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村人だけど、わけあって追放令嬢を破滅から救うにはどうしたらいいか真剣に奔走することになった  作者: 礼(ゆき)
10万字版

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22,婚約しない未来

 夜会もひと時の夢と消え。

 単調な貴族生活に戻っていた。

 午後の勉強時間が終わり、お茶の時間を楽しんでいる時だった。


「お嬢様、招待状が届きました」

 執事らしい丁寧な物腰でラルフが言うので、

「どなたから」

 と、すましてみる。


「アリアーナ様です」


 カップを持つ手が震えた。

「大臣家の方から、なんで。

 私なにか、しでかしたの」

 宰相家との関係上、交流は社交辞令程度なはず。 


「夜会の時にずいぶん気に入られましたからね」

「そんなつもりはなかったのよ」

「つもりがあるなしは関係ないでしょう」

「で、何が書かれていたの」


「3日後においしいお菓子を用意してお待ちしてます。と」


 動揺する俺と違い、ラルフは落ち着いている。

「だからって、招かれるなんて……」


「断られますか」

「いや、そんな」

 勇気もない。

「私も同行しますから、おひまずお受けしましょう」


               ☆


 三日後、ラルフと馬車に乗った。

 二人向き合う。

 ラルフは相変わらずの真面目腐った顔でむすっとしている。


「どういう風の吹き回しなのかしら」

 堂々としているラルフと違い、なんとなく不安だ。

「とって食べられたりはしないでしょう」

「なんで、そんなに落ち着いてられるのよ」

 ラルフの動じなさが面白くない。

「この程度で、驚いていたら、お嬢様と一緒には行動できません。

 ほら、大臣家のお屋敷も見えてきました」


 大臣家の屋敷は大きかった。

 宰相家の数倍はあるだろう。

 石をくみ上げて作られた城壁に囲まれている。

 高く重い門を抜けると、庭園が広がっていた。

 隅々まで手入れされ、色とりどりの花が植えられている。

 古く威厳のある城がそびえていた。


 屋敷の入り口に馬車は止められる。

 御者が扉をあける。

 ラルフが先におり、その手をとり続いて降り立つ。


 大臣家の執事が、「こちらへ」と、花々が咲き乱れる庭の奥へと案内してくれた。


 人影が二人。

 アリアーナと王太子がいた。


「王太子様もいらっしゃる」

 俺はてっきりアリアーナだけだと思っていた。

 ラルフが耳打ちする。

「こちらは、王太子様の母君のご実家です。

 まだ婚約を正式に発表されてないお嬢様とお会いになるのに王太子様が直接王城に招くわけにはなりません」

「どういうこと」

「王太子様がフェリシア様とお会いになる仲立ちをされているのでしょう。アリアーナ様が」

「ラルフは予想できた」

「いえ。

 ただ、何が起きても動じない腹積もりはここ数日で鍛えられております」


 嫌味か。

 物静かに、傷つくことを。


 文句を言ってもしかたない。

 逃げるわけにもいかない。


 俺はアリアーナと王太子の座る庭園のテーブル席へと向かった。

 

「お久しぶりです。

 アリアーナ様。

 王太子殿下。


 本日は、お招きありがとうございます」

 丁寧にお辞儀をした。

 ご令嬢としての作法をみっちり仕込まれている。

 フェリシアとしての体面を保つためには、礼儀作法は侮れない。 


「硬くならないで、フェリシア」

 親し気にアリアーナは話し始める。

「ごめんなさいね、急にお呼びたてして。

 いらしくれて、本当にうれしいわ」


 さあ、こちらへどうぞ。

 と、示された椅子は、俺一人のもの。

 

 後ろのラルフに目をやる。

 黙って座りなさいと無言の圧がかかる。

 後ろに蛇、前にも獣。どこにも逃げ場がない。


 当たり前だが、使用人のラルフには席はない。彼は客人ではないのだ。

 招かれたのは俺一人。

 正直、その辺はいまだ釈然としない。


「まずは座るといい」

「まさかいらっしゃるとは思わず。驚いてしまいました」

 王太子がすすめるまま席にすわる。

 

「今日は、アリアーナにお願いしてこの場をもうけてもらったんだ」

「王太子様が」

 目を丸くしている俺を覗き込むように、アリアーナがずいっと近づいてくる

「どうしても、フェリシア様とお話がしたかったの。

 もちろん、私もお会いしたかったわ。

 妖精のような、可愛らしいお嬢様と一緒に過ごせるひと時は、まるでおとぎ話の世界のよう」


「自分とは反対だか……、つっいで」


「余計なことは、天罰のもとですわよ」


「だからって、足を……」

 蹴ることないだろうとつぶやき、片足をさする。


「ウィリー、本題は切り出さないの。

 せっかくのお客様をお待たせするなんて失礼よ」


 王太子は咳ばらいをする。

「今日来てもらったのは他でもない、婚約の件だ」


 俺はぞくりとした。

 正式な婚約の申し出はいまだ来ていない。

 内々でどのような話し合いがされているか、知るすべはなかった。


「結論から伝える。

 婚約者の発表は行われない」


 俺は目を見開いた。

「どういうことですか」


「婚約者は未定ということだ。

 君の望む通りの結果となった」


 声も出ない。

 何が起こったのか、分からなかった。

 未来へ影響する出来事が変わったのか。

 

「学園に入学すればあの8人の令嬢と会うこともある。

 学園生活の中で、未来の妃にふさわしいものをさがせ。

 と、父上がおっしゃるのだ」


 耳を疑う。

 喉から手が出るほど欲しかった婚約しない未来。

 ぽろりと簡単に落ちてきた。


「そう残念がるな。

 父上の意向とはいえ、俺もフェリシアで良いとしていたのだ。

 肩透かしをくらい、驚いているのはフェリシアばかりではない」


「婚約したくないと進言されたのが良かったのかしら」


「父上に直訴するぐらい胆が据わったお嬢さんなら、逆に話が進むと思っていただけに、意外だった」


 うつむいた。

 涙が出るほど、うれしかった。

 膝の上で、こぶしをつくり、身震いした。

 やった、婚約はない。

 婚約がないと言うことは、婚約破棄だってないのだ。

最後まで、お読みいただきありがとうございます。


続きが気になる、面白いと思っていただけましたら、


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