拠点確保のために②
レサンさんの胃と、王都の情報収集のために倒すべき男。秤にかけると、やはり後者に傾く。
御免、レサンさん。
すぐに行って美味しいものを作ってあげるからね。
うん。すぐに。きっと。うん。多分。
この後、レサンさんのご飯作りに行って、カーチさんやイライジャ老と依頼こなしに行って、かつ王都に行って?
王都に行って、王国の危機を救う情報収集をしつつ、特殊商人になる方法を商人ギルドに聞きに行く?
そして、忘れずにソレナさん用のコーヒーも買わねば。ソレナさんにブルエモン冒険者ギルド業務の円滑さが掛かっているからな。俺がコーヒーを調達できるかがそれを左右すると言ってもいい。多分。
おかしくないか?
何この忙しさ?
まぁいい。
冒険者で生計を立てようと言うんだから多少の難事荒事は仕方ない……。
多少かぁ? ブルエモンにきたせいで余計な人間関係(一人きりは寂しいので野次馬としてならやぶさかではない)と、余計な空エビ討伐(商圏の開拓になるならやぶさかではない)を背負うことに。
……まぁ、今これだけ背負ったらそのうちスローなライフが目の前に現るだろう。
うんうん。
いやぁ、王国の危機だけはなんとかしないといけないからなあ。
チェスターさんがまだ唖然としているので、咳払いをしてみよう。
ぽっかーんって感じじゃなくて、表情は硬いまま、上を見上げている。ちょい怖いな。
でも、そのまま数分経つので、あれな。
「あ、びっくりしたんだー」と分かるし、うちのこれが本当にすまない。
「冒険者はこういう奇襲は日常茶飯事でね。というか、まぁ、魔物たちは悪気もない。こいつの場合は上も下も這えれば構わない、という具合で」
などと喋ってみる。
というか。
「お前、上のが人に何も言われないからいいとか思ってるだろ?」
若干、ゆっくり発音して、キーやんに聞いてみる。
「うん」
肯定が返ってきた。
知ってた。
「俺以外にはやるなよ? マジで死ぬ」
叩きたくなるが、我慢だ。
言葉が通じなかったら意味がないからな。あとから念を押しておかなければ。
「ばかはしが、ゆだんしてないか、かくにんした」
「後で殺す」
「ばーか、ばーか、ばーかーはーし」
ちょっと意味わかって言ってるのか謎なんだが、挑発ということは知っているらしい。
それで十分だ。蹴りを入れる。
「なかなか、躾が済んでいらっしゃらないようですが、ケンゴさま」
嫌味だ。なかなかに嫌味だ。
うん。アルビンくんとなんか様の発音が違う。一応、アルビンくんに仕えているという意地だけはあるらしい。
それなら、本当に周りがアレでこじれているだけだろう。何かきっかけがあれば和解しそう。
ともかく俺は、キーやんが何か言い返さないように、表面をペチペチしておこう。
俺が黙ったのを、言葉に詰まったと思ったらしい。
チェスターさんは、にこりと笑みを浮かべていった。
「さて、ご朝食にご招待いたしますよ。しかし……」
そのあとは、出ていってもらう。そう言うことかな。
いや。普通に、この人が実権握ってるなら、それ相応の根回ししたって。
うーん。今思えば、最低でも総代に相談してから実行に出るべきだったよな。
でも、アルビンくんが急に決闘吹っかけてきたからさ……。
「俺は、貴方とも本音をぶつけ合う中になりたいと思ってるんだ」
ここから、脅すか、縋るか悩んだんだが。
さっき、アルビンくんに説教してて思ったんだよな。
「ともかく、冒険者ギルドに確認して欲しいし、なんならご本人に確認してもらっていいんだがな」
何か言わせる隙は与えない。
キーやんから、彼へ身体の向きを変えながら言う。
「俺たちは王命を帯びている。身元は王国が保証してくれるだろう」
あーあ。言っちゃったよ。
でも、冒険者ギルドが俺たちの与太話に突っ込んでこないってことはそうなんだよな。
せめて、王城の誰かしらが俺の身元を認めた事になる。
「艦隊乗っ取られてやばいからよろしく!」って頼んで野にはなった奴、ブルエモンの冒険者ギルドから「ケンゴってやつ信頼できる?」って照会きたら普通に怪奇現象だと思うんだが、まぁ、それはそれ。
……ちゃんと救わないとあの世から祟ってきそうだな、王国の上層部。
でも救ったら頭上がらなくて、この先、この国なんでも言うこと聞いてくれるってことだよな!
反応を待つ。
「そういう、腹づもりですか」
うん……? どういう?
