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【キング】まちにつく

 我々が目指していた町についた。

 タカハシは現地の人々に受け入れられるかという不安から、歩みが遅くなった。

 私と再会するのには躊躇がなかったくせしてだらしない。


 私は、彼の頭の上に乗っている。

 小さくなれとか、軽くなれとか、タカハシのうるさい要望に応えなければならなかった。

 彼は、大きくなり続ける私の特徴など知らないし、どうやって軽減や小型化を図るか知らない。いかに魔術を駆使して、実現しているか、わざわざ説明してやるのも面倒で、私は渋りながらも要望に応えるしかなかった。

 タカハシとの会話の中で、人間は首が折れたら死ぬと知ったので、いざとなれば彼の頭上で重さを増せばいつでもタカハシを殺せる、と思うことで溜飲を下げる。

 タカハシは私がそんなことはしない、と信頼しているわけで、その信頼の方が重い。


 そして、私はタカハシがボルテ王城土産と称する布に包まれている。

 そして、私はその布の裏に何か書かれていることを発見した。


 文字。

 人間が言葉を記す、それに使うものだ。


 私は文字が嫌いだ。

 文字は大気を振るわせることはなく、熱も持たない、大抵は魔術でもない。

 身体がものに接して、そこに付着している何かの差によって、私は文字をしる。

 紙に乗ったインクは、木を這う蔦や、地面に並ぶ小石や、風が作った砂紋と区別しえない。

 それが文字であると教えられて、私は文字を知った。

 今でも文字を形成するパターンをそれと確認するまで、文字と他の区別はできない。


 布に記されたそれが、文字と知ったのは、他に布の感触しかなかったからだ。

 布からはっきり浮いたインク。

 人間は、いつでも、こうもはっきりと文字を見ている。

 

 その文字を読もうと私は四苦八苦していた。

 だから、タカハシがゆっくり歩いてるのにも気づかなかった。

 ただ、急に彼が走り出して、ようやく私は気温が下がっていることに気づいた。

 夜が、訪れようとしていた。


 タカハシに運ばれて町までついたのは、良い。

 ただ、タカハシが何をしているのか、誰と話しているのか、しれない。

 特に、会話がわからないのが辛かった。

 何か、会話をしているのは、分かる。でも、内容がわかるほどの明確に空気の揺れが伝わってこない。


 タカハシの能力にステータス透視というのがある。

 これを散歩中に使ってみたところ、使った対象の詳細がわかった。

 これを、まぁ、タカハシに打ってみよう。

 タカハシの全部が私に入ってきた。

 慌てて能力の使用をやめる。

 入ってきた情報に身体が小刻みに震え続ける。制御できない。

 これは調整が必要だ。


 試行錯誤の結果、タカハシの思考の表層を読み取れるようになった。

 ここは恐らく冒険者ギルドのようだ。職員のヘルという人間と話しているらしい。

 タカハシはヘルサンって呼んでいる。だが、「サン」の部分はタカハシが知り合ってすぐの人につけるので、ヘルという部分が名前だ。

 タカハシは気安くなった人の名前からは「サン」はとる。そのルールは理解不能だ。「サン」が何を意味するのかはいまだに不明。


 ヘルは日誌の提出を求め、タカハシはそれを拒否したいらしい。

 その理由は、「キーやん、お前のこと普通に書いたんだが。キーやん、お前のこと普通に書いたんだが。キーやん、お前のこと普通に書いたんだが」。

 三回も繰り返すので、私の処理能力が鈍る。


 そもそも、日誌が何かわからない。「テイムの件もバレるしー、テイムしておいて即お散歩にいったこともバレるしーまずいぜこれは」とタカハシが考える。

 とにかく、まずいらしい。

 日誌の提出をすれば、そこにこれまでの色々が書いてあって、まずい?

