騒がしい朝
割と朝から濃い会話をしつつ、濃い考え事をしてたはずなんだが。
後ろから騒がしい声で一気に吹き飛んだ。
「れれれれれれ、レサン!?」
「んー……カーチ……もうすこし寝かせ……カーチ!? わ、わっ!?」
匂いで起きたのかねー。
レサンさん、朝弱いんだなぁ。俺と旅してる時は一応あれか。職員モードか。
なんというか、生々しいものを感じるよな。多分、カーチさんが起こしつつ朝の用意。レサンさんがギリギリに起きてきてバタバタと準備をして、カーチさんの作った朝飯をかき込んでいく……。
いいじゃん、割と普通の家庭じゃん。はよくっつけ。
「ちが、違う、違うよ、僕……そんな、つもりなくて……」
がっちりレサンさんも髪で抱きしめてたので、カーチさんにだけ言い訳させるのは卑怯だと思いまーす。
仕方ないので、天幕にちょっと顔を入れて、ピースを作る。
「お二人さん、朝飯できるぞー」
うわ、なにその距離。二人とも正座で、でも離れがたいのか、割と近い距離で、でも触れ合ってはいないという微妙な、距離。
動揺を隠せずに髪を振動させてるレサンさんと、オロオロと言い訳モードになっていたカーチさん。
二人とも、俺の表情で理解する。
「……!」
カーチさんは真っ赤な顔で俯いた。
「ケンゴ!? いい、いい依頼、依頼、回さなからね!?」
レサンさんはギルド職員らしい脅し文句を口にする。
「ソレナさんに言いますよ、脅されたって」
にやっとそれだけ言って、火の元へ戻る。
肉焦げたら嫌だしな。
「ケンゴ〜!」
恥ずかしさを誤魔化すようにレサンさんが外へ飛び出してきた。
「はい、じゃあ手を洗ったら手伝ってください」
「ケンゴ、ケンゴってば、もう、何するの!?」
「いやぁ、うちのキーやんがいなくなってカーチさんが寒そうだったので」
「……でも、でもだよ!?」
一瞬迷うあたり、カーチさんの体心配なんだなー。
「レサンさんもギュッてしてたじゃないですかー。俺にはしてくれなかったのにー」
「したらいいの!? ケンゴにもしたらいいの!? したらもうあんなことしない!?」
どんだけテンパってんだこのエルフ。
流石に返答に迷う。
いやぁ、俺は肉の面倒みないといけないんだ。肉をひっくり返していく。
「……だめ」
その間に天幕から出てきたカーチさんがレサンさんの袖を掴んだ。
俯いたままだから、カーチさんの視界には入らないんだろうが、レサンさんの髪の毛が迷うようにクネクネしている。
いけ、いくんだ、そこで抱きしめるんだ!
