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生まれ変わった《剣聖》は楽をしたい  作者: 笹 塔五郎
第五章 《騎士殺し》編
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163/189

163.少女会議

 エーナは一人、女子寮へと向かっていた。

イリスやアリアのいる寮と同じだ。

 部屋は寮では一番上の階に空き室があったために、そこの一室を使っている。部屋の扉を開けると、エーナは『来訪者』へと声を掛けた。


「部屋で待っているということは、何か動きがあったか?」

「いえ、少々お部屋の整理をさせていただいておりました。エーナ様、到着されてから荷物の整理をされていませんよね?」


 少女――メルシェ・アルティナがエーナの言葉に答えた。

 そう言う彼女の今の服装はメイド服ではなく、エーナと同じく軍服に身を包んでいる。

『任務中』の彼女は、メイドとしてではなく軍人として活動していた。故に、今の服装は軍服なのだ。

 彼女が手にしているのは、丁度――明日からエーナが着る予定である学園指定の制服であった。


「ふっ、せっかくならばお前も通えばいいだろう。私は別に問題ないぞ?」

「遊びで来ているわけではありませんから。エーナ様こそ、学園の生徒として振る舞う以上、その軍服はしばらく禁止です。ただでさえ、あなたは目立つ存在なのですから」

「心配するな。見られて恥じるモノなど私にはない」

「そういう問題では――っと、それより、どちらに向かわれていたのですか? もう少し早く戻られるかと思っていたのですが」


 ふと、メルシェが問いかけてくる。

 エーナは帽子と羽織っていたコートを脱ぎ捨てると、ベッドに横になり、


「アルタの部屋に行っていた。少々話をするために、な」

「なるほど、アルタ様の部屋に。それでは、協力要請は上手くできたということでしょうか?」

「ああ、その点については抜かりない――抜かりないが、反応が薄くないか?」

「? 薄い、とは?」


 メルシェはエーナの制服を整えながら、きょとんとした表情を浮かべた。


「なんだ、その『何かありましたっけ?』みたいな顔は」

「代弁ありがとうございます。まさにその気持ちでした」

「お前はそういうところがあるな……。いいか、私が惚れた男の部屋に行ったんだ。しかも、一人で! 『何かあったのではないか』と勘繰るのが普通ではないのか?」

「何もなかったのでは?」

「ふっ、奴の作った夕飯を食べた」



 したり顔でエーナは答えた。対するメルシェの表情は特に変わることはなく、むしろ予想通りと言った表情である。

 エーナは少し不服そうな表情を浮かべる。


「……なんだ。言いたいことがあるのなら言ってみろ」

「失礼ながら、エーナ様らしいと思いました」

「それは失礼なのか? 何を以て失礼としている?」

「特に何もなかったではないですか」


 メルシェがはっきりとエーナに告げる。

 エーナはきょとんとした表情をして、すぐにふっと笑みを浮かべた。


「そんな急に何か起こるわけもないだろう。だが、惚れた男と一つ屋根の下で食事をする――この経験は私にとって初めてのことだ。素晴らしいだろう?」

「それで満足できるのであれば――っと、話が逸れてしまいましたね。それで、アルタ様の協力を得ることができた、と」

「別に逸れてはいないが……まあいい。協力は得た。その代わり、こちらの持つ情報については全て渡すことになるな」

「全て、ですか。それはつまり、今回の『敵』の狙いについても?」

「当然だ。これは帝国だけでなく、王国――いや、ひいては諸外国全てにも関わることになる話だ。問題となるのは帝国の立場だが、それを考えるのは今ではない」

「一つ片付いたと思えば、また大きな問題がやってくる……休む暇もありませんね」

「だから言っただろう。気分転換に学園生活でも楽しんだらどうだ、と」

「私のことではなく、あなたのことです」


 メルシェは真剣な表情で言った。

 エーナの前に立ち、心配した面持ちをしている。


「私か? 私は十分に休養も取っている。今だって、全く疲れてはいないのだからな」

「そういう問題ではなく……エーナ様には《影の使徒》の解体に、ご助力いただいたことは本当に感謝しています」

「そのことについては気にする必要もない。むしろ、お前のおかげで組織を追い詰めるために動くことができたのだからな」


 影の使徒――首領であったクフィリオ・ノートリアは死に、帝国内に残っていた関連施設も全て帝国軍が制圧した。

 そこから、繋がりのあった帝国軍の過激派も数名を拘束。国家間の戦争を目論む者達の動きは静まり、エーナの父であるルガール・ボードルは帝国軍の元帥として、その力を確固たるモノとした――表向きには、だ。

 それ故に、帝国の抱える『爆弾』まで、全てをルガールが背負うことになる。

 今もなお、帝国に蔓延した悪を全て掃討するには程遠いと言うのに。


「私は今後も、エーナ様のために働くつもりです。ご恩に報いるために、ずっとあなたのお傍にいたいと思っています。ですが……今回の敵はあまりに強大です。護衛も大した数を連れずに留学など。アルタ様との協力が結べたのはよかったですが、それでも本当に勝てるかどうか――」

「メルシェ、お前は何か勘違いをしているな」


 メルシェの言葉を遮り、エーナは言い放った。

 ぽんぽん、とベッドのシーツを叩き、メルシェに座るように促す。

 メルシェが座ると、エーナはメルシェの肩を引っ張って押し倒した。


「! な、何を……?」

「私は『私がしたいこと』をしているだけだ。それが、《ファルメア帝国》にとっていいことであると確信を持っている。そして、私は帝国をより良い国にしたい――戦うことは好きだが、無為に戦争を起こすような真似を私は望まない。無論、それが必要であることならば、私は戦場にも立つだろう。だが、それを未然に防ぐことができるのであれば、私はその道を選ぶ。私が戦うことでできるのなら、な。だから、今回も私ができることをしているだけだ」

「それは……分かっているつもりです。ですが、あなたはご自身の命を軽く見すぎています」

「ふはっ、言うではないか。それが『妹を守るために命を懸けた女』の言葉ということか?」

「それは……その通りです」

「ならば、私は帝国の民のために命を懸けているだけだ。帝国軍人には、民を守る義務がある。私はそれを遂行しているだけにすぎん。故に、私は私の命も軽んじてはいない。私が死ねば、民を守る者がいなくなるかもしれないからな」


 エーナはそう言い切るが、それでもメルシェの表情は少し不満そうであった。

 ごろんと、メルシェの隣にエーナは寝そべる。


「私の言葉ではまだ不服か?」

「いえ……ただ、やはり『あなたらしい』と思いました。そして、私の役目は――そんなあなたを守ることです」

「ふはっ、それでこそ私の信頼する部下だ。敵は確かに強いが……心配はいらん。私自身が選んだ男が味方にいるのだからな」

「惚れた男だから選んだ、だと示しがつきませんからね」

「む、そんなことは――いや、そう言われるとそうだな……」


 メルシェの言葉に納得し、エーナは眉を顰める。

 そんなエーナを見て、メルシェはくすりと笑みを浮かべた。

 軍人少女達の『会議』は、こうして静かに過ぎていった。

エーナとメルシェの組み合わせです。

何気にこの二人の話し合いは作者のお気に入りです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 後書きにもあるように、打てば響く主従の会話がいいですね^^ メルシェサイドからの今回の顛末の内心も読んでみたいです。 次回も楽しみにしています。
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