表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私立薬師寺学院特進科!5  作者: 有栖川優悟
4/4

32*Attitude

Attitude――立場


日本総合薬剤師会拠点


 トウキョウ都シンジュク区――そこは日本総合薬剤師会の拠点がある。

 そこにヒュギエイア機関――正式名称『ヒュギエイア総合薬物研究機関』日本支部の薬師くすりし松本まつもと白華はっかも赴いていた。

 そこでは、C14H19NO2・メチルフェニデートのことが話し合われていた――


「メチルフェニデートのことは、貴方達ヨコハマに頼んだはず。まだデータが取れないのか」


 山本やまもと環奈かんな

 日本総合薬剤師会の会長である。

 彼女はトウキョウ薬剤師会を無能と切り捨て、ヨコハマ市薬剤師会にリタリン関係のことを依頼した。


「はい、ヒュギエイア機関日本支部の建物にカメラを仕掛けています」

 寺師てらしぎん

 ヨコハマ市薬剤師会の会長を務める薬師である。

「それで…?」

「しばらくは情報収集に徹することと致しました」

「どのような状況になっている?――松本、説明しなさい」

 松本はホワイトボードの上にプリントをマグネットで留めた。

「説明します。本機関ではC14H19NO2・メチルフェニデートに巣食うデキストロメチルフェニデートが暴走の兆しを見せていましたが、今のところは装置をつけて制御しています。それ以降、神宮寺じんぐうじ彼方かなたの夢にも今の所出てはいません」


