偽の経歴①
ボルテ王国のことを心配しても仕方ない。
仕方なくないんだがな。喫緊の課題なんだがな。
それよりも明日、日誌を読んだヘルさんにどう言い訳するかの方が俺らには大切だからよ。
いや、王様のことも後で真剣に考えます。きっと。
冒険者ギルドは大抵古い建物だ。ここだってそうだ。使い古されている。
壁は、薄い。
話し声で怪しまれたらまずい。
だから、話し声を立てずに話す方法を考える必要が、まずあった。
幸い、キーやんは俺の頭を読める。幸いか?まぁいい。
ともかく、そういうわけだから、キーやんから俺に言葉を伝える方法を考えたわけだ。
発想は、ヘッドフォンだ。
キーやんを頭に被る。耳を塞いでもらって、その部分だけ震えれば、俺にキーやんの言葉が通じる。
かつ、音を閉じ込めるように密着して貰えば、声どころか音が立たないはずだ。
キーやんがどこまで塞げばいいか分からずに耳の中にはいてきたり、頭を締め付けすぎて頭蓋骨が壊れそうなったり、本当に色々あった。
が、なんとか、密会の方法を確立することができた。
考えた言い訳はこうだ。
俺は、気づいたら流氷に乗っていた。キーやんと一緒に。
流氷は、ボルデ王国の南に流れつこうとしていた。そこを、王国艦隊に救出された。
俺は、これまでのことをほとんど覚えていなかった。今も記憶は戻っていない。だから、キーやんが何で、俺とどういう関係なのか分からない。
なんとなく、朧げな、記憶はある気がするが、はっきりとはない。どういうことか俺自身が一番知りたい。
艦隊は王城に戻り、俺も一緒に連れていかれた。キーやんは、人が多い場所を嫌って、どこかへ姿を消してしまった。
王城にいつまでもお世話になっているわけにはいかず、俺は記憶を探し求めて、旅をする決意をする。
兵士と手合わせをしても、なぜか大丈夫だったから、冒険者として生計を立てようと冒険者登録をする。
記憶を探し求めるために他国にも行く予定だ。だから、珍しい品を売り買いできるように行商人登録もした。
ひとまず、冒険者としての独り立ちを目標とした俺。大きい街よりも小さい町を拠点にしたいと思い、ブルエモンを目指した。他の街とか経由するのが面倒で、できるだけ直線距離で来た。
そしたら、平原でキーやんが戻ってきた。
なんか、寂しかったみたいで、嫉妬かなー、嫉妬があったかなー。ちょい乱闘したり戯れあったりした。
で、そのまま野良饅頭と、町に入るわけにもいかないから、とりあえずテイムしておきました。
どうだ!?
完璧じゃないか!?
という話を披露された、ヘルさんの反応はこちら。
「スライムって日誌に書いてあったが?」
「丁寧にお読みいただいて恐縮です……」
書いた、書いた記憶が確かにある……。
「本人、じゃなくて、本スライムがそう申しておりまして」
「いってなーい」
「言った。絶対に言った」
「たかはし、きおく、あった」
「ないでーす、お前が自己申告しましたー」
「してない」
そんなコントをギルド職員の前でする。
そう、キーやんが喋るってのは、誤魔化さないで行くことにした。
まぁ、絶対そのうちボロ出るからってのが主な理由。
とりあえず、今日、起きてからのことを順に整理しておこう。
夜中にこそこそと話してたもんだから、俺もキーやんも寝坊。キーやんが寝るのかどうかっていうのは謎だが。
まぁ、朝スッキリ起きれなかったわけよ。
レサンさんの叫び声で俺たちは目を覚ました。
レサンさんは俺たちの様子を見に来たわけだ。昼まで寝てる俺たちを心配して、とレサンさんは言っていた。本心は別のところにあるんじゃないかと邪推をせざるをえないわけだが。
ともかく、レサンさんは俺たちの様子を見に来た。
で、ノックもせずにドアを開けたと。まぁ、俺はぐっすり寝てたから、もしノックされても気づかなったと思うんだけども。
昨夜は、キーやんと話し込んでそのまま寝落ちだよ。
スライム、俺の頭をすっぽり覆っているわけだな。
そりゃ、新種の魔物・饅頭が、新人の頭に覆い被さってたら、叫ぶよな。
レサンさんは俺の頭から饅頭を引き剥がそうとした。レサンさん、優しいよな。見捨てたりしないんだな。
でも、キーやんは密着モードだ。耳を引きちぎられそうになって、俺は痛みで叫びながら起きた。
レサンさん、パニックだよ。
饅頭は新人を取り込んだまま離れないし。
いや、俺らが悪いんだぜ。これは。
レサンさんはそのまま、叫びながら助けを呼びに行ってしまい、俺とキーやんは寝起きで何が起こったんだってパニック。
ここ数日でお馴染みになった俺の胸に抱かれるっていうポジションに、とりあえずキーやんが落ち着いて、「なになに? なんなの? 何が起こってるの?」って顔とスライム面を見合わせてた。
そしたら、まだ見知らぬ女性を連れたレサンさんが戻ってきた。
二人とも、「あ、胸に饅頭いる、もう新人、死んだな」って顔になってた。
で、「昨日は言いそびれたんだが、これ俺がテイムしちゃった魔物なんですよ」と大慌てて言い訳したりして。
信じてもらえたかはともかく、命に別状はなさそうだって判断されたみたいだ。
当然、ちゃんと、話、聞かせろよ? ってことになるわけで。
レサンさんはギルドの表に行ってしまった。ヘルさんが俺の担当だから、彼と入れかわざるを得なかったらしい。
レサンさんはキーやんにものすごく後ろ髪を引かれてた。つついて「おお……」とか言って超怒られてた。
レサンさんを怒っていたのは、初対面の女性職員。彼女はソレナさん。他ギルドとの連絡係と、依頼を作る戦略担当をしているそうだ。
クリーム色の髪を肩甲骨のあたりまで伸ばしている。冒険者としては長い方なんだが、レサンさんのせいで霞む。
左側の髪は刈り上げて、濃い色に染めてあった。地毛ではないよな? なんか文化的な理由があるのかね。
職員といえども、筋肉質で現役って感じだ。アラサーだと思うが。
靴も、白と黒のモノトーンでおしゃれ。
ヘルさんもファッションとんがってるし、なんか、自由だなぁ……。
ヴェルツさんも筋肉に極振り系だから、きっと。
なんか、自由だなぁ……このギルド……。
王都ネスマーではあまりそんなこと感じなかったんだけど。
ヘルさんとソレナさんに、ギルドの個室に連れ込まれて、俺とキーやんは事情聴取を受けることになった。
会議室かな。割と広い部屋に、長机が置いてある。椅子は五脚しかなくて、机が無駄になっているスペースが広い。
職員五人って言ってたからな。彼らしか使わないとかか?
二人の前に、キーやんを抱いた俺が座った。
ヘルさんがそこそこに相槌を打ってくれたけど、だんだん言葉数が少なくなり、最後には腕を組んで無言になった。怖い。
ソレナさんは、黙々とメモをとりながら。俺の方を見たりもしない。怖い。
そんな中、俺は一通りの昨夜即席で作った経歴をし終えた。
そして、ヘルさんに「スライムって日誌に書いてあったが?」と痛いところを突かれちゃったわけだ。
うーん。
どうなる、俺。誤魔化し切れるのか。




