行商人への一歩②
帰ってこねぇのな。キーやんとカーチさん。
夕方から夜の冒険者帰宅ラッシュを捌き切ったヴェルツさんが、仮眠したものの万全ではないヘルさんと交代した。
ソレナさんが「やりたくないやりたくない」とぶつぶつ言いながら表に出てきて、自分の机に向かって仕事し始めた。
で、ソレナさんからまさかの初注文が入ったんだよな。
「コーヒー欲しいコーヒー。ケンゴ王都行くついでに買ってきて。割高でいいから」
うわ。カフェイン中毒じゃん。
「何かご希望あります? 種類とか」
「……なんでもいい」
うわ……ガチなやつじゃん。
詳しく話を聞くところによると、「そもそも種類とかあるの?」って状態だった。
まぁ、そうなるのか……。
月一でしかないもんな取引。そうなると、どういうものが買えるかっていうプレゼンから始めないといけない可能性があって……。
うーん。
俺的には、冒険者をメインに、行商人をサブとして財政計画を立てたかったんだが。
特殊商人としてもガッツリ働かなくちゃならなくなるかもなぁ。
スローライフには遠い気がするんだよな。特殊商人。
まぁ、いい。
で、ソレナさんは結局、一旦奥に引っ込んでいって、袋を持ってきた。
「これと同じのが、あったらこれで」
ヘルさんが気まずそうに目を逸らした気配を察知。
ふーん。
へぇ。
ともかく、承っておく。出来立てほやほやの注文用紙に必要項目を書き込んで、もらった袋とセットにしておいた。
で、帰ってこねぇのな。キーやんとカーチさん。
ソレナさんは仕事モードに突入、ヘルさんはカウンターでうたた寝。
俺も仕方ないから、この町で何が売れるかぐちゃぐちゃとメモして考えてみる。
本当に、帰って、こねぇ。
結局、夜半過ぎ。
テンション高いカーチさんが戻ってきて、一気に押され気味になる。
「すごい、すごいね!」
「また僕と一緒に行こうね?」
「キー、レサンにはあんなところ見せちゃダメだからね? 絶対だよ?」
と言った調子で。
マジで? テンションどうした?
特に最後。
ヘルさんが半分寝ながからカーチさんの日誌からの依頼達成までの処理をする。
そして、終わるが否やまた突っ伏して夢の世界に。
カーチさんも、「また明日だよね? おやすみ!」とテンション高いまま、綺麗な髪を靡かせて帰ってしまった。
そして、ギルドには、ソレナさんがペンを走らせる音とヘルさんの軽いいびきだけが残る。
取り残された俺は、キーやんをともかく撫でてみる。大きさあまり変わってないなー。
「かえる?」
と、聞かれたが、まずカーチさんと何があったか俺は知りたい。
でもまぁ、うん。
「俺たちも帰ろうか……」
ってんで、帰った。
キーやんは何日越しかで王都を目指す旅に出かけ、俺は即寝した。
お分かりだろうか。
何かを忘れていることに。




