表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生まれ変わった《剣聖》は楽をしたい  作者: 笹 塔五郎
第四章 《恋知らぬ少女》編
PR
155/189

155.見送り

「あーっ、もう! 姉様が遅いから馬車が行っちゃったわよ! 隣の町に行く馬車をまた探さなきゃ……!」

「そんなに焦らないでも大丈夫よ、クロエちゃん。アルタちゃんは今日、騎士団の方でお仕事をしているみたいだし、見送りも断っているんだから」


 クロエの言葉を聞いて、マリエルはゆっくりとした口調で答えた。

 すると、クロエは少し顔を赤くして言い返す。


「べ、別にあいつが来るとか来ないとか、そういうのは気にしてないのっ! 姉様だって、あの後あいつと話さなかったじゃない」

「ダメよ、クロエちゃん。アルタちゃんのことを『あいつ』だなんて。ちゃんと『お兄ちゃん』と呼びなさい」

「呼び方なんてどうでもいいでしょ! ちょっと他の馬車を探してくるから、ここから動かないでよ!? いいわね!」


 ビシッと指差しまでされて念を押され、マリエルは小さく嘆息しながら頷いた。

 クロエが代わりの馬車を探しに行く姿に手を振って見送ると、マリエルは振り返る。


「見送りに来てくれたのね、イリスちゃん」

「……その呼び方は固定、なんですね」


 そこに立っていたのはイリスだ。

 前に会った時とは違い、学生服姿の彼女の姿を見るのは新鮮だ。同時に、イリスがまだ『学生』の身分であることを、マリエルにも改めて理解させる。


「あら、もしかしてあなた一人? 前にも思ったのだけれど、アルタちゃんは常に一緒にいるわけじゃないのね。護衛という立場なのに」

「そんな毎日狙われているわけではありませんから。それに、仮に狙われたとしても――私は自分の身を守るくらいのことはできます」

「そうね。あなたには、それくらいの力があることはわたくしも分かっているわ。アルタちゃんも常に一緒にいるわけではないのでしょうけれど……それで、一人でここに来たのは、わたくしに何か大事な話があるから?」

「大事な話ってわけじゃないんですけど……今日ここを立たれると聞いていたので、見送りたいと思ったので。先生は仕事で来られないとのことでしたし」

「アルタちゃんは忙しいものね。騎士になってから一度も帰ってこないし……イリスちゃんからも言っておいてくれる? たまには顔を出しなさいって――あ、それだと護衛の仕事ができないわよねぇ」


 マリエルが悩むような仕草を見せると、イリスが少し慌てる表情を見せて答える。


「わ、私なら平気ですからっ」

「でも、アルタちゃんはきっと数日間も離れることはよしとしないわ。意外と、仕事に対してはストイックなところあるし」

「そう、ですね。それなら、私も一緒に行けば、先生も帰ってくれるかもしれません」

「あら、あらあら? それはもしかして……アルタちゃんのお嫁さんに来てくれるってこと?」

「――っ! だ、だから、どうしてそういう話になるんですかっ! 全然、違いますっ!」

「うふふっ、冗談よぉ」


 顔を真っ赤にして怒るイリスに、マリエルはそう言って誤魔化すが――以前の反応も踏まえて、『察する』ところはあった。

 確かに冗談のつもりで言っていたが、イリスはどうやら嘘が下手らしい。

 ここまで露骨に反応していては、『全然違う』という言葉が嘘であることは、マリエルにもよく伝わってくる。……イリスがアルタのことを意識していることは、明白であった。


(アルタちゃんがイリスちゃんの護衛になってからまだ数か月ほど……けれど、その間に随分と『濃い出来事』が多かったみたいだし、そういう想いを抱くのも不思議ではないのかもしれないわね。なら――)

「イリスちゃんは、アルタちゃんの昔話に興味がある?」

「昔話、ですか?」

「そう。――と言っても、すごく簡単な話。わたくしが知っているアルタちゃんは……シュヴァイツ家にやってきた頃からだから。子供の見た目で誰よりも冷静で、まるで大人の話しているかのように思わせる彼は、紛れもなく『普通』ではなかったわ。その上、剣術においてはわたくしよりも数段上のレベル――はっきり言ってしまえば、『異常』としか思えないの」

「異常、ですか」

「だって、そうでしょう? イリスちゃんはもう知っているかと思うけれど、子供でありながらあれほど完成した強さを持っているんだもの。けれど、あの子は過去のことは話したがらないのよ。それに、完成した強さを持つからかしら……向上心もないの」

