第十章 終曲
初投稿です。
仕様等まだ慣れていない為、設定・操作ミスありましたらご容赦ください。
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるためR15としていますが、それ以外は復讐ものと言いつつ笑いネタ満載のアクションコメディー
「陛下!そろそろ壇上にお出ましになる時間よ。」
白凛が扉の向こう側から嬉しそうに声を弾ませてそう伝えてきた。
西乃国皇宮の皇帝の御所である天乃宮内の、皇帝専用のお召替えの間の中では、4人の男たちが、腕を広げてまるで案山子のように微動だにせず突っ立っている劉煌を取り囲んでいた。
劉煌がこの天乃宮の住人になって、まだ1日しか経っていないが、それでも劉操時代の物は一掃され、天乃宮全体にシンプルな中にも品の良いセンスの光る調度品が、多くもなく少なくもなくちょうどよい塩梅で飾られていた。
本日の劉煌のお召し物は、縫製司だけでなく後宮の裁縫が得意な女官を総動員して1晩で仕上げたものだったため、総刺繍ではないものの、とてもそんな突貫作業とは思えない縫製のしっかりとした上等な、まさに皇帝に相応しい彼のための一着にできあがっていた。
「ふむ。さすが石欣、着物の生地のセンスだけは抜群ね。」
劉煌が、この皇宮で、悪徳宦官だった石欣が陣取っていた楼から押収?回収?したのは、何も金銀財宝だけではない。このような最上級の絹の布地もおびただしい疋数回収した。
普通の皇帝、あるいは為政者であれば、このような他人が着服していた物など簡単に捨ててしまうだろうが、劉煌は普通の皇帝ではない。
自ら着物を繕った経験もあれば、村の衆に頼まれて蚕の世話もしたことがある。
呉服屋の裏で、額の汗にも気づかず真剣に必死に機を織り続けている、その手元に出来上がりつつある織物とは対照的に粗末な身なりの女工達、その出来上がっ織物に新しい側面を与える染物職人たちを全てその目で見てきたのだ。
そんな彼ら彼女らの血と汗と涙の結晶である疋物や反物を、悪徳宦官が懐に入れていたからと言って、どうしてないがしろにし、捨てることなどできようか。
それ故布にも目が利く劉煌は、石欣の膨大なコレクションの中から、なかなかの逸品を見つけると、すぐに女官長に指示して自らの衣装とするよう指示を出したのだった。
劉煌は袖の縫い目を手でたどって嬉しそうに頷きながら語った。
「さすが皇宮だわ。見事な縫製ね。しかもたった一晩で。後でこれを作ってくれた女官たちに特別に褒美をだすから、宋公公用意しておいてね。」
新しく劉煌付きの筆頭宦官になった宋毅が「御意。」と答えながら、彼が着つけた劉煌の姿に問題がないか、彼から10歩離れて体を動かしながら確認しているのに、李亮は左の口角だけ上げてニヤリと笑い劉煌に近づいただけでなく、なんと着付けたばかりの彼の襟をつまんで「馬子にも衣裳だな。」と言った。
宋毅は慌てて劉煌の元に戻ると、自分の倍はあろうかと思うほど背が高く、覆いかぶさるように彼を見下ろしてきた李亮に全く屈することなく、劉煌の襟元にまだある李亮の指をバシッと払いのけ、無駄に背伸びをして彼を睨みつけた。
「陛下になんてことを!せっかく私が完璧に着付けたのに!襟元がずれてしまったではないですか!」
梁途と孔羽は、先ほどまで宋毅がいた場所で首を傾げながら劉煌の姿を見て呟く。
「どこがずれてるの?」
宋毅はムキになって答えた。
「ほら!ここが1分(3mm)も外側に開いてしまったじゃありませんか!もう一度やり直しです。陛下!私にお召し物を外させてくださいませ。」
後宮の倉庫にあった姿見を磨きなおしてこの部屋に置くことにした劉煌は、それで自身の姿を確認し思わず苦笑した。
”朕でもどこがずれたのかわからない^ ^;A…”
時間が差し迫っていることもあり、劉煌は宋毅を持ち上げながらやんわりと彼の申し出を断った。
「宋公公、朕も衣装にはこだわりがあるが、わざわざやり直す必要はないよ。こうやって見てても朕でもわからないもの。しかも李亮があんなにいじってもたった1分しか狂っていないなんて奇跡よ。宋公公の着付けは上手ねぇ~。それより問題なのは、朕の顔よ。未だに照挙殿の理不尽なパンチの後遺症が、、、まったくすぐに劉操がやってきて手当が遅れたからだわ。こんな顔じゃみっともなくて皆に見せられない。やっぱり仮面をかぶるわ。」
実際は、その場にいる誰もが、何故劉煌がそれほどまでに顔を気にしているのかわからないほどわずかの顔の腫れだったが、本人の感覚は誰しも他人が見た状態より鋭敏であるから、他の誰よりも美意識の強い劉煌に、ことこの件は何を言っても無駄だとみんな知っていたので、誰も何も言わなかった。
「まったく晴れの舞台に、、、」とぶつぶつ文句を言いながら、宋毅は劉煌からnoと言われたことに不貞腐れて李亮を睨んだ。
劉煌は机の上に用意していた仮面を取りながら呟いた。
