15,招待状が届く
魔法の才能はなかった。
ラルフの半分も使えない。
二コラも苦笑いするほどだった。
本当は、聖女の魔法は使えるけど。
それは秘密にしておきたい。
聖女の魔法以外で何か使えるものがあればと期待したのに。
できることは、ポットに半分くらい水をそそぐ程度だった。
「水をちょっと出せるだけって、悲しい……」
ラルフが、小さな土の人形を操っている姿を見ながら、ぼやく。
「水は大切ですよ。
ないと生きていけません。
水さえあれば、数日は生きれます」
土人形を見つめ続ける。
懸命に操ろうとして、俺への答えは上の空だった。
「いざという時ねえ」
目の前に置かれた中くらいの水差しに水をそそぐ。
どんなに一生懸命たくさん出そうとしても、半分ぐらいが精一杯。
「これが限界って悲しい」
「実用的な量ではないですか」
「できる人に言われても、からかわれているようで、惨めになるだけだよう」
ラルフは使えば使うほど鍛錬されるようだ。
真剣に土の人形を操り続ける。
小さなそれを長く思うままに操れないと、大きなものは使えないよと二コラ先生は目だけ笑って、怖い声で言うのだ。。
誤ってしまうと大切な人を傷つけてしまう力です。
そう脅されたラルフは唾を呑み込み、真顔でうなづいていた。
「お嬢様は、神職にも武官にもなりません。魔法が弱くても気になさらずに」
慰めてくれる二コラ先生。
俺は練習することが少ない。
水を出しては庭に捨てるぐらいだ。
ラルフと比べると、虚しい。
「先生、落ち込んでしまいそうです」
せっかく魔法を習えるのなら、カッコよく、火でも扱いたかった。
上手に扱っていたよなあ。
手のひらをかざすと、小さな火の玉が出てきたんだ。
「小さな火の玉とか出せたら、恰好いいのに」
心から残念だ。
☆
そんな日々の中で、一通の招待状が届いた。
庭を眺めるために設けられたテーブル席に腰かける。
ラルフが、執事らしく紅茶をいれてくれている。
本来はこちらが彼の仕事なのだ。
香り良い暖かい紅茶。
クッキーも甘く、サクサクしている。
ミラの作る手作りのそれを思い出す。
婚約者にされるいきさつと、かかわりそうな招待状。
王太子様が、小さなダンスパーティーを開くお招きだ。
「ラルフ。これはどういう会なの」
招待状を、斜めにしたり、裏返したりしながら、眺めまわす。
「表向きは、初めての王太子様主催の夜会です。
夜に開かれますので、お嬢様は旦那様と一緒に行きます。
つまるところ、王太子様と未来のお妃様候補の初顔合わせなのです」
フェリシアが王太子様の婚約者にされていく過程の一つなのだろう。
「回りくどいわね」
フェリシア以外にもはじめは候補がいたということなのだろうか。
10歳で婚約者になったと聞いているが、こんなダンスパーティーがあるなんて。
子どもの頃だし、詳細は覚えてないか。
「候補のご令嬢を王太子様もお会いになりたいのでしょう。
旦那様や王様の意向があるので、きっと王太子様のご自由にはならないとは思いますが」
「すでに決まっているとかはないのかしら」
「お考えはあるかもしれません。表向きの発表がなければ、あくまでも推測にしかなりません」
「私ということはあるのかしら」
「フェリシア様は本命でしょう。
今、一番王様に近い宰相である旦那様の一人娘です。
むしろ、今回の会は、他の年頃のご令嬢含め、表向きは王太子様が選ばれるという体裁を整えるためのものとお考えになるとよろしいかと思います」
「ラルフって、すごいね」
「何がですか」
「大人の考えていることが分かるみたい」
「お嬢様ほど、単純にお考えになられるほうがおかしいですよ」
「そうかしら」
「王太子様のご婚約者様になられるということは、王家の外戚になるということです。
現状、王様のお妃様は大臣家の方です。
王様と旦那様は、どうしても、大臣家を邪険にされることはできません。
手綱をとりつつ、大臣家とうまくかかわりながら、政を行っています」
「そうなんだ」
「他の貴族もいます。
王様の一存で決めても、理由を求められるでしょう。
他の貴族から見ても、申し分ない方でなければ、やはり後々角が立つというものです」
フィーが頑張りすぎていたのは、そういう背景があったのかもしれない。
一人だったというより、孤高の人だったのか。
周囲がライバルだらけだったのか。
しかし、だ。
俺に、そんな申し分ないご令嬢なんて役回りは到底難しくないか。
「私は、そんな難しい立ち位置に、自分が立てるとは思えないわ」
真顔で言ったのが可笑しかったのかもしれない。
珍しく、ラルフは吹き出した。
「私も、同感です。
お嬢様には無理でしょうね」
「そこまで笑わなくてもいいじゃない」
「いえ、よくご自身のことを理解されているなと思いまして」
丁寧に言われても、ひどい。
「私はね。婚約者になりたくないの」
「そういわれましても」
ラルフは困った顔をする。
「王太子様の婚約者は本当になりたくないの」
「お嬢様は変わっていますね。
どこのご令嬢だって、婚約者になりたがります」
「じゃあ、そういう子に譲りたいわ」
「譲りたくて譲れるものでもありませんよ。
私に言っていても仕方ないことです」
「私は、誰とも婚約なんてしたくない」
「貴族の令嬢は自由ではありません。
王太子様でなくても、しかるべき方との縁談は避けられません」
「でも私は、この婚約だけはどうしてもなしにしてもらいたい。
婚約しないですむ方法なんてないかしら」
「旦那様のお考えに背くことは」
「難しいのは分かっているの。
でも、どうしても、私は婚約なんてしたくない」
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