「……」


 イリスは神妙な面持ちでマリエルの話に耳を傾けていた。様子を見る限りでは、イリスもアルタの過去の話については聞いていないのだろう。

 だからこそ、イリスに話す価値がある。


「でもね、ここ最近は少し変わったのよ。護衛もただの仕事でしかない――シュヴァイツ家への報告は淡々としたものになるはずだった。わたくしでも、そう思っていたの。けれど、あの子……よく学園での話を手紙に書くわ」

「学園のこと、ですか」

「そう。ふふっ、騎士の仕事をしているはずなのに、おかしいでしょう? でも、学園のことなら、むしろ騎士として隠しておかなければならないことが少ないから。だから、『講師として苦労』していることはよく書かれているわ。その中で、よく触れられるのはあなたのこと」

「っ! わ、私のことですか……? えっと、変なことは……?」


 動揺した様子を見せるイリス。その姿を見て、マリエルはくすりと笑みを浮かべて答える。


「ふふっ、内緒」

「え、ええ……!? そこまで話したのに……?」

「それはそうよ。だってこれは、アルタちゃんの秘密だもの。けれど、これだけは教えてあげる。アルタちゃんは――あなたのことを大切に考えているわ。だから、イリスちゃんにもお願い。あの子のこと、これからもよろしくお願いね」

「……もちろんです。これから私はもっと強くなって、アルタ先生よりも強い騎士になってみせます。それが、マリエルさんにも誓ったことですから」

「ふふっ、その時になったらわたくし――いえ、わたくし達も、あなたのために力を尽くすわ。それが、わたくしがあなたに誓ったことですものね。だから、これから気を付けてね、イリスちゃん」

「はい、マリエルさんも」


 イリスとの話を終え、マリエルは「クロエが戻ってくるとまた話が長くなる」と理由を付け、彼女を見送った。

 先日に起こった事件――あれもまた、王国内における権力争いによるものであることは、マリエルも理解していることだ。

 そんな闘争の中で、シュヴァイツ家はこれから、明確に『ラインフェル家の味方』であることを主張する。

 それが正しいことなのか、間違っていることなのかは――今のマリエルには分からない。ただ、


「イリスちゃんと一緒にいた時のアルタちゃん、楽しそうだったものね。本当は、あの時から『一緒にいること』は許しちゃっていたのよね。わたくしとしては」


 シュヴァイツ家の代表として『試す』ことにしたが、心の底では久しぶりに再会したアルタの姿を見て、すでに心は決まっていた。

 家族が心配していても心のうちを見せることのないアルタが、イリスと共にいて徐々に打ち解けるようになったのなら――それはきっと、彼にとっていい傾向だからだ。


「姉様ーっ! 代わりの馬車が見つかった――って、どうしたの? そんなに嬉しそうな顔して……」

「ふふっ、ちょっとアルタちゃんのことを思い出したのよ」

「また『バカ兄貴』の話……? 《碧甲剣》も折ったあんな奴のことなんてどうでもいいわよ」

「そんなこと言って……本当は『お兄ちゃんともっと仲良くしたい』のに騎士になるなんて言うから、ツンツンしてるってことアルタちゃんに教えちゃうわよ」

「――っ! そ、そんなわけないでしょ! もう、知らないっ! 姉様なんて王都で迷子になっちゃえ!」

「あ、待って、クロエちゃん。そんなに急いだら迷子になっちゃうわ」

「なるのは姉様の方でしょ!」


 怒るクロエの後を追って、マリエルは歩き出す。シュヴァイツ家の面々は、こうしていつもの日常へと戻っていった。

これにて第四章は完結となります。

第五章については準備ができましたら連載を始める予定なので、少々お待ち下さい!

予定としては、次回は学園物らしく『学園祭』とかテーマにしようかな……って思ってます。

ここまでお読みいただいてありがとうございました!

引き続き、よろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍3巻と漫画1巻が9/25に発売です! 宜しくお願い致します!
表紙
表紙
― 新着の感想 ―
[良い点] やっぱ妹ちゃんはツンデレだったか 想定通りだ [一言] 更新ありがとうございます 次の章も楽しみにしてます
[一言] 更新お疲れ様です。 泰然自若と構える流石の貫禄のマリエルと、彼女に『指摘』され『あわわ』のイリスの対比がいいですね^^ 鋭いマリエルも、アルタの『前世』というのは埒の範疇外でしょうし、『老…
[良い点] お姉さん、相変わらず大物感がハンパない…つくづく、女当主以外の役職が思い付かないです…(苦笑) [気になる点] あぁ…結局、この時点では碧甲剣は直らないままなんですね…(微笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