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【ソレナ】厄介事の襲来

 新種の魔物が新種の魔物じゃなくて、いや新種の魔物か。

 ともかくそうじゃない。


 アタシは連絡係だ。

 もちろん、新種だのなんだのがでたら、各ギルドに連絡を入れる。

 手順通り。

 責任を問われるのは、ブルエモンのギルドで、総代。

 それに、職員5人の顔ぶれでアタシが手筈を踏まなきゃぁ、どういうことになるか明らか。

 口うるさく言ってもレサンは報告書とか一切出さない。


 もちろん、今回もそうした。

 報告をきちっとまとめて上げた。

 なかったことにしてくださいとは言えない。

 訂正する場合もきっちり手順を踏まなきゃならない。

 

 アタシは面倒なことが嫌いだ。

 後からの面倒を回避するために、面倒を先に引き受ける。

 それならいくらでもやろう。

 それが、面倒に化けるとは。


 とりあえず、修正の第一報を入れなきゃならない。

 入れなきゃぁ、ダメだ。後から、なんだの言われても困る。

 その入れ方が問題だ。アタシの権限内として、とりあえずすぐさま一報だけ入れるか。

 ここで、総代に対応してもらうか。


 なお、総代はブルエモンの東の村落へ魔物対策の会議に出かけて夜まで戻らない。

 総代には軽く事情を書いて、メッセンジャーを走らせた。

 知らせは届くだろうが、件の会議の案件は、最近被害が甚大な田畑についてだ。すっぽかして戻ってくる見込みはない。緊急性で言えばあちらの方が高い。

 アタシが入れるしかない、これは。


 ほら、大丈夫だ。もう、道は見えた。

 向こうの連絡係に一報を伝えるだけ。何の問題もない。

 ケンゴの経歴が判明したので、確認したい事項があるから、王城担当者とつなげてほしい……ダメか。向こうでケンゴの担当になっている職員を飛び越えるようなことをしたら角が立つ。


 しかし、早急に王城に滞在した旨は確認しておくべき。もう、「王城に滞在していた」とケンゴが主張しているから、王城担当者に確認してくれと言おう。

 で、ケンゴを担当したアマーレさんにもその旨をお伝えください。それでいこう。万一伝わらなくても、アタシの責任じゃない。


 アマーレってのがまた曲者だ。

 ヘルと仲が悪い。一方的にヘルが嫌悪している。

 そんな感情を向けられれば反発も当たり前。ヘルはまだ業務事項は対応するものの、向こうは言葉のやりとりさえロクにしやしない。


 そもそもの因縁はギル坊にある。彼は小さい時から体躯のいい子だった。7つだっていうのにもう10には見えるような。

 それで持って母一人子一人。誰の子かもわかないギル坊を育てる母親ラキータはただでさえ偏屈だったのに、町から見捨てられてどんどんおかしくなっていった。

 それでもって、ギル坊もクセがある。この田舎町で、二人が孤立していくのは必然だった。

 ギル坊がまだ7つだってのに、ラキータはボケ始めた。ギル坊は冒険者になる道を選んだ。


 冒険者には一応、年齢制限がある。そりゃ、人口の多いギルドだと、あってないようなもの。だけど、あまりに幼いのに危険な稼業は任せられない。

 薬草収集くらいならと都会のは言う。街から出てすぐなら人通りも多い、街道に魔物を近寄らせないことを考えて依頼も作成してる。

 田舎はそうじゃない。草原なんて、空をいく太陽や星だけが目標。町から出たことがないギル坊一人、どっかへ行って死体さえ見つからないかも。


「10にならなきゃなれないんだよ」と説得を重ねた。

 ギルドの小用をギル坊にやらせて、小銭をやる。

 そんな日が続いて。

 ラキータだって、まだ働けないわけじゃなくて。なんとか、母子が生活しいてるのをちゃんとアタシたちは確認もしていた。


 ギル坊に一番入れ込んだのが、ヘルだった。

 よく飯を差し入れして、わざわざ時間を作って薬草依頼を自ら受けてギル坊と草原に出たりしていた。

 「深入りしてもいいことないよ」と忠告したアタシは、冷めた「おばさん」とヘルに呼ばれるようになった。


 ギル坊が8つになった晩秋、ラキータが風邪をひいて寝込んだ。病床で彼女は、ギル坊が誰かわからなくなった。

 ギル坊は、何も言わずに町から姿を消した。


 慌ててたのはアタシたちだけだった。

 他の町人は、厄介者が消えたくらいにしか思ってない。ラキータだって、すぐに殺されかねなかった。

 アタシたちは冒険者に彼の姿を探すように頼んだし、周りのギルドにも通達した。でも、冒険者ではない彼を探す義務は冒険者ギルドにはない。


 ラキータはその冬をなんとか生き延びて、ギル坊は冒険者になって帰ってきた。

 ブルエモンの東、交易都市ビリターヴィン。彼はその大都市に出て、年齢を偽って冒険者になった。Fランクだと、アタシたちが依頼を任せないことも計算づくで。ギル坊はEランク冒険者として一冬経験を積んで戻ってきた。

