表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
New Age  変革編  作者: えんじゅ
第二部 「水瓶座の時代 Age of aquarius」
9/79

似て非なる面影「長宗我部元親」②

少数精鋭ギルド「戦国華憐家」の住処。その室内は外観に似て質素な造りをしていた。

木造りの家具は年季が入っていて随所に痛みが見つけられる。

中央に配置された長方形のテーブルは足が長く、上には橙色のランチョンマットが敷いてあった。

「まぁ座れよ」

テーブルを挟んで向かい合う椅子の一つに腰掛け、片足を膝の上に組む元親。

彼は台の端に銀色の小皿を置いて、煙草を咥えた。

「この世界でも煙草が吸えたのは幸運だったぜ」

ネットゲームだった頃のNew Ageには装飾品(アクセサリー)枠に煙草が実装されていた。

「変革」後、煙草屋なる専門店が現れたのはその名残だろう。

半兵衛は窓枠で並ぶ植木鉢を背後に黙して佇んでいる。

ココナとなおえは元親と真正面から対座する形で、それぞれ椅子に腰を落とした。

「他の皆はどうなったんだい?」

戦国華憐家の現状を知らないなおえが訊ねかける。

「幸村以外が意識混濁性消失障害(ロストボディ)になってたんだけどな。道雪は〈変革〉後、未開領域(アセンション)に旅立ってそのまま帰ってこねぇ。長政は反抗期だよ。あいつ、とうとう先月、家出しやがった」

