総代②
ここまでのブルエモン冒険者ギルド職員はこちら。(ドラムロール)
優しいV系、しかし戦闘狂なヘルさん
ザ・筋肉、笑い上戸のヴェルツさん。
表情が豊かな冷徹無表情なソレナさん。
変態する妖怪エルフなママ(イケメン)、レサンさん。
それを総括するラスボス、じゃねーな。ギルドマスター総代と呼ばれる人物! 期待だけが膨らむこと数十分。
ついに現れた、総代。
ぼー、としてたら、ヴェルツさんがおもむろに立ち上がったんだな。
おー、と思って、ヴェルツさんの視線を追いかけた。
「総代、お疲れ様」
ばー、とたくさん、ギルドに人が流れてきた。日が沈んで少し。一番、ギルドが混む時間帯だろう。もっと大きな街なら、夕飯済ませてくるのもありだが、この町はそんなに時間を潰せる場所がない。
それに、もはや棺桶に片足突っ込んでそうな年寄り、なぜか目を隠しているエルフ、訳ありの匂いしかしない顔ぶれがずらっと並んでいる。すぐに目につかない、普通の冒険者はあくまで地元民っぽい。
物凄く強そうな冒険者、そうだな、大剣背負って不敵に微笑んでるとか、ゴテゴテの装飾品をつけてるとか、明らかに足手まといの美女をパーティに入れてるとかはいない。最後のいるんだよマジで。超目立つからな、悪い意味で。美女にちやほやされるのが夢だったならやっていいから、家に帰ってからやれ。
訳ありか、平凡か、か。田舎の冒険者なんてそんなもんだよなー。
ん? どれがギルドマスターだ?
思わず二度見してしまった。
おい。
その挙動はダメだぞ俺。
あ、だめだ、どれが総代か本気でわからない。
ギルドに入ってきた一団は、なれた様子で各々の居場所に散る。なんというか、序列があるっぽい。職員の数が少ないし、カウンターにいるのは実質一人の24時間体制だから、待ち時間ができる。で、優先される奴というのがあるみたいなんだよな。
面倒だが、田舎に来たんだから仕方ない。顔ぶれが決まっていたら、強さとか家柄とかそのほか諸々で順番が決まってしまう
いやでもお爺ちゃん優先しろよ。
その中で、カウンターへ真っ先に足を向けたのは、目を布で隠したエルフだった。見えないのなら仕方ないのか。エルフだから云々あるのか知らないが。後者だったらだいぶん、この町めんどくさいぞ。
レサンさんがいい妖怪エルフだったから油断した。だが、どう考えても冒険者ギルド職員やってるレサンさんが、少数派。エルフ内部で異端まであるよな。
で、その冒険者エルフ、後者な気がする。
やおら派手なんだよな。レサンさんが着ているのと同じような、意匠としては質素なローブ。だが、そいつのは紅い。
紺の流れるような髪と相まって、目立つことこの上ない。
レサンさんは背が高くて体格もそこそこいいから、すぐに男型だと分かった。だが、このエルフはどちらか分からない。どちらであっても美形であることには変わりないが。
何より、その身綺麗さが不気味だ。あと、首と左手首につけているアクセサリーな。あれぱっと見、金じゃないか? この田舎で金つけてるとか……ちょっと待てあれ髪の毛だぞ?
金髪を何かでコテコテに固めてアクセサリーを作ってる?
え。怖い。
レサンさんは陽の妖怪だが、このエルフは陰の妖怪だぞ……。
自分でも何を言ってるか分からない。
いや、まぁ、直感そんな感じ。
陽の妖怪は悪戯するだけというか、まぁ、楽しく遊ぶ分にはいいよね、みたいな。
陰の妖怪は関わろうとするものなら、正気を吸われてどんどん小さな悪いことが積み重なって気が狂う、みたいな。
あー。気が、狂う。
このエルフ、人生で何かあって正気を失ったタイプだな。
近づかないでおこう……。誰もが一番を譲るの、納得だな……。
ヴェルツさんが、俺に手をあげた。ちょっと待てということらしい。
どれが総代なんだ……まったく分からないぞ……。
怖いもの見たさで、ヴェルツさんとエルフの会話に耳を澄ます。
「カーチ、レサンは今いないんだ。待つか?」
「ううん、いいよ。はい、日誌」
「ちょっと待て」
日誌書けるのかよ!?