 そんな入れ知恵をしたのが、母親のラキータで、彼女だって自分がいなくなった後の息子を心配していて。


 「入れ込んだって仕方ないよ」と、冒険者になってしまったギル坊の依頼を受諾したアタシはヘルに殴られた。

 だって仕方ない。ラキータだって動けるものの、支離滅裂な言動を繰り返していた。もう、働けなかった。

 まぁ、情熱を失ったら「おばさん」になるなら、「おばさん」でいい。


 ビリターヴィンでギル坊を担当したのが、例のアマーレ。ビリターヴィンにも、ギル坊の失踪と経緯は説明してあったから、ヘルからしてみれば、「どうして登録を受け付けたんだ」ってこと。

 先方は、「いちいち冒険者でもないやつの事情まで把握してない」。

 まぁ、アタシは感情を仕事に持ち込まない。だから、なんとも言わない。


 ギル坊は、今年、15歳になる。条件を満たして、Dランクに上がる。

 Cランク上格の条件、Eランク以上の依頼500件をすでに満たしていて、最速でCランクになる気満々だ。

 ただ最近は、ラキータが本格的におかしい。ただでさえ、規則正しいことを好むギル坊を妄言で振り回している。もう息子と分からないのに、一人きりになるのが不安らしい。起きている間、ギル坊を離そうとしない。

