16,王様と王太子様
「なぜ、ラルフがいるのかしら」
「さあ、僕もさっぱりです」
「こんなところまで。お目付け役がいないと私はダメなの」
「旦那様曰く、念のためだそうです」
ひそひそとすみで話す俺とラルフ。
ここはダンスパーティー会場だ。
屋敷から山間に見えていたお城。
今日は、父に連れられラルフと共に馬車に乗ってきた。
馬車で乗り付けた入り口は、見上げるほどの高さだった。
一歩足を踏み入れるとそこはきらびやかな世界だった。
どこぞの田舎者のようにきょろきょろしてしまう。
周囲にはたくさんの大人。ところどころに少女たちがいる。
同じ年くらいの貴族の女の子を見るのは初めてだった。
皆、同様に着飾っている。
ミラが朝から身支度であわただしかった。
事前に用意していたドレスを着るだけだと思っていた俺は泡喰った。
彼女たちの仕事は鬼気迫るものだった。俺は人形のように、メイド達の邪魔にならないようおとなしくしていた。
正直、ここにくるまでに気力を使い果たしている。
ざわざわとした会場。
久しぶりに会う大人たちの会話が頭上で繰り広げられる。
目線がかち合う女の子たち。
にらまれたり、目をそらされたり。
こちらもこちらで、警戒しているのか。
すでに決まっていることを覆そう。
一縷の望みをもって娘たちを連れてきているのだろうか。
俺には大人の考えることが分からない。
「ラルフ。
息が詰まりそうだよ」
明るく美しい室内とは裏腹に、大人たちの醸す雰囲気が重い。
「まもなく王様が来られます。それまではここにいてください」
「ダンスが終わったら、外の空気を吸いたい」
「わかりました」
こういうことを言い出すことを見越して、父はラルフを連れてきているのかもしれない。
ホールに続く長い階段がある。
二階のフロアがその奥に見える。
隅に楽団が控えている。
音楽が鳴りだした。
人々が上を見上げる。
二階の扉が開かれる。
人影が現れる。
男性と、女性に、子ども。
あれが王様と、王妃様に、王太子様なんだ。
王太子様と王様の髪色は同じ。黄金色。
白銀を基調とした豪奢な装いに映える。
周囲の大人のざわめきが消える。
階段まで来て、足が止まる。
王様がゆっくりと手を挙げると、音楽が止んだ。
王様が王太子様を前に出す。
彼は私たちを見下ろして、大きく息を吸いこんだ。
「今日は、よく来てくださいました。
どうぞ、このひとときを楽しんでいってください」
王様と王妃様は顔を見合わせる。
王太子様が階段を降り始めると、その後に王様と王妃様が続く。
今日は、あくまで王太子様が主催者である。そのように示そうとしているのかもしれない。
大人たちも事情は分かっている。
王様が階段をおりきると、人々が動き始める。
ホールで話していた人々が壁際に寄り始める。
俺は周囲を見る。
ラルフが「ここにいてください」と耳打ちして、壁側へかけていった。
王太子様が俺の前へ歩み寄る。
「一曲、踊っていただけますか」
王太子様から誘われたら、踊ること。
父にそういわれていた。
呼ばれた令嬢のお披露目であり、一人ひとり短い曲に合わせ踊ることになっている。
その後は、自由にしておいで。
そう言われていた。
王太子様と接触ないまま、帰るご令嬢がないように配慮されている。
たくさんの大人の視線が痛い。
これが宰相の娘かと値踏みされている気がする。
背中に嫌な汗が浮かぶ。
ここだけ踏ん張れば、終わりだ。
「はい、喜んで」
作り笑いは、上手にできたろうか。
王太子様と手を取り、ホールの中央へ。
互いに向き合い、一礼し、音楽に合わせ踊り始める。
曲は短かった。
踊り終わり、王太子様は俺の手をとり、ホールの端へエスコートしてくれた。
「ありがとうごさいます」
「どうぞ楽しんでいってください」
そつない笑顔。完璧な社交辞令。
何かを思い起させる黄金色の髪が柔らかくゆれる。
貴族の婚約は親同士で決めるもので、子どもの意思はない。
ご自身もよくわかっているのかもしれない。
また次のご令嬢の元へ歩んでいく。
今日来たのは、8人くらいだった。
俺と同じ曲で踊る。
お披露目が終われば、大人たちの社交場になる。
子どもの俺たちはお呼びじゃない。
王太子様は、何人かのご令嬢に囲まれている。
おとなしく壁の花になっている子どももいる。
取り入るのも、壁の花になり続けることも、どちらも俺は難しい。
「ラルフ、お腹すかない」
「何か食べたいですか」
「そうね。食べてから、夜風にあたりたいわ」
俺がおとなしくしているはずはないと、父はラルフを連れてきたのだろう。
好きな料理をお皿に盛り、ラルフと並んで椅子に座る。
作法はあるが、子供が何をしてようと、気にする大人もいるまい。
お皿に乗せた料理を、フォークで刺し口に運ぶ。
「おいしいね」
子ども同士、特にすることもない。
大人たちは、飲み物を片手に、せわしなく口を動かしている。
その中で、王様はひときわ目立つ。
ひとりだけ、光輝いているように見えてしまう。
「どこかで、見たことがある気がするんだよなあ」
思ったことが口に出ていた。
王様から目を離せない。
王様がこちらを見た。
じっと見つめていたからか、気づかれた。
隣に控える父に、王様が小声で話しかける。
すると、父が俺たちに近づいてきた。
「フェリシア。王様がお話をしたいと仰せだ」
「王様が?」
「お皿を置いて、こちらへ来れるかい」
「はい」
お皿を置いて戻ると、ラルフには「少しここで待っていてくれ」と話していた。
父と手をつなぎ、王様の前へ行く。
王様の前ではより深くお辞儀をする。
「はじめまして。ヴィクター・ボールドウィンの娘、フェリシア・ボールドウィンと申します」
「顔をあげて」
王様の声。
思い出した。
俺は勢いよく顔を上げた。
改めてまじまじと王様を見つめた。
「フェリシア」
黄金色の髪。フェリシアの名を呼ぶ声。
見覚えも、聞き覚えもあって当たり前だ。
王様は、フェリシアの本当のお父さんだ。
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