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木林製作所 事務所にて

プルルル プルルル

電話が突然鳴り響く

「はい木林製作所です……いつもお世話になって……え? MAD? なんですそれ? え? も、申し訳ございません……え? 年中無休で休憩5分で最低賃金では死んでまうやろ? 何ですかそれは?」

ああ、これは……木林の奥さんが困惑しておる。受け答えの言葉のみでも容易に推測可能だな。これはアリサの投稿したMADを視聴した人間が怒りに身を任せ、木林製作所に連絡して来た様だな。アリサはどうやら動画の概要欄に住所、電話番号等を記載したのだろう。電話の向こうの相手に向けてお辞儀する社長夫人。悲しい絵面であるな……もうすぐここを出ていくと言っていたからな。身支度をしようとその準備に取り掛かる最中の呼び出し。そのタイミングでこんなクレームか……木林製作所の最後の仕事がクレーム対応となってしまった様だな……突然の電話に困惑し涙目になってしまって……は、いないか……ぬ? それどころか目付きが鋭く……なる……? 


「ですが、その言い方おかしくないですか? 死んでまうやろなんて……なんて下品な……ここは、


『死んでしまいますよ』


の方が正しいと思いません? 個人的にも関西弁は浮気王の石井君を思い出し、嫌な気分になるので止めてほしいのですが……そもそもクレームを入れる前に標準語の勉強をなさってからされるべきではありませんか? クレームに関西弁っておかしくないですか? ここは埼玉県ですよ? 埼玉県民に分かる様に標準語で喋るのが正しいと思うのですが……もしやあなた、関西弁は脅し文句に最適だと言う事を感じていて、実際使える標準語を使用せず、敢えて関西弁ブーストを掛け、私に臨んだとかではないでしょうね? 標準語より迫力はありますが、それってこう言い換える事も可能。そう、


『関西弁は怖い響きだからクレームに最適だ』


という考えです。これは関西の方を馬鹿にしていませんか? それを私が公表すればあなたは袋叩きに合うでしょうね。確かにそれは下品な響きが多いですので、脅し文句に最適ではあります。それを多用する事でクレームの迫力は増すでしょう。ですが同時にそれに反比例し、あなたの品性を著しく低下させる事を意味していますよ? あなたはそれでも迫力を取ったという事でいいですね? 論理的に私を言いくるめるでもなく喧嘩腰で向かってきましたよね? 口汚い言葉でののしらなくてもMADの中で見た私達の行為がとても悪いと判断しているならばそこまでしなくても優位に立てる筈でしょう? あなたはそのMADから、この会社を陥れようと画策する人物の掌の上で言い様に転がされ、ここに電話したと思うのです。内容までは見ていませんが年中無休で休憩は5分。なのに最低賃金しか払わない会社だ! と言う内容だと思います。あなたはそれを妄信した。顔も見えない作者の思想に染まり、腹を立て理論武装もしてここに電話して来たのですよね? 


『こんな会社、制裁を与えなくては!』


と、息巻き一時的感情の起伏も助長し、上から目線での電話をして来たのでしょう。そうです。悪い事をした会社の事務員を言い負かしスカッとしたいと言う欲求を満たす為に。今はもうすぐ11時。この時間にこんな電話する暇がある人間など恐らく働いていない。そして暇潰しに見た動画サイトでそのMADで知った。そうでしょう? そしてあなたは思い立った。私にしたり顔でMADの内容を突きつける事さえ出来れば、私が狼狽えると。ですが、それでも更に関西弁で迫力を補強したのですか? 器の小さい……ゴミめ……憐れとしか言い様が無い。チキン野郎……あなたなど就職先を探す資格すらない! 小麦でも食ってなさい!」

おお、凄い文字数……惚れ惚れする稼ぎぶり……こやつ只者ではない。そしてその棘のある言葉……相当怒っているのだろう。関西弁のニートに対し、異様に反論している。更には逆に言い負かしそうな勢いであるな。何でであろうな? 


「あら? 少し言い過ぎましたか? 全く反論が無いですね……まあ確かにあなたの言い分も分かります。ですが、年中無休でも休憩5分でもありません。それはMAD作者の誇大表現でしょう。あなたの言いがかりです。この会社は既に40年続いています。休憩5分であったら従業員からクレームが止む事ないでしょう。次々に消えて行って操業どころではありません。あなたは本気であのMADの5分しか休憩出来ないという嘘を信じたのでしょうか? 常識的にそんな会社はありえないでしょう? この会社の社……いいえ……労働基準法を勉強しなさい。それを怠り連絡したあなたは考えが足りないと思うのです。ここから考えられる事は、あなたはどんな情報も鵜吞みにして自身でかみ砕く事なく直情径行に電話してしまうというせっかちさんです、そんな事を続けていてはいつか死にますよ?」

