勇者と錬金術師。その九
今日中に……。
がんばろう。
「勇者見てみてどうっすか?」
「俺の感想を求める前に、本音を聞かせてもらっても?」
本来なら優先させるべきはずの国王への挨拶を無視、正確には国王命令でこの訓練所にいるのだろうが、ケルトにはそれにはどうも裏があるようにしか思えなかった。
「で、国王陛下は俺に何をしてほしいと?」
「話が早くて助かるっすね。実はなんすけど、戦ってほしいんすよ。現勇者がどこまでやれるのか、人間界ならたぶん一番強いかもしれない人相手に」
「人間界で俺が一番強いと?陛下はそう考えているのか……ずいぶんと買い被られたものだと俺は思いますけど。ルルリアさんはどう考えていますか?」
「ケルケルは最強だと思ってるっすよ。嘘偽りなく。戦いのパターンって人によってある程度は数が決まるもんなんすけど、ケルケルの場合はそれが当てはまらないっすから。無限とまではいかないまでもそれでもかなりの数の攻撃パターンを持ってると思ってるっす」
実際ケルトは決まった流れというものを作らない。魔物相手ならその場で倒してしまうため、同じような攻撃を用いることがあっても知識を持つ者相手に同じ攻撃を使うことはない。
一度手合わせした人間には同じ攻撃を使うことはない。
どうしてルルリアがケルトの流儀を知っているかは謎だが、自分のことばかり知られているというのはいい思いをしないのもまた事実。
「お兄ちゃん……」
ティアが心配そうにその大きな瞳でケルトを映す。
「心配ないよ。単純に試合だからね……怪我をしてもある程度はならティアでも治せるでしょ?」
「うん、でも大きな傷とかはまだ無理だよ」
「そんな傷は付かないから大丈夫だよ」
ポンポンとティアの頭に手を置く。
「ティアっち、ケルケルを信じるっす。師匠は無敵っすよ」
「あんまりそういうこと言わないでほしいんですけど、ルルリアさん。それに勝負事というものに絶対とか無敵とかそんなものはありません」
あまり勝負、というか戦いを好まないケルトだが戦うからには無駄に負けるつもりはないと思うところがある。
要するに負けず嫌いなのだ。
訓練所の戦闘フィールド内に入ったケルトはこちらを見る視線が複数あることに気づきながらもそれに動じることなく真っ直ぐ進む。
勇者目指して。
この場所に怪しい男が乱入したことで周囲で訓練していた兵士たちには緊張の色がその瞳から伺えるが誰一人として動くものはいない。
というよりも動く前に後から入ってきたルルリアが制しさせたためだった。親しい男はフードを深く被り顔を見ることは叶わないが体格から見てるに勇者よりもやや背丈が高い程度でそれほど屈強という感じはうけない。
「誰だ!」
今代の勇者が叫ぶ。
その声は空間を震わせ、王者たる威厳というものを感じさせる。ただ女受けがよさそうな顔をした優男というだけではないということが証明され、ケルトは口元を緩める。
戦闘狂ではないとはいえ、元々高い戦闘能力を誇るダークエルフが戦い嫌いなはずがない。大好きといかないまでも好きには違いない。
本人がいくら否定してもそれは本質だ。
魂に刻まれている本質。それを否定することは神であろうと無理だ。
「ルルリア騎士補佐、あれは?」
勇者の教官を務めていた男が訪ねる。
「ちょっとした縁があった者っす。ここいらでどれだけ出来るのか確認しろって陛下の勅命っす」
「そうでしたか。あの者の実力は如何ほどで?」
「わからないっす。全力ではって意味っすね……手を抜いても騎士団長とは戦えるくらいっすね」
「……」
手を抜いてというインパクトが強かったせいか完全に固まってしまった教官に肩をすくめながら二人を様子を見ることにした。
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