「なあ、李亮、覚えているか?あの時も朕の衣装を見て馬子にも衣装だなって言ったのを。」
今の今まで、すっかり12年以上も前の、しかもそんなことを言った記憶が飛んでいた李亮は、それまでの余裕の姿勢から一変し、その場でバッとひれ伏し劉煌に許しを乞うた。
「どうか、陛下、その話は忘れてください。縁起でもない。」
昔、李亮が劉煌にそう言った直後に劉煌が襲われ、彼が12年半もその名前を封印して生きなければならなかったことから、李亮はついうっかりそんなため口を皇帝になった劉煌に叩いてしまったことを本当に心の底から後悔していた。
身体も態度もXXXLな李亮が、小さくなってひれ伏しているのを見て宋毅は、先ほどから一転して爽快な気分になると、鼻をツンと上げて「陛下のお成りです。」と宣言し、劉煌に手を差し出した。
劉煌は、宋毅の言う通り歩を進めたもののすぐに止まって、李亮を起こした。
「何を言っているのだ。あの時の見送りの言葉のおかげで、あの後朕は生き抜くことができたのだ。」
そう劉煌が李亮の手を取って話している間に、廊下で待ちくたびれていた白凛が「ねぇ~まだ~?」と言いながら部屋に飛び込んできた。
今、ここに12年半ぶりに、生きて、五体満足で五剣士隊の全員が顔を揃えたのだ。
白凛はいつもの地味な軍服ではなく、目の覚めるような真っ赤な生地に蝶が飛び交う粋な着物を、まるで毎日それを着ているかのように着こなしていた。さらに耳には、長く垂れ先に玉のついた耳飾りをつけ、頭には着物とお揃いの蝶の簪を、まるで本物の黄金色の蝶が白凛の頭上で舞っているかのようにあしらっていた。
「そうそう、馬子にも衣装っていうのは、こういうのを指すんだよ。」
10年ぶりの再開後、全く大人げなくすぐに彼女と取っ組み合いの喧嘩をした梁途が、白凛を親指で指してチャチャを入れた。
しかし、白凛も決して怯んではいない。
「なによ。自分だってそれ一張羅なんじゃないの。あんたのお披露目でもないのにめかしこんじゃって。」
またもや取っ組み合いになりそうな展開に、孔羽が慌てて梁途の腕を取って言った。
「とにかく、なんてったってお凛ちゃんがゲームチェンジャーだったんだからな。お前お凛ちゃんに偉そうな口利くなよ。」
孔羽が話している間に、劉煌と李亮が3人が戯れている所に向かってくると、李亮はスッとさりげなく白凛の横に立った。
李亮が横にいる白凛の姿を惚れ惚れしながら見ているのに気づいた梁途は、首を振りながら、
「まったく、亮兄が、お凛ちゃんは敵方についたんだろうって言ってたから、中ノ国の皇宮で、お凛ちゃんがたった一人で太子側についた時は度肝を抜かれたぜ。」と、感慨深げに口火を切った。
すかさず白凛が先ほどの仕返しでは物足りないのか、バシッと梁途を訂正した。
「途兄ちゃん、もう太子じゃないわ、皇帝陛下よ。」
劉煌も仮面を側の台の上に置きながら感慨深げに
「そうだな、公の席では陛下と呼んでもらわなければ困るが、他の者がいない時は、陛下と呼ばないで欲しいな。」
と言うと、孔羽が嬉しそうに「五剣士隊結成の時もそう言ったよね。殿下って呼ばないでって。」と続けたために、五剣士隊全員が声を揃えて「友達だから!」と言って笑った。
しかし、最年長の李亮は、すぐに真顔になると心配そうに「本当にそれでいいのか?その、、、俺たちが友達で、、、」と囁くと、劉煌はすぐに李亮を抱きしめ「当たり前じゃないか。君たちみんな、僕一人のために12年半頑張ってくれたんだ。正確に言えば君たちは僕の恩人だ。」と告げた。
宋毅が困った顔をして「陛下、その、、、ご自身をお指しになる時に僕では、、、」と声をかけると、劉煌は笑いながら「そうだった。まだ慣れなくて。」と言って、李亮から左腕だけを外した。劉煌は思いっきりいたずらそうな顔をして自分の前にスッとその腕を伸ばして孔羽と李亮を交互に見た。
その意味がすぐにわかった孔羽は、劉煌の肩に手を回し、やはり左手を劉煌の左手の上に置いた。それに呼応するように梁途が孔羽の横につき、李亮は右横を向いて白凛に微笑んだ。白凛は笑いながらうんと頷くと、李亮は白凛の肩を抱いた。白凛はよほど嬉しいのか、ふふふと笑いながら梁途の肩に腕を回した。
12年半ぶりに円陣となった五剣士隊は、一斉に「ス~パ~ファイヴッ!」と叫ぶと目が点になっている宋毅の前で、それぞれの左腕を高々と挙げた。
運の巻 おしまい
お読みいただきありがとうございました!
神龍人 劉煌と蒼石観音の秘密 運の巻 不思議のクニの皇子 (上巻)はこれで完結です。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
なお、神龍人 劉煌と蒼石観音の秘密 シリーズは、まだまだ続きます。
中巻にあたる 愛の巻 劉煌と不自由nah女神 の連載を近日中に開始します。
どうぞお楽しみに。
またのお越しを心よりお待ちしております!