〜友達〜 act4
4.
土曜日。晴天。
「先生〜、やきそばはどうする?焼く?」
「やきそばは最後だろ〜」
「じゃんじゃん肉焼いちゃって〜」
「うわ、あちっ!」
「きゃー、油入れすぎた〜はねるっ。」
「気をつけろよ〜」
皆でバーベキューに来ました。
「佐岐さん、切るの手伝いましょうか。」
「あ、ありがと〜。」
野菜切りを担当していると小村さんが来た。
「佐岐さんて一人暮らしなんですよね?ご飯とか作るんですよね?」
「はは、毎日は作らないよ。」
「えー、そうなんすか?包丁持つ姿似合ってるのに〜。」
小村に続いてやってきたのは新人の男の子、愛称さんちゃんこと三ノ宮くんです。
「さんちゃん、包丁持つ姿似合うってあんまり嬉しくないよ。」
「そうだよ、さんちゃん、佐岐さんは何を着ても似合うんだから!」
「小村先輩、ちょっと話がズレてません?」
「いーのっ。佐岐さんファン一号はあたしだからねっ。しょうがないからさんちゃんは二号にしてあげよう。」
「なんすか、それ。」
「あたしは入社した時から佐岐さんファンなんだからっ。」
「へぇ〜。じゃあ、小村先輩まずは佐岐さんのように包丁持てるようにならないと。さっきからじゃが芋の身が減ってきてますよ。」
「う、うるさ〜いっ。」
ちょっぴり皮むきは苦手の様子な小村さんにさんちゃんのつっこみが入った。
確かにじゃが芋の身が・・・小さくなっていた。
そんな後輩の様子を微笑ましく見ていた。
「佐岐さん、野菜持っていっていいかしら?」
「あ。はい。終わりました〜。」
「じゃあ、こっち来て一緒に焼きましょ。小村さんも、さんちゃんも。」
「はぁ〜い!」
焼きと聞いてか元気良く返事した小村さん。
三人で鉄板の方へ行った。
「おっ、野菜班ご苦労。」
「先生、見て下さい〜このじゃが芋ね〜」
「あっ、こらっ、さんちゃん!!」
さんちゃんが小村さんの剥いたじゃがいもを先生に見せようとするのを必死で止めている。
「はい、佐岐さんお箸。」
「あ、ありがとうございます。」
「じゃあ、焦がさないようにお願いね。」
「はいっ。」
一緒に焼こうと言ってくれたのは美雨さん。
美雨さんは八つ年上の大先輩。
美雨さんも別館で働いているのだけれど、こうして集まりには参加してくれる。
お世辞でないといつも言うのだけれど、とても八つ年上には見えない位可愛らしくてパワーのある人。
お料理上手で手作りのお菓子の差し入れを仕事場に持ってきてくれたりする。
「そういえば、佐岐さんの実家ってどこ?」
「新潟です。」
「へぇ〜。知らなかった。」
「あたしは知ってるよ〜。」
さんちゃん、小村さんが続いた。
「今頃まだ雪か?」
「先生、さすがにもう解けてるよ。」
「そうか〜。」
そう言って、先生が味付けを始めた。
塩、コショウ、醤油を入れると、ジューと音を立てて醤油の焦げた香ばしい匂いがした。
どうやら鉄板の半分でチャーハンを作っていたらしい。
「うまそう〜。」
「先生すごーい!」
「飯だ飯!」
「チャーハンだ〜。」
皆が匂いに誘われて集まってきた。
「先生料理上手い〜」
「男の料理かっこいい!」
「早く食べてー。」
「先生家で料理するんですか?」
「するよ〜、うち母ちゃんいないからね〜。」
何気無く、質問した事。
何気無く、言った言葉。
返って来た先生の言葉に一瞬皆の視線が凍りついた。
「そ、そうなんすか?」
「うん。出っててからもう結構経つよ。」
「す、すみません俺・・・」
「何で謝る〜ばぁ〜かっ!」
「で、でも・・・」
「吹っ切れてなきゃそんな話ししねーよっ。ほらっ、皿出してそろそろ食べ始めようぜ!」
「は、はい。」
「お皿出して〜。」
「コップもね〜。」
「飲み物何にする?」
「何がある〜?」
「ビールにオレンジジュースとウーロン茶!」
「昼間から飲むのかよ〜。」
「いーじゃんっ、ビール最高!!」
「乾杯―!!!」
その後は先生の一言がかき消される位盛り上がった。
先生にお母さんがいない話しは初めてではなかった。
入社して、一度だけ開かれた同期の飲み会で。
先生はそう言っていたのを思い出した。
それでも、やっぱり当たり前のように忘れてしまっていた。
それ位、先生は、そう思わせない位、先生は・・・
元気一杯で明るくて、ムードメーカー的な存在だったから。
それだけじゃない。
配慮も上手いからいつも場の雰囲気を読んでいる。
後輩を元気付けて、遊びに誘ってくれて、皆にとって面白くて頼りになる先輩だから。
私なんて・・・
今だ傷つけたままの人だっているのに。
バーベキューの片づけをしているとリッキーがやってきた。
「おっ、空いてないの発見。」
プシュっといい音を立てて缶ビールを開けた。
「リッキー、ビール好きだね〜温くない?」
「平気〜。」
「どうよ、その後カトちゃんとは。」
痛い質問。
答えに詰まっているとリッキーが先に口を開いた。
「今日も誘ったのだけどね。」
それだけ言うと、リッキーはビールを片手に去っていった。
わかっている。
このままじゃいけないこと。
自分から勇気を出さなければいけないこと。
自分が・・・
今日、この場に来なかった加藤くん。
来れなかった加藤くん。
来れないのは私がいるから。
私が・・・
泣くもんか。
泣いてどうする。
泣いてもなんの解決にもならない。
ふと、啓志に言われたことを思い出す。
“一つ、気まずいままでは何か問題があるのか。二つ、彼女はこれからどうしたいのか”
“告白断っておきながら友達に戻りたいだなんていうのは図々しい話”
加藤くん、あなたは何を望んでいますか?
