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New Age  変革編  作者: えんじゅ
第二部 「水瓶座の時代 Age of aquarius」
4/79

プロローグ

2011年5月初頭MMORPG〈New Age〉が公式サービスを開始。


同年、11月末。管理会社のHP(ホームページ)より、突然のサービス停止が言及されNew Ageは僅か半年で、その歴史を終えた。

一方的な放棄とも取れる発表を受け、プレイヤー達の不満が怒りとなり爆発、管理会社のHPが炎上する騒ぎにまで発展した。

それが原因なのか定かではないが、New Ageの制作に関わった会社のほとんどが間もなくして倒産、跡も残さず霧散する。

炎上騒ぎに紛れて、New Ageは人を取り込んでいる。などとプレイヤー側からしてみれば奇妙な主張をする人も見受けられたが、程なくしてその噂は人々の記憶からは薄れていった。

一方でかつて〈New Age〉だった世界は脈々とその在り方を変えつつあった。

取り残された意識混濁性消失障害「ロストボディ」も、元来より〈New Age〉で生を歩んでいる創造されし箱庭の小人「クリエイトボディ」も、その日をただ〈変革〉と共通して呼んでいた。

〈変革〉を境にプレイヤーの姿が消え、残された意識混濁性消失障害(ロストボディ)はその変化にやや遅れて気付く。

そして彼等は一つの推測を立てた、

ネットゲームとしての〈New Age〉が、なんらかの原因で今は機能していないのだと。

噂が広まると、彼等意識混濁性消失障害(ロストボディ)に多種多様な変化が見受けられた。

現実へ帰還する事を諦め、New Age(この世界)で働き生きていこうとする者。中には小人と婚姻の契りを交わす者も。

衣食住の無償提供も無くなり、否応なく生きる為に代価を必要とされる時代。

〈変革〉以降、意識混濁性消失障害(ロストボディ)の利点となる職業補正やスキル、紋様石の恩恵を頼りに戦闘力を生かす者達も多かった。

魔物の狩猟による素材収集や、未開領域の探索、交易の護衛など、それらは死の危険を孕むが故、報酬も破格だ。

また一部のクエストは細部の形式が異なるにしても、ほぼ原型そのままに小人、もしくは虚人から受けられる。

ゆっくりと〈変革〉後の世界に適応し、上界の移人として生き方を変えていく意識混濁性消失障害(ロストボディ)達。

無論、元の世界への帰還を諦めず、抗い続ける意識混濁性消失障害(ロストボディ)達も確かに存在していた。




━━彩花の園ラフレンティア


バンブリオを代表する二大有名ギルドの片割れ〈ハンプティ・ダンプティ〉が拠点とするラフレンティアはバンブリオ領土東に位置する。

未開領域(アセンション)との境界線上間際に広がる鮮やかな色彩の土地。

規則正しく整然と配された田園は色取り取りに花弁を揺らし、望む人々の心を奪う。

網目を乱すことなく枠に収まる建造物の一端に、ギルド〈ハンプティ・ダンプティ〉のホームは在った。

不可思議な曲線を描く、卵型の建造物の表面には不思議の国のアリスをモチーフにしてあるのか、赤と黒を基調としたトランプに代表されるマークが大きく塗装されている。

懐中時計と兎を模した象徴物がそれぞれ両脇に築かれており、花畑の中で異色の存在感を放っていた。

転婆菓子職人(パティシエ)こと雨頃(あまころ)仔百(こもも)の案内を受け、卵型建造物の中へ足を踏み入れる二人組の姿。


綺麗な黒髪を背中まで伸ばす黒ずくめの少女。上下ほとんど肌身を晒しておらず、飾り気のない黒服が重たい印象を与えている。

赤茶色の瞳は鋭く、起伏に乏しい体躯が少女の未発達さを意地悪く主張していた。

やや長めの日本刀を腰元に携え、凛と立つ姿は気高く映る。

刀剣士(サムライ)であり、体内に「創造の魔女」による黄金粒子〈姫の蜃気楼〉を宿す少女。

━━古祈愛(こきあ)言理(ことり)だ。


一方、言理に比べて短めの金髪は少し癖っ毛。赤縁の眼鏡を掛けており、レンズの奥から透明感のある蒼い瞳が垣間見える。

純白のシャツは首元で黒の細紐を蝶結びしており、短めのブラウン色のショートパンツの下から焦げ茶の薄いタイツが覗いている。

言理とは対照的に涼しげな印象を含んだ落ち着きある雰囲気。

付術師(エンチャンター)であり人形師。そして「創造の魔女」と称されている女性。

━━エルミル・ビア・パナシェ。


意識混濁性消失障害(ロストボディ)の真相解明を目的とする二人は仔百の言伝を受けて〈ハンプティ・ダンプティ〉のお姫様こと、滅竜士のバルド、蒼焔の少年に並ぶ三人目の理想郷の先駆者(ニューエイジャー)との対面を目前に控えていた。

「こっちですーっ!!」と通路の奥で健気に手を振る仔百を見つめながら、二人は短く言葉を交えていた。

「もう、半年も経つんだな」

「……そうね」

理想郷の先駆者との出会い。二人はその発端と別れを思い起こしていた。

少年の蒼い焔を、その発芽の瞬間を目にしていたのは言理とエルであり、元を辿れば、少年を助けたのは言理だった。

もし、俺があいつを巻き込んでさえいなかったら……。

と言理がその件について責任を感じるのは筋違いだと周囲の者はなだめるだろう。

だが、当事者である言理にしてみればそんなものは詭弁にしか受け止められなかった。

珍しく塞ぎ込む言理に、エルは説き掛ける。

「言理、らしくないわ」

「俺だってたまには悩むさ」

二人の様子に気付いた仔百は手を振るのを止め、ただ黙って待つ事にした。本当なら自分もあの二人の間に入りたいという思いをぐっと堪えて、今はただ見守るべきだと判断して。

「あいつは馬鹿だから。全部、一人で背負おうとして、弱音も吐かないで、誰も巻き込まないで、たった一人で戦おうとしてる」

静かに言理の叱責へ耳を傾けるエル。

「どうして俺達を頼らない。仲間だって言った筈なのに、どうして、一人で行くんだよ」

拳を強く握り、光沢含む白い床を睨む言理。

「信じましょう。きっと大丈夫だって、今は信じて待つしかないわ」

「あぁ、わかってる。……わかってるつもりなんだけどな」

「必ずまた会えるわよ。賭けてもいい」

「悪い、取り乱したな」

「いつものことじゃない」

「そうか?」

心外だな。と呟く言理。

「えぇ、そうよ」

と微笑み掛けるエル。

再び歩き出した二人を無垢な笑顔で迎える仔百。

「この扉の向こうに、私達のお姫様メリーベル・アン・ラズベリーがいるです」

仔百はトランプにおけるキングの図柄が描かれた巨大な扉の前に立つと、胸を張って告げた。

口を開かず、お互いに視線を交えて頷く言理とエル。

在りし日の仲間達がいつかまた……必ず揃うと信じて。

彼女達はNew Ageの世界を歩み続けていた。




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