 タカハシは私に事情を説明するとか、そういう配慮が全く欠けてると思う。種族差のコミュニケーションが難しいだけではない。一方的にタカハシが悪い。


 しかも、タカハシは「え、お前、普通にここで姿見せちゃう?」とか言い始めた。

 だめ。

 無理。

 人間による拒否の意思表示は、否定の言葉以外にもう一つある。頭部を横に振るのだ。

 これを真似して、二回揺れてみる。タカハシになんとかその意図が伝わったようだ。

 アホなことを考えるな。

 空気振動による言葉の処理とは、また別の処理を求められて、私はなかなか言葉を解するのに手間取っているのに。


 「ちょっと作戦タイムだよな、な?」とタカハシが考える。

 同意。

 同意の言葉を作る以外に、同意を伝える方法。頭を縦に振る。

 ずしっと一回重くなってみる。伝わった。


 頭上のスライムと意思疎通の成功をタカハシが喜ぶ。そして、次の瞬間に我に返っている。

 タカハシはもっと真面目になるべきだと思う。


 それから、また何やらひと騒動あったみたいで、人が増えて、タカハシの思考は複雑になった。

 私は一先ず彼の思考を読もうと努力していた。

 が、そのうち疲れ果ててしまった。


 それで、タカハシが泊まる部屋にきた。

 私は、タカハシの思考に現れる名前、「レサンサン」の「サン」は二つとも取るべきなのか、それとも一つだけで良いのか、くだらないことを考えていた。

 何か相談しないといけないらしいから、疲れ果てながら待っていた。


 そしたら、レサンとか言うのが、新種がどうのこうの言ったらしくて、それが私だったらしい。で、他にも新種がいるらしくて、それがタカハシの移動手段軽トラらしい。

 タカハシは私がこの世界の人に見られたら、大騒ぎになることを懸念している。

 軽トラもそうだ。彼は注目を浴びたくないらしい。


 ともかく、布の裏面に書いてある文字をタカハシに見せた。タカハシの頭の中を読んでいた限りでは、ボルテ王国の艦隊が全部ゾンビになって、そのゾンビ軍団がクーデターを企んでると言うことらしい。

 なおゾンビとは何かまではわからなかった。


 ともかく、それよりも、タカハシの懸念は日誌で私の存在を知られることだった。

 それで、それについてタカハシと私は話し合う必要があった。

 でも、空気の振動が壁を抜けて伝わり、会話がバレてしまう可能性に、まず対処しなければならなかった。

 そのため、タカハシは私の身体を頭の上に乗せ、そして頭の横まで私の身体で彼の頭を覆うことを要求した。


 そこまではよかった。

 タカハシは、音が漏れないように、私に彼の頭を締め付けることを要求した。

 締め付けすぎだと怒られた。


 それから、タカハシは、耳の部分だけを使って、空気を振動させることを要求した。

 私が振動を作るべく、揺れると、タカハシは耳の穴に侵入しすぎたと文句をつけてきた。

 人間の耳に穴なんて。そんなものに注意を払ったことなんてない。無茶な注文をつけてくるものだ。


 ともかく、色々話あった。

 一通り話し合った後、タカハシの思考がおかしくなった。

 空を飛んだり、女性に囲まれてみたり、とにかく、支離滅裂で、おかしくなった。

 私は慌てて、表層以外のタカハシの思考を洗い出し始めた。

 よくわからないが、私がこうして接触しているために彼がおかしくなった可能性もある。

 とにかく、元に戻すための手段を探すために、彼の深層へ潜った。


 タカハシの記憶、そしてタカハシがもつ知識。

 言葉。そこに全てがあった。


 そして、タカハシは寝てしまっただけということがわかった。

 マジか。多分、こういう時、タカハシならそういうだろう。


 一晩、タカハシをのぞいていた。

 十分に働いて疲れたので、翌日の言い訳はタカハシに任せておいた。

 タカハシに言われた通り、喋ったり瞬間移動をしたり小さくなったりして見せたが、それがだめだったらしい。

 バカハシに任せていてはいけないというのがよおく分かった。

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