 そんな母親にギル坊はつきっきり。とんとギルドに顔を出していなかった。


 冒険者としていっぱしにやってるギル坊に喧嘩を売るバカもいたようで、悪口に敏感な彼はかなり意気消沈している。

 「今更気にしなくていい」なんて言葉はギル坊には無意味。

 何かが一つ違うだけで不安になるギル坊は、あれだけ親身になってくれたヘルがいなくなって、そして、また戻ってきたことにも戸惑っている。

 彼にとっては受難の年。それでも、育ててくれた母に感謝して、自分からビリターヴィンに冒険者になりに行った彼は乗り切れる。少なくともアタシはそう思う。


 そういう経緯があるから、ヘルがアマーレを嫌う理由はわからなくもない。

 この因縁にはさらに続きがある。

 ヘルはブヴォーニュで彼とやり合ってる。まぁ、向こうは冒険者稼業から逃げて職員になった典型。冒険者と職員の仕事は違うからね。ちゃんと仕事してくれたら文句はない。

 アマーレ本人が何かやらかしたわけじゃない。ヘルからしたら同罪なんだけど。


 報酬支払いの貯め置きは銀貨しかできない。そして、端数は処理上、消える。

 これを使って、横領をするギルド職員がいる。

 銀貨しか貯め置きができないことを低ランク冒険者に伝えない。そして、カードには反映されてないけど、ちゃんとギルドで記録はつけてあると言う。

 そして、彼らへの払いを横領する。

 小銭程度の稼ぎにしかならない。それでも、やる。

 しかも、劣悪で、移動を繰り返して発覚を遅くしたり、カモにした冒険者を死地に追いやったり、なんでもあり。

 そういうものを、ギルド職員の特権と思っている輩がいる。金額の大きさではなくて、冒険者を操っている、その快楽のためにやる。


 ヘルがそういう輩を許すはずがない。

 ブヴォーニュに到着早々、クズを5人くらい証拠付きで会議にかけた。

 クズは5人。そして、その周りに黙認してきた人がたくさん。

 ヘルより4年前にブヴォーニュに移動したアマーレもそんな一人。金銭の譲渡こそ確認できなかったものの、ヘル自身はあると確信している。

 実際は、なんとも言えないところ。


 ヘルはついでとばかりにアマーレの職務の滞りや不備を追求した。ギル坊のことは一切触れずに。

 とはいえ、ギル坊の時にアタシたちも大騒ぎして、その話は知れ渡っている。

 アモーレは退職処分にはならかった。業務上の不備は確かにあって、ネスマーの郵送物担当に更迭された。

 アマーレにヘルを憎むなって言うのも無理な話。


 その更迭されたアマーレが、初級担当まで地位を回復していたらしい。もはや、ヘルへの意地だろうけど。

 そして、ケンゴを担当した。

 因果だ。

 向こうもこっちもウンザリ。どこか関わりのないところで生きていてほしい、って願いだけは同じなはず。


 そんなことを頭のどこかで思い出しながら、周辺ギルドへの連絡業務を終えた。

 まぁ、なんとか、総代に見苦しい報告をしなくて済む出来。


 一息つこう。

 問題は山積み。

 確かな報告が寄せられていた饅頭はケンゴのテイムドで片付いた。

 未確認の大型魔物が残っている。こういうのが、一番危ない。

 姿や居場所を確認しないまま、誰かが襲われたら?

 饅頭の偵察依頼はいらなくなったけど、残る新種二種の方にAランクを割かなきゃ。依頼、また、全部、組み直しだ。


 ギルドの連絡室から、表に戻る。みんなの定位置はカウンター。

 カウンターの後ろにあるこの机。ここがアタシの定位置。

 なんとか今日の依頼を昨日の夜までに仕上げた。そのせいでとっ散らかっている机上を片付ける。

 おおよその方向性、その検討をつけようと、眉間にシワを寄せながら。


 ヘルが、コーヒーを持ってきてくれた。

 コーヒだ。

 この町ではなかなか手に入らない。ブヴォーニュの土産として、彼が馬車いっぱいに持ち込んだものの一つ。

 揚々と自分で馬車を操って帰ってきて、町に寄贈したので、誰も文句は言えまい。しかも、その土産を知り合い全員に挨拶代わりに配り歩いたのだから。

 まぁその馬車の半分は、ブヴォーニュで新調した武器や防具類でいっぱいだったんだけどね。それはアタシたちしか知らない。


 ヘルが入れてくれたコーヒーを啜る。

 美味しい。

 ヴェルツが恨めしい目を向けてくる。

 昨日夜詰だったヴェルツは、起きて早々、ヘルの業務をなんの断りもなく任された。その上、ヘルが戻ってきたかと思えば、今度はレサンがいなくなった。その分を裁いている。

 いつもなら、文句の一つ軽く言いながら話しかけてくる流れ。でも、ヘルにまだ遠慮があるらしい。この男にそんなものは無用なんだけどね。


 ヘルはレサンに育てられたとかその辺り、話してないもんなぁ。アタシたちにとって当たり前すぎて、わざわざ口にするのも不思議。

 アルビンの経歴とかももはや日常の一部すぎで意識することも少ない。うーん、ヴェルツは自然と察して行ったようだけど、ケンゴに先に話していた方がいいのかなぁ。王城にいたってなると刺激しかねないし……。

 レサンとか長寿族は自分たちのことは自分たちでやってて、人間とは距離感ある。向こうは王国建国時代の、アタシたちにとっては歴史と言えるものをまだ引きずっているらしい。