確かにこの部分はアリサが捏造した部分ではあるな。彼女の言い分も尤もである。だが、最低賃金の部分は否定しておらぬな……そして彼女はこう続ける。


「ですが私の考えですが従業員は壊れたら新しいのを釣ってくればいいのです。高給を出すという餌を撒けばすぐに引っ掛かります。で、当然職安で提示した高額の給料は絶対に払いません。あれは釣りの餌ですから。それに興味を持ち面接に来た魚の履歴書の内容にいちゃもんを付け、半額以下に引き下げればいい。完璧な経歴の人間は、下請けの中小企業に進んで入ってくる訳ないのですから……私共は、中途半端な経歴で大企業に入れず困っている雑魚を助けてあげているのです。感謝してほしいものです。で、感謝した雑魚は捨て駒として生きていきます。でもね? このプロセスを見抜ける者は今までいませんでしたよ? 確実に引っ掛かります。中途半端な学歴の人間にはこんな罠を見抜ける筈がないのです。そして、そんな間抜けは私に使われるだけの人間。使い捨てと見て十分です。それが壊れても代わりは幾らでもいますので、捨て駒の健康等は一切考えておりません……あら? さっきも確認しましたよ? もう一度確認しますね? どうしました? もしや死んでしまいましたのでしょうか? 私しか喋っていませんね。電話はまだ繋がっている筈ですけれど……おかしくないですか? 何故何も言わないのです? 電話代は掛けたあなたが支払うのですよ? まさか電話して無駄に電話代を徴収される事に喜びを感じている稀有な方なのですか? それとも? ここまで理論武装してなお、私の剣幕に気圧され一言も反論が出来ず、次の言葉を言い(あぐ)ている状況なのですか? お話になりません。その程度の覚悟では私を言い負かせる事など永遠に出来ませんよ? こんな田舎の事務員に何も言えないあなたは、この先栄光を手にする事は出来ないでしょうね。クレームを入れる事しか出来ないあなたが、それすらもまともに出来ていない。そう、それしか出来ないのにそれすら出来ない。ふふふ……あなたの些末な人生に同情します。では、切りますね? いいですね? 永遠にさようなら」

ガチャ

な、何だこの女は……

プルルルル プルルルル


「またですか……どうせ同じ輩でしょう」

そう言い受話器を通話状態にしてすぐに通話終了のボタンを押す。


「これでいいわ」

プルルルル プルルルル


「しつこいわね」

そう言い、電話線を抜く。


「暫くこのままでいいわ」

まあ一々対応する事も無いだろうが、先程の電話対応、背筋にヒヤリとする物が走る内容であるな……これは社長夫人だからこそなのだろうか? 神経を逆撫でする表現が多々見られた。

それに随分はっきり言うなあ。オブラートに包まずに。こんな事拡散されれば大炎上間違いなしの内容なのにな……まあもうこの会社も終わりであるから彼女も鈴木の手紙でもあった、もう余命も残り少ないと知り、ウイルスを撒き散らすテ老人の様な気分になっているのかもしれないな。そういえば、覚えているだろうか? 鈴木がペーパータオルを貰おうとした時に今切らしていると嘘を付かず


『言われてるから出せない』


と、本当の事を言って絶望させたり、買い物時に偶然見つけた鈴木にも


『あら、鈴木君来てたの?』 


と余り迷う事無く思った事を言っている。これらは本来、鈴木には絶対に聞かれてはいけない内容ではないだろうか? 例え社長の指示で渡すなと言われたとしても、傷つけない様にやんわりと断るのが普通だし、買い物時でもあんな着飾って大量に購入している時に見つかれば、貧乏な鈴木には驚かれる事は明白。見つけても自身から声を掛けるのは間抜けとしか言えぬ。故に聞こえない様に呟く程度か、心の中で思うだけに留めておく内容なのだがなあ。この女、かなりの強者であるな。すごい胆力だ。こんなにオープンに言う性格だったらうっかり大切な秘密も吐いてしまいそうであるな。


「ふう、少しまずい事になったわね……」

もう信頼回復は難しいだろう。


「あら? 疲れているのかしら? 何か聞こえて? 気のせいね……」

どうしたのだろう? まあこんな電話もくればこうもなるだろう。


「キノコ鍋……はははw」

お? 木林日光一が突然呟く。笑っている……のか? 何故? しかしこやつの発言、キノコだったりカルシウムだったり健康に関連するワードが目立つな。老後もそれらを摂取し生き長らえようとする考えが深層心理にあり、無意識で発言しているように見える。だがこの、


【壊滅的】


状況で生き長らえて幸せなのだろうか? まあ生存本能に従いそうなっているだけ。深く考えれば考える程、この世から離脱した方が効率的と気付くであろう。だが奴の脳は既に虫以下に退化している。高度な思考は不可能。そして、


『キノコ鍋』


このセリフから分かる事は、彼は今晩の鍋の事で頭が一杯なのだ。それで幸せそうなのだな。まあ翌日には一人ぼっちだろうがな……しかし、こうして見ると、どう見ても賢い男に見えないのだが……彼結気と言う高度な心理攻撃をこの男が本当に自力で思い付けたのだろうか? そういう疑問が出てきてしまう。まあ知力は無いが、狡猾さに極振りしたから偶然思い付けただけなのだろうか? そう、今の彼の状況。そして、実際にアリサとの会話を見て来た限り、知性を使う行為全般が得意そうには見えないのだ。直情径行で感情的。知性とは掛け離れている。

しかし鈴木は社長が言ったと言っていた。ウム、不思議だ……どういう事なのだろう? まさかとは思うが社長を裏で操っている存在がいるのかも知れないが、真相は藪の中であるしな。まさか奥さんが? いや、しかし……そんな事は無いだろうしなあ……


「そうよ」

ぬ? 


ーーーーーーーThe Final Battle, Again?ーーーーーーーー


Storyteller VS Ruler of Shadow


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


おや? 語り部の声に反応していたような?

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