まぁ、ほら、魔法があるしな!?
いや、光がダメで隠してるとか、かも知れない。
もっと強くなりたいからとかでも、おかしくないしな。
どのみち、目を隠してる理由が触れてはいけないアレだ。絶対に関わりたくない。キーやんにも言っておこう。
ヴェルツさんはさっとカーチさんの日誌を確認して、銀貨を数枚持ってくる。
Eランクで銀貨1枚歩かないかって言ってたから、高ランクだな。あぁ、レサンさんの担当だし、そうだよな。
カーチさんは、その銀貨をさっと受け取って、胸元から取り出した財布にしまう。
なんの不思議のない動作だった。
ゾッとした。
え。見えてるだろ。
俺の角度から表情が分からないのがまた怖い。
と、思った瞬間、カーチさんがこちらを向いた。
穏やかに微笑んでいた。
怖い。
意識が飛ぶかと思った。
多分、誰も動じないところを見ると、これがこの町の日常らしい。
マジか。俺やっていけるかな。
カーチさんは何か用を思い出したように、ヴェルツさんを振り返る。
まだ何かあるのか。
「ねぇ、ヴェルツはまだイバンにまだ会ってないんだよね?」
「あぁ。俺はギルドからなかなか出ないしな」
「そう……。イバン、まだ機嫌を直してないみたいなんだ。もし見かけたら、僕が謝ってたって言っておいてくれる?」
「あぁ。わかった。もし、見かけたらな」
ああああああああ誰だイバン。
誰か知らないが、すぐに逃げろ。よく分からないが、殺されるぞ。これ、これは監禁か? よく分からないがすぐに逃げろ。
カーチさんはそれでもう用が済んだらしい。うん、無理に割って入ったりするよりも、待った方がいくらも安全なんだろうな。触らぬ神になんとやら。さっと用事済ましてさっと帰ってくれるに越したことはない。
これ、レサンさん待ち始めたら、みんな心の中で舌打ちとかするんだろうなぁ……。
ん?
え?
カーチさんこっちに来るんですけどぉ。
新参者は死ねとかか?
いや、待てそれはない、落ち着け。ここは冒険者ギルドで総代もどれか分からないけど、いるんだからそれはない。
それがありうるなら、この町、エルフによる支配にあるなぁ……。
「こんばんは、新顔さん」
「あ、はいどうも……」
ローブの端をつまみ上げて、優雅なお辞儀をされた。
一応見えてるのか見えてないのか謎だが、俺も立ってお辞儀を返しておく。
必殺、接客業で鍛えられた、一流には到底見えないが文句をつけるほどでもない、卒の無いお辞儀。別名、秒で流して、ともかくお辞儀をしたという事実を作るだけのお辞儀。
お辞儀が通じたかは分からないが、カーチさんは即座に俺を殺す意思はないらしい。
殺意? 感じはしない。感じはしないが。
狂気のやつの殺意なんてメーター信じられんだろ。普通に。
「虫がついていたよ」って風魔法でぶった斬られた、とかあるんだぞ。『マジであった信じられない長寿族禄第五』タカハシ編纂より。
落ち着け、俺。
長寿族は味方にすると強いが、敵になるとめんどくさいんだ。しかも変な害意拗らせてくるから。こっちの理屈は通じないものと思っておいた方がいいからな。絶対。
「お名前は?」
おーまーえーが、さーきーに、なーのーれーよ。
「ケンゴと申します。昨日からこのギルドでお世話になっている、Fランク冒険者です」
あー余計なこと言ったかもしれない。舌の根が乾かないうちに思うが、まぁ仕方ない。これで、この場にいる全員に素性を聞かれた。すぐに、この町に噂が回るだろう。
新しい、冒険者が来た。Fランクらしい。なんの用で? どうして?