 神宮寺彼方。メチルフェニデートの参考服薬者レシピエントである。

 フィリア女子学院に通う生徒で、現在はナルコレプシーを患い、瑠璃光るりこう総合病院に入院している。

 かつて彼女の夢にはデキストロメチルフェニデートが出ており、それは彼女を苦しめていた。


「…そうか。暴走がない限りは、情報収集に徹しよう。我々薬剤師会は、戦うための組織ではない。…大学側」


「はい!」

 篠塚しのづか・グレース・コーデリア。

 ヨコハマ薬科大学の教授である。

 彼女にはC18H21NO3・メチルモルヒネが取り憑いているが、そのことは関係者以外には秘密にされている。

「我々ヨコハマ薬科大学側も、薬剤師会に倣い情報収集に徹することに致しますわ」

「…そうか。マトリ側は?」


 鈴木すずき雪菜ゆきな

 松本と同じ大学の薬学部だった女性で、麻薬取締官マトリである。

「こちらも、情報収集に徹しますが、有事の際は麻薬を押収します。――松本、それでいい?」

「構わないわ。山本会長は?」

「松本が構わないなら構わない。元々ヒュギエイア機関日本支部は貴方が責任者だからな」

「そうですね。有事の際は、皆様のご協力を仰ぐことになるかと思います」

「そうか、その時には是非とも協力させてもらおう。では、用が済んだら退室するように。解散」

 松本達は、足早に立ち去った。


 ***


同時刻 私立薬師寺学院神経系科 教室


 生徒会長選挙の話で持ちきりになっていたのは、神経系科も同じだった。

 神経系科を含めた普通科では『特進科に味方する派』と『特進科に味方しない派』が争っている。


「えーっと…今年はどんなんだっけ?」

 C8H9NO2・アセトアミノフェン。商品名はカロナール。‬

 解熱鎮痛薬の一つである。

 現在は米国と欧州で最も利用される鎮痛薬・総合感冒薬で、WHO必須医薬品モデル・リストに含まれている医薬品でもある。

 神経系科の学級委員をしており、同じく女性の人格を持つラメルテオンのことを好いている。


「確か味方する派と、味方しない派だよね…?うちの科だと私派とロキソニン派ってことになってるけど…」

 C16H21NO2・ラメルテオン。商品名はロゼレム。

 メラトニン受容体アゴニストの一つである。

 体内ではホルモンのメラトニンがこの受容体に結合し、入眠のリズムを司っているが、彼女はその作用を模倣している。

 1歳年上のアセトアミノフェンとは、本人の要望でタメ口で話している。


「で、カロナールは?」

「勿論、ロゼレムだよ!ストラテラは?」


「ボクは…うーん、ラメルテオンさんですね…というか前の生徒会長のイメージが強すぎてなぁ…」

 C17H21NO・アトモキセチン。商品名はストラテラ。

 ノルアドレナリン再取り込み阻害薬の一つである。

 日本では『コンサータ』としてのメチルフェニデートと同じく、注意欠陥多動性障害に適応している。

 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律における劇薬である。


『前の生徒会長』――C21H28O5・プレドニゾロン。

 日本国内に初めて導入されたステロイド系抗炎症薬で、抗炎症作用や免疫抑制作用などの薬理作用を有しており、様々な疾患の治療に幅広く用いられている。

 臨床各科において最も重要な薬剤の一つで、WHO必須医薬品モデル・リストにも収載されているが、ドーピング禁止薬物のひとつでもある。

 私立薬師寺学院では器官系科の生徒にして普通科の先代生徒会長であり、絶大なカリスマを誇っていた。


「ねっ、ミルタは?」

「ロゼレム派だなー。ロゼレムって確かリタリンと仲良いんだっけ?」

「まあね!」


「生徒会長に当選して学校を変えられたら、リタリンと接する機会も増やしてもらえるかもよ?ベンゾジアゼピンの薬たちと関わるのは…抑えが利かなくなりそうで、怖いんだけどさ」

 C17H19N3・ミルタザピン。商品名はリフレックス。

 四環系抗うつ薬の一つである。

 ベンゾジアゼピン系などの鎮静剤とは相加的な鎮静作用が考えられるため、併用注意とされている。

 ミアンセリンの双子の弟であり、彼女のことは頼りにしているが愛が重いとも感じている。


「それいい!それをマニフェストに掲げようかな?」

「ミルタ、私も協力するよ!」

「…ミアン?」


「だってそうでしょ?ミルタの望みは私の望み。私達は2人で1人なんだからさ」

 C18H20N2・ミアンセリン。商品名はテトラミド。

 四環系抗うつ薬の一つである。

 メチルフェニデートと同じく、ラセミ体である。

 ミルタザピンの双子の姉であり、好意を寄せる彼の望むことを全て叶えようとする。


「そっかー…リスパダールさんは?」


「今年は中立、とさせてもらおう」

 C23H27FN4O2・リスペリドン。商品名はリスパダール。

 非定型抗精神病薬の一つである。

 主に統合失調症の治療に用いられ、時にセロトニン・ドーパミン拮抗薬に分類される。

 パリペリドンは彼の活性代謝物にして弟である。


「兄貴…」

「インヴェガさんは?」


「俺はロキソニン派だ。特進科の人格破綻者共と付き合えるわけないだろう!」

 C23H27FN4O3・パリペリドン。商品名は錠剤がインヴェガ、注射剤がゼプリオン。

 非定型抗精神病薬の一つである。

 主に統合失調症の治療に用いられる。

 自分より優秀な兄・リスペリドンにコンプレックスを抱いており、特進科のことも毛嫌いしている。


「特進科にはリタリンも含まれてるんですよ!彼女までそう見做すんですか?」

「そうです!仮にも私のロゼレムの友達を、人格破綻者呼ばわりとは…!」

「えっ、私ってカロナールのだったっけ?」


「2人共…パリペリドンさんの言っていることも、間違いじゃないでしょ」

 C15H18O3・ロキソプロフェン。商品名はロキソニン。

 プロピオン酸系の消炎鎮痛剤の一つである。

 彼女のコマーシャルにはかつてモデルだった青葉あおばクリスティーナが出ていたことがある。


「ロキソさんには私もいるでしょ?」

 C13H18O2・イブプロフェン。商品名はブルフェン。

 プロピオン酸系の消炎鎮痛剤の一つである。

 WHO必須医薬品モデル・リストに含まれている医薬品でもある。

「そうだね!さて、ラメルテオン…」


「貴方が考えてる程、特進科は甘いはずないんじゃない…?いくらメチルフェニデートがいるからって、ね…」


 ***


同時刻 私立薬師寺学院特進科 談話室


 フェンタニル、メサドン、デソモルヒネの3人は何やら話し込んでいた。


「否定する9人は、今のところリタリン以外は姉さん派っぽい」

「リタリンは本人だもんな。でも、誰がいつロヒプノールさん側に寝返るか…」

「今のところ、フルニトラゼパムさんに味方する予定はございません」

「あー…フェンタニルはそうだよねー…」


 フェンタニルは回想していた。

 デキストロメチルフェニデートと会話した時のことを。


『貴方も大変でしょう。貴方の体は貴方のものではなくなっているのですから』

『ああ。…お前の強さは信頼している。協力してくれるのだろうな…フェンタニル?』

『わかっています、デキストロメチルフェニデート』


 フェンタニルはどことなく強がってみせた。

 デキストロメチルフェニデートに対して、あるいはメチルフェニデートに対して。


『あの程度の薬、貴方が相手するまでもありませんから』


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