ちょっと分からなかったぞ。
黙ってたら説明してくれるかな。
「王国から返事を待っている間は居座る、そう言うつもりでしょう。流れ者のようですし……」
「いや、ブルエモンの冒険者ギルドがもう王都のギルド経由で確認したっぽいから、ギルドに聞いて貰えば……?」
一瞬でグダる。すまん。交渉とか頭使うこと得意じゃない。
「おうめい、とか、いわなきゃ、よいのに」
横槍が飛んできたぞー……。
両手で丸く筒の形を作って、キーやんに押し当てる。内緒話だ。
「いや、頼まれたのはいいが、何も手がかりがない。一応、王城仕えの経験がある人に情報を聞くのが良いと」
「なんねんまえ?」
「俺よりは知ってる」
「それは、そう」
「どこまで寝返ってるか分からないからこその俺……情報なしですごい強いの出てきたら死ぬぞ俺……」
死ぬぞ俺。
「おおかみ、つれてく?」
「いやー、アルビンくんは足手まといじゃないかなー」
「めくらまし」
「どう言うことよ?」
「おうさまが、かっているいぬが、きたら、てきのめは、そちらに、いく」
「なるほど?」
「すきには、なる。いっきに、くずせれば……」
「だから、情報がないから無理だろ?」
「おどす?」
「ごめん、今気づいたが、俺の声は届いてなくてもお前の声は普通に聞こえてるな、向こうに」
「……ばか?」
どうせ馬鹿ですよ。
俺の声は届いてないが、全身を震わせて喋るキーやんの声は普通に部屋中に届く。ヘッドフォンスタイルは、今のキーやんの大きさだと俺の首がもげる未来しか見えないので。
チェスターさんがまたニコってしてるー。でも、この笑みはこれまでと全く違う意味を帯びている。
あれだ。
「アルビン様をどうされるおつもりで?」
不仲なくせに親馬鹿ムーブみたいなのかましてくるのマジやめろ。
「おおかみだけで、よくない?」
と言うのはキーやんだ。
俺はちょっと、眉間の皺を延ばさせてくれ。もう歳だからな。気にし始めないとな。
いつの間にか皺ができるんだよなー。
「はぁ……あのなぁ、セットでようやく気づかれるんだろう? 普通にフェンリルだけなら、フェンリルの襲来じゃん?」
テイム魔物が単体で出てきたら、テイムされてるかどうか判別できないっていう。
「ひとがたの、にんぎょう、だせたり、しない?」
その人型を偽装して、なんとか誤魔化そうという提案。
「俺の魔力がー、なーい! そして魔力が保たないって」
土魔法で人型を偽装すること自体は可能だ。でも、魔力ゼロなので土魔法使えないし、かつもしその魔力がどこからか湧いてきても、魔力が保たずに偽装工作は難航する。
「やくたたず」
魔力ゼロマンは言い返す言葉もありません。
まず。
「情報収集に失敗している時点で役に立ってないぞ俺。マジで情報あれだけだもんよ?」
「いっそ、わらえる」
「マジでな」
ほんとそれなー。
チェスターさんは俺たちの会話から、必要な情報を探ろうとしている。
黙ったままだ。
と言うか。
「多分な、質問の選択肢を間違えたんだと思う。普通に他国のことを聞きまくった」
「たかはしが、たこくに、けんとうを、つけたと」
「思われたんだろうなー。ラウメンの酒場の情報とか要らないわー……」
「どう、おもう?」
「国内犯だろ。だって、今の間に普通は攻めいるじゃん?」
「らうめんの、かのうせいは」
「捨てきれないけどな。俺がラウメンならもうやってるね」
「わたしも、らうめんなら、もうやってる」
となると。
「きぼが、ちいさい。こじん? しゅうだん? くによりは、ちいさい」
規模が小さいと、素早く行動を起こせる。
だから。
「急がないと、手遅れになる」
それは分かっている。
だが。
「とっかかりがなさすぎる。俺が知ってるの、王都の地理だけだぞ?」
「せめいるには、じゅうぶん」
「守るには、不十分」
どうすればいいんだー。
「おどして、きけば?」
ちょっと意味を測りかねたが、チェスターさんのことか。
チェスターさんを眺める。
「俺そういうの苦手なんですが」
「わたしが、おどす? たかはしは、きくだけ」
「……」
お前はそういうやつだよな。本当に。
一応、チェスターさんの反応を伺っているけど、無反応だ。
いや。なんと言うかさぁ。
「だから、一応、平和的解決を今、試みたわけじゃん?」
「たかはし、こうしょう、へた」
「……はぁ」
同意のため息しかない。
「普通に、レサンさんとかに流されたけどさぁ」
「おうこく、ゆうせん」
「あー……レサンさんにご飯は持っていかなきゃ。俺もまだ食べてないし。で、ネスマーついた?」
「ついたー。いく? それとも、じょうほう?」
「脅して聞き出したら、アルビンくん可哀想じゃん」
「でた、ばかはしの、かわいそう」
「……可哀想だろ?」
「なさけは、いらない」
「だから、友達いないんだぞお前。目的のために切り捨て上等だと友達できないんだぞお前。知ってたかお前」
「こうしょうべたは、だまれ」
「はーい」
交渉下手には人権がない。わかる。うん。兵量の確保とかしくじるとやばいもんな。
なんだこのグダグダ感。
こういう時にパキパキと捌く人がいてくれたらいいんだが、この中だとその枠チェスターさんだからな。
俺はそういうのから程遠いし、キーやんは状況三割くらいしか分かってないけど、なんとか知性でついてきてる感じするし。
黙れと言われたから黙ったがそれだと話が進まない気が……。
「なんで、だまった?」
「お前な」
本当にお前な。
どういうことだコレ。
黙れと言われたから黙ったが、時々キーやんの思考が分からないな。
いつ追いかけてくるとか、いつ窒息しかけてくるとかははっきりわかるんだが。
あー。これまでバトルしかしてなかったもんな。日常……交渉が日常とか嫌だが、そういうのはこれから積み上げていかないと。
でもまー、こいつの性格としては。
立場に合わせて守りもできるが、個人プレーは攻め。兎にも角にも攻め。
特殊なスライムボディはどんな切り込みも弾くし、魔術にも長けている。
攻めて攻めて攻めまくる。
そして、時には非情。目的のためなら犠牲を惜しまない。
こいつに任せると大変なことになるということだけは、よく知ってる。
あー待て。わかった。
俺、黙っちゃダメなところだったな。コレ。
「無能は黙れ」と言われて黙っちまった。つーことは。
「わたしが、かわる」
キーやんが言葉を作った。
まーそうなるよな。
うん。まーいいや。すまん。チェスターさん。
犠牲が出ないようにフォローはする。頑張る。できるだけ。
できるだけな。
あんまり多くを求めてくれるな。なにせ、自称無能だからな俺は。