好奇心とともに噂が渦巻く。エルフとか排他的な雰囲気がするからな。どう噂が流れるか分からない。
これは、早々に町人と交流をはかって、チートスキル『スペシャルコミュニケーション』でさっさと好青年の地位を確立させねば。
ヴェルツさんがピクリと頬を動かした気もするが見なかったことにしよう。ギルド側、そもそも冒険者登録させないで日数稼ぎの作戦みたいだった。すると、俺が今、Fランク冒険者って名乗ったのはすごく都合が悪いだろう。どうして、早くEランクにしてやらないんだって話になるからな。
俺たちの冒険者ライフとしては、ここで噂が回った方が得か……。
いや、ギルドよりも、目の前の脅威だ。
カーチさんは、少女のように両手を胸の前で合わせて言った。
「ケンゴだね。よろしく。僕はカーチ」
「よろしくお願いします、カーチさん」
言ってすぐ「さん」でよかったかなーと思ったが、スルーされた。「様」じゃなくてよかったんだな。よしよしよし、セーフ。
「あのね、僕と同じような背格好のエルフを見かけなかったかな?」
「いえ、見ておりませんが」
え、なんだよ。もうやだよ。
やめろよ。怖いんだよ。
「そう……。見かけたら、教えてくれる? 僕の兄、イバンなんだ」
「イバンさんですね。わかりました。見かけたら必ず……」
一卵性双子の兄がいるんだ、ふーん。イバンさんっていうのか。
ンンンンンンンンンンンンわかった。
その人、死んでるんだな、きっと……。
カーチさんが殺した……まではない気がする。
目の前で殺された……の方が近いかな。
いや、いい。事情はいい。
深入りしたくない。
なんか「喧嘩して話しかけてくれない」とか「三日前まではすぐそばにいた」とかおっしゃっていたが、接客で鍛えた、やばい話題はあえて曖昧な返事をし話題を逸らすの術で乗り越えた。
いやー怖い。
この人本当に怖い。
レサンさん、冒険者ギルド職員なんかしてないで冒険者していた方が全員にとって有益だろとか思ってマジ心の底から申し訳ない。いる。レサンさん、いる。
レサンさんがカーチさんみたいなエルフを捌かないと、ギルドが機能不全に陥る。
「それじゃぁね、ケンゴ」
「では、また、カーチさん……」
よっしゃぁ無難に乗り切った。
カーチさんがギルドから出ていった瞬間、ガッツポーズしてしまった。
戻ってこないよな? な?
しばらくしてから、胸を撫で下ろす。
あーやばい、やばいエルフマジで怖―。
レサンさんといい、カーチさんといい、この町のエルフは心臓を止めてくるな。なんかスキル持ってんのか。
この間に、ヴェルツさんは二組冒険者を裁いていた。さすが手慣れたものだ。
日誌を読まなきゃならねーはずだが、対して変化のない内容なのだろう。
「総代!」
そうヴェルツさんが呼びかけた先。旅装束のダンディなアラフィフがこちらに来た。
待って。
すまん。
総代、今まで、ドアマンと化してなかったか?
入ってきてから、そこが持ち場とばかりにドアマンしてなかったか?
自然すぎてマジで総代だと思わなかった。
「よろしく。ブルエモンの町の冒険者ギルドマスターを務めている、ランドン。久々にこの町に定住を考える冒険者が来てくれて嬉しいよ」
「ケンゴです。これからお世話になります」
握手を交わす。
歳のころは50くらい。元から銀髪のようで、白髪が目立たない分、若く見える。
顔の下半分を、燻んだ水色のスカーフで隠していて、鋭い眼光が浮いて見える。その青色の目で何もかもを見透かされているような気分になってくる。
やべー。俺、真顔になってた。笑顔、笑顔。
身なりは、まぁ、どこにでもいる小綺麗な中年って感じかな。あえて言えば、金バックルのベルトが目に入るけど、まぁ、派手ではないし。
ただ、身体のラインが出にくい意匠で、外から筋肉量が分からない。顔の上と手以外は服に隠されてるもんな。
隣に腰布オンリーのヴェルツさんが並ぶと凄い図。
でも、総代も冒険者ってくらいだから、そこそこ鍛えてんだろうなーとは思う。
身のこなしは軽いしな。
ヘルさんみたいに帯剣をしている様子はないから、魔法系なのかね。
俺と総代の顔合わせが済んだのを確認すると、ヴェルツさんは自分の仕事に戻ってしまった。
え、待ってくれよ。
でも、ヴェルツさんしかカウンターにいない状態だから仕方ないよな。
ちょっと待て。何を話せばいいんだ。




