117.任務の完了と……
灯台の上でしばし休憩をした後、僕とイリスは灯台から降りた。
そこで待機していたレミィルと合流する。
「まずはよくやってくれた。さすが、私の信頼する騎士だ」
「今回、僕が倒したのは一人だけですよ。ほとんどイリスさんのおかげです」
「わ、私はそんな……」
僕の言葉を聞いて、少し恥ずかしそうに頬を染めるイリス。やはり、褒められることには慣れていないのかもしれない。
そんなイリスの前に、レミィルが立つ。
「ラインフェル嬢。今回、あなたに助けられたのは事実かもしれません。ですが、身の危険を顧みない行動は慎んでいただかなければ。結果的には無事でしたが、あなたはまだ学生の身です。そして、《王》の候補の一人でもあられる」
「それは……すみません」
レミィルの言葉に、イリスは反論するような素振りを見せたが、素直に謝罪する。
確かに、イリスの行動は危険が伴うのも事実だった。
僕が彼女を褒めるのは、あくまで師匠としての立場にある。
イリスの危険な行動を、咎める人間も必要だろう。
レミィルはその立場を買って出た、というところか。
灯台近辺は僕が引き受け、他の騎士団のメンバーは別のところに配備していた。
《剣客衆》が二人は残っている以上、どうしても偏った構成にならざるを得ない。
対応できる人間が、僕を除けばレミィルくらいしかいないのだから。
少し落ち込んだ表情を見せたイリス。
レミィルが小さく息を吐くと、笑みを浮かべて彼女を抱き寄せる。
「けれど、あなたが無事でよかった……」
「あ……えっと、ありがとう、ございます」
イリスが少し、驚いた表情を見せる。
レミィルは心底、イリスのことを心配しているようだった。
……イリスの父である、ガルロ・ラインフェルはレミィルの上官でもあった。
レミィルもまた、イリスのことを心配している者の一人なのだ。
「団長、ルイノは?」
「まだ目を覚ましていない。一先ずは拘束して王都へと連行する予定だ。今回の任務は、これで完了だよ」
「……? まだ剣客衆は二人残っているはずですが」
「ああ、その件だが――」
「イリスっ」
僕がレミィルから話を聞いていると、少し離れたところから声が届く。
やってきたのはアリアだ。
「アリア――わっ!?」
イリスの懐に飛び込むように、アリアが突っ込んでいく。
イリスはバランスを崩して倒れそうになるが、すでに踏ん張る力は回復しているようだった。
飛び込んできたアリアを抱き寄せると、そのまま優しく頭を撫でる。
「ごめんね。心配かけて」
「……本当だよ。でも、イリスと先生のことは、信じてるから」
イリスの胸元に顔をうずめて、アリアは言う。
僕は灯台の上から、二人の様子は確認していた。
アリアはアリアで、クラスメートのミネイ・ロットーを守るために尽力してくれていたのだ。
彼女にも感謝しなければならない。
「ロットーさんは?」
「まだ宿で休んでるよ。怪我はなかった」
「そう、一先ずは安心ね」
「イリスは怪我してる」
「私は、大丈夫よ。ちょっと――いえ、かなり疲れたけれど」
「帰ったらマッサージしてあげる」
「本当? ありがとうね」
「ラインフェル嬢、まずは救護班に怪我の容態を見てもらってください。アリアちゃん、ラインフェル嬢のことを頼むよ」
「うん。イリス、行こう?」
「ええ、分かったわ。先生、後で状況については確認させてください」
「はい、分かりました。今は、怪我の治療に専念してください」
アリアに付き添われ、イリスは救護班の下へと向かう。
まだ、剣客衆が二人残っているということが、イリスも分かっているのだろう。
本来ならば、この場で話を聞こうとするつもりだったのかもしれない。
改めて、その場に残ったレミィルとの話を続ける。
「先ほどの続きですが、任務完了というのは?」
「ああ。先ほど、別の騎士団から連絡が入った」
「……別の騎士団?」
「元々、《黒狼騎士団》――もとい、君がこの町を担当したのは、剣客衆が君を狙っているのと共に、ここにも剣客衆がいた、という情報を伴ってのことだ。だが、最初に話した通り、他の騎士団も剣客衆に対応するため動いていた。残りの二名は、先ほど別の騎士に討たれたそうだ」
「! そうなんですね」
僕はそれを聞いて、少し驚く。
どうやら、この町にやってきた剣客衆は三人だけだったようだ。
故に、僕がリグルスを討った時点で剣客衆は全滅した、ということになる。だが、
「意外かい? 他の騎士団が、剣客衆を討ったというのは」
レミィルがそう切り出す。
僕は頷いて答える。
「はい。確かに、五人の騎士団長の実力であれば、剣客衆とも十分に戦えるレベルにはあると思います。ですが……一人で討つのは厳しいかと」
レミィルについてもそうだ。
彼女と騎士団の役割は、あくまで足止めをしてもらうこと。最終的には、残りの剣客衆も僕を狙ってやってくることは分かっている。
だから、全員僕が倒すことになると思っていたのだが……。
「私も正直、驚いたよ。まさか、『単独』で剣客衆を討つことができるレベルの者を、他の騎士団が有していたとはね」
「単独ですか。でも、それなら正直助かりますね。僕の役目はこれで終わりなわけですから」
「ああ。確かに、王国の戦力が揃うことは良いこと……のはずなのだけれどね」
レミィルは、何やら考え込むような仕草を見せる。
「何か問題でも?」
「……そうだな。君は騎士団の情勢については、あまり関心を持っていないからね。そろそろ説明が必要かもしれないな。何せ、ラインフェル嬢も関わってくることだ」
「イリスさんが?」
「そうだ。察しているかもしれないが、黒狼騎士団はラインフェル嬢のことを優先して保護している。それは、彼女が我々の管理する区画にいるからではないんだ。彼女は、我々の管理する区画で保護するようにしているんだよ」
レミィルが言い放つ。
その言葉の意味は、今の僕にもある程度は理解のできるものであった。
何せ、かつては《守護騎士団》と呼ばれる王宮を守護する者達が、ゼイル・ティロークを擁立していたのだから。
次話かその次くらいで第三章は完結となります。
第四章については大体構想は終わっていますが、この作品には珍しく? というわけではないですが、明るい雰囲気の話が増えるかもしれません。