 この町は、まぁ、いろいろと面倒。

 その中でも、レサンは人間のヘルを自分から引きとって育てたってくらいだから、相当の変人。総代の着任前、少なくとも三代くらい前からギルドにいるらしいし。


 ヴェルツに軽く手をあげて、後で事情を説明すると示す。伝わったかは分からないけど、あの唇に手を当ててから、軽く広げる動作は、呆れながらもの同意。投げキスではない。

 ヴェルツに気を取られてたら、ヘルに不意をつかれた。


「ネスマーでケンゴを担当したのって誰なんだ?」

 コーヒー飲んでるふりで誤魔化されてくれないかな。


 まぁ、自然の流れ。

 アタシ、連絡業務を今終わったところで。

 ヘルは昨日、「ケンゴ、全然説明受けてねー」とか頭を抱えながら、夜になってようやくギルドに来れたギル坊の対応して、ヴェルツに後を任せて寝たらしいし。

 ちょっと確認しとこうって律儀な彼なら考える。

 あぁ、ヘルにどう言うか考えてたなかった。

 アマーレじゃなかったら、定例会議で名前出して伝えたし。疲れてうっかり忘れてるアタシをさりげなくフォローしてくれる、いつもの優しさだ。

 でも、そういう不意打ち、困る。


「どうした?」

 名前が出てこないだけだと思われてる。

 机の上の、作成中の依頼をめくって確認するふりをするヘル。

 やめて、そういう優しさ、辛い。

 甘えたくなる。


「ヘルってさ、律儀」

 そうやって、話を逸らす。

 目を細めてこっちを伺っているヴェルツは、気づかなかったことにする。

 ヘルが手を止めた。

 あーあ。流石に不自然だったか。


 ヴェルツにまで不穏は伝わったらしい。彼はこちらから目を逸らした。後でやき入れてやろう。

「また、あいつか」

 吐き捨てるようなその言葉にアタシまで傷つくのは。

 ヘルが誰かを憎んでいるところを見たくないから。

「そう、言いたくなかったんだけどね」

 それだけで、ことが足りる。

 こんなことは、それで、通じるのに。


「そうか」

「そう」

 コーヒーが、一気に苦くなった。


 そのまま、お互い無言。そのままコーヒーがなくなる。ブレイクタイムが終わる。

「じゃぁ、連絡は任せる」

「わかった」

 それ以上は、ない。関わらない方がいい。できるだけ。


 アタシの返事に軽く頷いて、ヘルは立ち上がる。カウンターへ行って、ヴェルツと交代。

「よう、すまんな」

「あぁ、気にするな。ケンゴ、やばいのか? どこにでもいるFランクに見えるが」

「どっちかというと、弱そうな、だろ?」

「そうだな、強そうには見えない。よっぽど魔法が使えるとか?」

「後で、総代かレサンに聞いてくれ」

 表じゃ話せない話。ヴェルツが口笛を吹く。ケンゴの強さに期待してる。

「そんなに強いのか?」

 肩をすくめるヘル。


「それで、話は変わるが。饅頭はもう警戒しなくていいってどう言うことだ?」

「話、変わってないんだよな」

「おう?」

「まぁ、昨夜と今日は任せきりで悪かった」

「あぁ、気にすんなよ。ギル坊が顔見せてくれてよかったじゃないか」

「ギル坊がお前を恋しがってたぜ。何をしたんだ?」

「特に何も。俺が面白いんじゃないか? 単純に」

「まぁ、この町にはいない系統だからな」

「だろうな」

「ともかく、代わろう。今日は休んでくれ」

「あぁ、言われなくとも、お先に」

「言うね」


 そうやって軽口を叩き合うヘルは、もういつも通り。

 この席は、カウンターの会話が聞こえる。そこに座っているヘルも見える。

 レサンの髪が視界に入ってもなんとも思わないのに。


 立ち上がった。

 裏に戻ろう。ヴェルツに事情を話すために見える、今なら。

 それなのに、二人とも懐疑の視線を向けてくる。いつものアタシなら、一心不乱に依頼を調整しているから。

 らしくないのは分かっている。

 仕事に私情を持ち込むのは流儀じゃない。

 でも、ヘルがそこに踏み込んでくる。


 ドアを抜けたところで、ヴェルツを待ち伏せ。

 そのまま、会議室に行って、事態を説明した。

 淡々と。段々と、冷静さが戻ってくる。


 自分の仕事に戻る前に、ふとFランクを囲う用の部屋で立ち止まる。

 この町で冒険者になろうってやつはほとんどいない。だから、逃さないために部屋まで用意している。

 その分、一緒に依頼に行ったりするんだけどね。薬草依頼じゃなくて、魔物討伐させるし。

 とはいえ、そんな悪評が広まって尚更、冒険者になろうってやつがいない。


 ヴェルツも興味があるようで、別棟の自室じゃなくてこっちにきた。

 後ろに彼の気配を感じながら、薄くドアを開けて覗いてみる。

 髪で饅頭と格闘するレサンと、意に関せず腕立てふせをしているケンゴがいた。


 アタシはそっとドアを閉じて何も見なかったことにした。ヴェルツは何度も頷いているあたり、新人を気に入ったか。

 彼、一日2時間は時間をとって鍛錬してるし。ヘルなら、その時間を、っと彼のことは考えないようにしてるんだった。


 とはいえ、明日の依頼を作成し終わらないと、アタシは寝れない。

 いつもは一ヶ月単位で計画して、一週間単位で依頼を作ってる。日々の業務は微調整だけ。

 一手に担っているだけあって、こういう初めての事態でも一人でこなさないといけない。ただ、まぁ、今日は総代に色々と相談しないと問題だけど。


 それで、ようやく、日が暮れてからギルドに顔を出した総代の放った言葉がこれ。

「ケンゴ、Eランクに上げないとか無理かな?」

 無理でしょ。

「レサンがカードの作り方を忘れたって一週間くらいゴネれば?」

 だから、無理だって。

「なんとかならない?」

 どう頑張っても無理。

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