを与えるのは2度目。


 あの時も、俺を守ろうとして。

 今回も、また。


「ごめんね」

 ごめんね、いつも。

 大変なことばっかりで。

 

 ラルフが身を起こそうとする。

 何があったとばかりに頭をふる。


 無事でよかった。


 俺は水かがみから手をはなした。


「……私は何をしたらいいの」

 涙がはらはらと流れてくる。


 セイジは少し驚いた顔をする。

「……君は、すっかり女の子になっているんだねぇ」

 しょうがないなあという苦笑いを浮かべる。

「幼少期から育ってきたからだろうかね。

 僕のように、成人した肉体に宿った者とは違うんだね」


 セイジの腕が伸びて、俺を抱きしめた。

「ごめんよ。

 小さな子をいじめるような真似をして」 


 この人は、なんなんだろう。

 優しくなったり、冷たい死神になったり。


「君には、ここで僕を殺してもらいたいんだよ。


 最後の司祭を始末するために」



最後まで、お読みいただきありがとうございます。


続きが気になる、面白いと思っていただけましたら、


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