「あれは元親、貴方が悪いです」

口を挟む半兵衛。

「んなこと言ってもよぉ、まさか家出するとは思わねぇじゃんか」

「見苦しいです。素直に非を認めて切腹してください」

いつの間にか暖炉に火を起こして湯を沸かしていた半兵衛。

彼女は茶葉を湯煎しながら、背中越しに口を挟んでいる。

「切腹したら死んじゃうんですけど、それは」

「介錯ならするよ」

「いや謙信のらなくていいからな?」

「あぁ、私の事はなおえ。と呼んでくれないか。今はその方がしっくりくるんだよ」

「なおえ……か。まぁ確かに、なんか謙信とは別人に見えるもんなぁ」

「上杉謙信」の容姿ではなく、「なおえかねつぐ」としての容姿を引き継いで意識混濁性消失障害(ロストボディ)になったなおえ。

戦国華憐家の「上杉謙信」としてのなおえしか知らない元親と半兵衛には、なおえかねつぐの姿がどこか他人染みて見えていた。

意識混濁性消失障害(ロストボディ)になった順番とかはわかるのかい?」

「初めは道雪だな。んで、半兵衛。それから俺、長政の順だ」

「道雪はどうして未開領域(アセンション)に旅立ったんだ?」

「そこんとこは半兵衛。お前の方が詳しいんじゃねぇのか?」

「賢者スピリティブ・フォン・ド・ジキルを探してくる。とだけ私は聞かされていました」

「その名は確か……」

ネットゲーム「New Age」だった頃の世界用語に「三賢人」なる設定が目録されている。

国王「モルトローゼ・ナノケリア」

人嫌い「ヴァンプ・ブギア・スカーレット」

そして賢者「スピリティブ・フォン・ド・ジキル」

クエストの過程や、設定背景などで各々の名前を見掛ける事はあっても、実際に謁見可能だったのはモルトローゼに限定されていた。

つまり、残りの二人は名称のみが独り歩きしてる状態だ。

いずれアップデートで実装されるのだろうと暢気に捉えていたプレイヤー達の淡い期待は裏切られ、New Ageは突然のサービス停止を宣告。

残りの二賢人の偶像は愚か、正確な居所も、突き詰めてしまえば実在すらも定かではない。

「まぁ、あのおっさんの事だからな。そう簡単にはくたばらねーだろうさ。……しかし、なおえ。お前も暫く見ないと思ったら、弟子とか連れてたのかよ」

カンカン帽子を膝上に置くココナはやや緊張した面持ちで二人の会話に耳を傾けている。

「ひとりぼっちはやっぱり寂しいからね」

な?となおえに同意を求められ、ココナは無言で頷いた。

「ココナちゃんは元々New Ageを遊んでた人?」

「いえ、あたしは友達を追って意識混濁性消失障害(ロストボディ)になりました」

「ふーん。訳ありか」

右手に挟んだ煙草を口元から離し、深く長く煙草の灰煙を吐く元親。

「で、俺達を訪ねてきた理由ってなんだよ」

そして、そのまま本題を切り出した。

「ただ会いに来ただけとは思わないのかい?」

「あんま見くびんな」

「なおえさんが戦国華憐家に部外者を連れ込むのは、決まってその人の手助け目的ですから」

半兵衛は二人の前に純白のカップを並べながら、なおえの癖を指摘した。

「あれ、俺のは?」と元親が呟き、「貴方は紅茶飲まないじゃないですか」と返す半兵衛。

「ははっ、敵わないな」と微笑するなおえ。

「さすが家族ですね」

徐々に緊張が解れてきたのか、ココナは表情を和らげて、元親、半兵衛の二人に助力を願い出た。

「紋様石を採取する為、シルフィ神殿に行きたいんです!!元親さん、半兵衛さん。一緒に来てくれませんか?お願いします!!」

「シルフィ神殿ねぇー……」

頭を下げるココナを見つめながら元親は煙草の流煙を肺に満たす。

「別にいいんじゃねぇの?なぁ半兵衛?」

「えぇ、私は構いません」

「二人とも、いきなりすまないな。感謝するよ」

「いいんだよ、家族だろ?」

「それなら元親、貴方は今すぐ家族の為に喫煙を止めてください」

「はい、すいません」元親は煙草を小皿へ押しつけ、火をすり潰した。

カップに口をつけるなおえを隣に、ココナも感謝の意を示す。

「元親さん、半兵衛さん。ありがとうございますっ!!」

「こんな可愛い子ちゃんに頼まれたら断れねーって」

「死んでください」

「えっ!?なんで!?」

「それでは旅の支度をして参ります。元親、貴方もさっさと支度を。あと吸殻は自分で捨ててくださいね」

「お、おぅ」

立ち上がり、奥の部屋へ姿を消す二人。

「ココナ、良かったね」

「はいっ!!お師匠様もありがとうございます」

「礼なら夜でいいさ」

「だからしませんって!!」

「むぅ、いつになったら私にデレてくれるんだい?」

「そういう問題じゃないですよ。……そういえば、シルフィ神殿もやっぱりボスとかいますかね?」

「勿論いるよ。ココナは……いや、意識混濁性消失障害(ロストボディ)としてなら私もか。神格級の魔物と相対するのは初めてになるね」

「神格級?」

「精霊や竜など神話をモチーフとした魔物達の総称だよ」

「そんなのと戦わなきゃならないんですか!?」

「まぁ、そうなってしまうだろうね」

「なんとかなるだろ!!」

閉じた朱色の唐傘を肩に担いで立つ元親の姿。

「元親はそんな身軽でいいのかい?」

「いや、お前らも人の事言えなくないか?まぁなんだ、半兵衛が何とかしてくれるから」

元親は典型的な駄目主人になりそうだね。となおえがぼやく。

「お待たせ致しました」と見計らった様に姿を見せる半兵衛。

メイド服はそのままに、角張った革張りの鞄を両手で握っている。

「シルフィ神殿への道中、砂漠を横断しなければなりません。事前の対策が重要です」

「とメイドが申しております」すかさず茶化す元親。

「元親、貴方には水一滴ありませんので、頑張って死んでください」

「半兵衛様。ほんとすみませんでした。お情けを」

「元親さん、半兵衛さん。改めてよろしくお願いしますっ!!」

「おぅ、よろしくな」

「こちらこそ、よろしくお願い致します」

「戦国華憐家」のメンバー。

なおえかねつぐ 「双剣士(ソードダンサー)

長宗我部元親  「斬刀士(ブレイド)

竹中半兵衛   「拳闘士(ファイター)

ココナは心強い三人とPTを組み、領土南西方面の砂漠奥に潜む「シルフィ神殿」を目指して円錐階層都市「バンブリオ」を出発した。













クエスト名『白砂の幻の証明』


目的地『シルフィ神殿』


難易度『☆☆☆☆☆☆☆☆☆』



補足 


バンブリオの領土南西を占める白砂の地平。

遥か太古に精霊を祀る祭壇として建造されたシルフィ神殿も時の経過と共に風化し砂海に埋没したと云われている。

数多の冒険者達が霞んだ遺跡を探し求め、白砂が織り成す蜃気楼に惑わされた。

私は一人の遺跡研究者として、どうしてもかの廃礫の実在を確かめたい。

どうか虚弱な私の代わりに「シルフィ神殿」の現存を証明して戴けないだろうか?

白砂に生息する魔物はどれも凶悪であり、安息の一時も儘ならないとの噂。

遺跡の最深部に眠ると伝わる風霊の遺物と引き換えに多大な報酬を約束致します。


※帰還術使用不可。

※受注条件 PT平均レベル60以上。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