「て、手伝い、手伝いだよね、ケンゴ!」
なんでこんなに純真なんですかね、このエルフたち。
仕方ないので、いい感じに焼けた肉を端に寄せてスクランブルエッグを作る。
殻はちょっとこの世界にない物質とかが混じってたら嫌なのでキーやんに食べさせた。
レサンさんにパンを持たせて、その上に肉と卵を乗せていく。
レサンさんの持つパンに、俺がもう一枚乗せることで朝食が完成。
迷いなくそれを口に運ぶレサンさんの後ろで、カーチさんが同じようにパンを手に乗せて待っていた。
不意をつかれたが、普通にカーチさん、こういうところが可愛いよな……。
そして、カーチさんは一つ目をイライジャ老に渡し、二つ目を頬張る。
普通そうだよ。人に回すんだよレサンさん。全くさぁ……。
自分の分は鉄板の上で作ってキープ。
開いたフライパンはいい感じに肉の油もまだ残っている。
よし。
ホットケーキタイムだ。
作りおきのミックスをフライパンの上に小さめに配置してたら、俺のサンドイッチにレサンさんが手を伸ばしてきた。
「……レサンさん、それは俺のですよね、普通に考えて」
「ケンゴ、先に食べたとか……」
意趣返しじゃなくて単に食い意地が張ってるだけかよ。
「いや、食べてないんで。それ、俺のなんで」
「……」
そんなひもじそうな顔をするな。
「別のもの今作ってるので。待ってくれます?」
「……うん」
カーチさんが何か言いたそうにしてるが無視。
ホットケーキを焼きながら自分の分を頬張る。
そんな欲しそうな顔してもあげないからな、レサンさん。
その視線が俺のサンドイッチから出来上がっていくホットケーキに向けられる。
「あなた、何歳ですか、レサンさん」
「……内緒」
早速、カトペで取ろうとするレサンさんを長箸で阻止。
「ひっくり返したとこでしょうが。生焼けですよ」
「可愛いねぇ」というカーチさんの呟きは完全に無視する。
ただ、レサンさんに倣ってカトペ取り出してその後ろに控えるカーチさんが可愛い。
イライジャさんは食事を終えて、瓶をまたいじり始めた。
あーこれ、俺が説明する流れかー。キーやんも瓶がぶっささてて無理だもんな。
レサンさんにのカトペに、ミニホットケーキを2枚押し込みながら思う。
最後の一枚を物欲しそうに見つめるレサンさん。
「これはカーチさんの分です。ほら、カーチさん早く取ってください」
「ありがとう」
ひょいっとレサンさんの後ろから手だけ伸ばしてとるカーチさん可愛すぎ。
しかし、なんで後ろにいるんだろうな。横に来たらいいのに。
レサンさんはもう一枚めを頬張ってる。おい。
「シロップいらないんですか」
「シロップまであるの? 豪華だね」
とりあえず、カーチさんにかけてあげる。
「やめてくださいよ、レサンさん、口から取り出さないでくださいよ?」
「もももももも」
「だめですよ、口の中にシロップを入れるのも却下です。それをまず飲み込んでください」
「ももももも」
くすくす、とカーチさんが笑った。
レサンさんから感情が消える。それでも、俺にホットケーキを差し出してシロップを要求してくる。
2回くらいフェイントしてからかけてやった。
二人がデザートを食している間にフライパンを片付けていく。
俺はなしだ。城の食事が豪華すぎてちょっと他で調整せねば。
アルビンくんはどうやって体型維持してるんだか。
「美味しいね」
カーチさんがレサンさんの顔を覗きながらいう。その笑顔に当てられたレサンさんは、うっと言葉に詰まった。
まじそれダメだぞ。カーチさん絶対に自分嫌われてるって思うぞ。
仕方ないなー。
「美味しくないなら吐き出してください」
「え? えっ!? さっきと言ってることが違う……!」
「じゃぁ、素直に感想を言ってください。はい、カーチさん、もう一回どうぞ」
理不尽に戸惑うレサンさんに一方的に幕仕立て上げた俺。
カーチさんはその展開は理解してるようには見えなかったが、それでも笑顔で、
「美味しいね−、レサン」
とさっき以上の笑顔で言った。
「お、おおい、美味しいね」
レサンさんの言葉が揺れる。
本当に何歳なの、このエルフ?
そんな二人への付き合いもしながら。
しかし、朝の食事の時間は、今日一日どうするかを決める時間でもある。
だから、ざっくりとイライジャ老たちが何をしようとしているのか説明した。
「すごいねぇ」
と言ったのはカーチさんだ。そう、カーチさんの方だ。
レサンさんはというと、
「え? 何それ!? ちょっと聞いてない、ギルドの方と相談しないとどうしようもない! 連絡入るから待ってて!」
と言って、完全に無表情で棒立ちになってしまった。
どういう、こと?
とはいえ、この無表情さはみたことがある。二泊三日の中日、ずっと黙り込んでいた時のそれだ。
ギルドに連絡を、入れてるの?
冒険者ギルドって、職員一人一人に連絡用の備品を持たせるくらい余裕があるの!?




