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生まれ変わった《剣聖》は楽をしたい  作者: 笹 塔五郎
第三章 《剣客少女》編
117/189

117.任務の完了と……

 灯台の上でしばし休憩をした後、僕とイリスは灯台から降りた。

 そこで待機していたレミィルと合流する。


「まずはよくやってくれた。さすが、私の信頼する騎士だ」

「今回、僕が倒したのは一人だけですよ。ほとんどイリスさんのおかげです」

「わ、私はそんな……」


 僕の言葉を聞いて、少し恥ずかしそうに頬を染めるイリス。やはり、褒められることには慣れていないのかもしれない。

 そんなイリスの前に、レミィルが立つ。


「ラインフェル嬢。今回、あなたに助けられたのは事実かもしれません。ですが、身の危険を顧みない行動は慎んでいただかなければ。結果的には無事でしたが、あなたはまだ学生の身です。そして、《王》の候補の一人でもあられる」

「それは……すみません」


 レミィルの言葉に、イリスは反論するような素振りを見せたが、素直に謝罪する。

 確かに、イリスの行動は危険が伴うのも事実だった。

 僕が彼女を褒めるのは、あくまで師匠としての立場にある。

 イリスの危険な行動を、咎める人間も必要だろう。 

 レミィルはその立場を買って出た、というところか。

 灯台近辺は僕が引き受け、他の騎士団のメンバーは別のところに配備していた。

《剣客衆》が二人は残っている以上、どうしても偏った構成にならざるを得ない。

 対応できる人間が、僕を除けばレミィルくらいしかいないのだから。

 少し落ち込んだ表情を見せたイリス。

 レミィルが小さく息を吐くと、笑みを浮かべて彼女を抱き寄せる。


「けれど、あなたが無事でよかった……」

「あ……えっと、ありがとう、ございます」


 イリスが少し、驚いた表情を見せる。

 レミィルは心底、イリスのことを心配しているようだった。

 ……イリスの父である、ガルロ・ラインフェルはレミィルの上官でもあった。

 レミィルもまた、イリスのことを心配している者の一人なのだ。


「団長、ルイノは?」

「まだ目を覚ましていない。一先ずは拘束して王都へと連行する予定だ。今回の任務は、これで完了だよ」

「……? まだ剣客衆は二人残っているはずですが」

「ああ、その件だが――」

「イリスっ」


 僕がレミィルから話を聞いていると、少し離れたところから声が届く。

 やってきたのはアリアだ。


「アリア――わっ!?」


 イリスの懐に飛び込むように、アリアが突っ込んでいく。

 イリスはバランスを崩して倒れそうになるが、すでに踏ん張る力は回復しているようだった。

 飛び込んできたアリアを抱き寄せると、そのまま優しく頭を撫でる。


「ごめんね。心配かけて」

「……本当だよ。でも、イリスと先生のことは、信じてるから」


 イリスの胸元に顔をうずめて、アリアは言う。

 僕は灯台の上から、二人の様子は確認していた。

 アリアはアリアで、クラスメートのミネイ・ロットーを守るために尽力してくれていたのだ。

 彼女にも感謝しなければならない。


「ロットーさんは?」

「まだ宿で休んでるよ。怪我はなかった」

「そう、一先ずは安心ね」

「イリスは怪我してる」

「私は、大丈夫よ。ちょっと――いえ、かなり疲れたけれど」

「帰ったらマッサージしてあげる」

「本当? ありがとうね」

「ラインフェル嬢、まずは救護班に怪我の容態を見てもらってください。アリアちゃん、ラインフェル嬢のことを頼むよ」

「うん。イリス、行こう?」

「ええ、分かったわ。先生、後で状況については確認させてください」

「はい、分かりました。今は、怪我の治療に専念してください」


 アリアに付き添われ、イリスは救護班の下へと向かう。

 まだ、剣客衆が二人残っているということが、イリスも分かっているのだろう。

 本来ならば、この場で話を聞こうとするつもりだったのかもしれない。

 改めて、その場に残ったレミィルとの話を続ける。


「先ほどの続きですが、任務完了というのは?」

「ああ。先ほど、別の騎士団から連絡が入った」

「……別の騎士団?」

「元々、《黒狼騎士団》――もとい、君がこの町を担当したのは、剣客衆が君を狙っているのと共に、ここにも剣客衆がいた、という情報を伴ってのことだ。だが、最初に話した通り、他の騎士団も剣客衆に対応するため動いていた。残りの二名は、先ほど別の騎士に討たれたそうだ」

「! そうなんですね」


 僕はそれを聞いて、少し驚く。

 どうやら、この町にやってきた剣客衆は三人だけだったようだ。

 故に、僕がリグルスを討った時点で剣客衆は全滅した、ということになる。だが、


「意外かい? 他の騎士団が、剣客衆を討ったというのは」


 レミィルがそう切り出す。

 僕は頷いて答える。


「はい。確かに、五人の騎士団長の実力であれば、剣客衆とも十分に戦えるレベルにはあると思います。ですが……一人で討つのは厳しいかと」


 レミィルについてもそうだ。

 彼女と騎士団の役割は、あくまで足止めをしてもらうこと。最終的には、残りの剣客衆も僕を狙ってやってくることは分かっている。

 だから、全員僕が倒すことになると思っていたのだが……。


「私も正直、驚いたよ。まさか、『単独』で剣客衆を討つことができるレベルの者を、他の騎士団が有していたとはね」

「単独ですか。でも、それなら正直助かりますね。僕の役目はこれで終わりなわけですから」

「ああ。確かに、王国の戦力が揃うことは良いこと……のはずなのだけれどね」


 レミィルは、何やら考え込むような仕草を見せる。


「何か問題でも?」

「……そうだな。君は騎士団の情勢については、あまり関心を持っていないからね。そろそろ説明が必要かもしれないな。何せ、ラインフェル嬢も関わってくることだ」

「イリスさんが?」

「そうだ。察しているかもしれないが、黒狼騎士団はラインフェル嬢のことを優先して保護している。それは、彼女が我々の管理する区画にいるからではないんだ。彼女は、我々の管理する区画で保護するようにしているんだよ」


 レミィルが言い放つ。

 その言葉の意味は、今の僕にもある程度は理解のできるものであった。

 何せ、かつては《守護騎士団》と呼ばれる王宮を守護する者達が、ゼイル・ティロークを擁立していたのだから。

次話かその次くらいで第三章は完結となります。

第四章については大体構想は終わっていますが、この作品には珍しく? というわけではないですが、明るい雰囲気の話が増えるかもしれません。

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表紙
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― 新着の感想 ―
[一言] レミィルが弱すぎたて虚しくなってきた… 団長なのにイリスより弱いなんて、、イリス達が特別なんだろうが、もう少し強くないと騎士団とは?ってなるよね。てかすでになってる…
[一言] 更新お疲れ様です。 レミィルの苦言(><) まあイリスの行動は褒められたものではないのでしょうが、普段のレミィルの行動(仕事放棄&逃亡)を知っているだけに、読者視点からはなんだかなぁという…
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