友達、同僚、今までのように戻りたいと望んでいますか?
それとも・・・
もう、話したくはありませんか?
顔を見るのも嫌ですか?
私は、私は・・・
私はどうしたいのだろう。
結局、啓志に言われたことを否定できないのも、肯定できないのも、自分がどうしたらいいのかわからないから。
ううん、わかろうとしていないから。
考えようとしていないから。
どうしたら、加藤くんと話せる?
話すって何を?
話すってどんな風に?
私は何を望んでいるのだろう。
「―――さん、佐岐さん。」
「佐岐さん?」
呼ばれる声で気がついた。
「あ、はい。」
「コンビ二寄るそうですよ。降ります?」
気がつくと先生の車から皆が降りているところだった。
コンビニの駐車場に停められたオデッセイ。
荷物との間に座っていた小村さんが降りるためにはドア側の私が場所を譲る必要があったのだ。
「降りるね。」
「アイス食べたい〜。」
お財布だけ持って嬉しそうに降りた小村。
バーベキューが終わって先生の車に乗せてもらい、帰る途中だったのだ。
考え事をしていると時間が経つのはあっという間。
時計を見ると五時だった。
場所を見ると・・・
知らないところだった。
「あれ?ここどこ?」
「佐岐さん起きてましたよね?」
「うん、起きてた。」
「うちの近くのコンビ二ですよ。」
「えっ、もうそんなに?」
「はいっ、もうすぐうちです。次佐岐さんちですよ。」
ありゃりゃりゃ・・・。
すっかり起きていたのにもかかわらずだいぶ乗車してしまっていたのね。
ま、いっか。
時間も早いし、啓志には電車で帰ったことにすれば問題ないでしょ。
同期とはいえ、男の人に車で送ってもらったとなると気にするだろうから。
幸い今日は奥さんがいる日だから連絡はメールで済ますことになる。
もう少ししたらただいまのメールを入れておこう。
「じゃあ先生ありがとうございました〜」
「おうっ、またな。」
小村さんの家に着いた。
「佐岐さんは前に移動して下さいね〜」
そう言って小村さんが車を降りた。
ああ、そうか。
二人だけなのに前と後ろで話すのも変だよね。
何も話さないのはもっと変だし。
後部座席から助手席へ乗り換えた。
「先生、まだ早いし横浜で降ろしてくれればいいからね。」
「おお、そうだな〜。」
「今日は昼からだったからさすがに朝帰りはないよな〜。」
そう言うと先生は笑っていた。
少しの間、先生と他愛の無い話しをしていた。
“ブー、ブー、ブーー”
メールの着信を知らせる振動だった。
携帯を取り出す。
新着メール一件 啓志
『穂澄はまだ帰らないの?』
おっと。
携帯で時間を見ると六時だった。
仕事が終わったのだろう。
すぐに返事を送る。
『今電車乗ってるよ。啓志仕事お疲れさま。』
『仕事終わった。これから帰る。穂澄も着いたらメールしてな。』
『うん。気をつけて帰ってね〜。』
素早い対応をすることで問題にはならなかったようだ。
啓志からの連絡は徹底している。
仕事が終わった時、家に着いた時、必ず連絡をくれる。
まめな彼氏ね。そうも言われるが、監視されているみたい。とも言われたこともある。
お互いの安心のため。
啓志はそう言う。
私もそれで良いと思っていた。
啓志が安心するならら、それでいいと・・・
思っていたんだ。
「メール。」
「えっ?」
「メール、してみたら?」
突然の先生の言葉に反射的に驚いてしまった。
啓志とメールしているのを知られたのかと思った。
「待ってるかもしれないよ。カトちゃん。」
「メールを?」
「そう。佐岐さんからのメール。」
加藤くんの事。
啓志から言われた事。
今日来なかった加藤くん。
今日行った私。
加藤くんから皆と遊ぶ時間を奪ったのは私だ。
私が皆と会うのをやめるべきだよね。
そしたら・・・加藤くんは来れるのだから。
皆と遊べるのだから。
「あ、そうだ。ごめんな、今日カトちゃん連れて来れなくて。メールしたんだけど・・・」
ごめんなって、先生が謝らないでよ。
先生が誘っても加藤くんは来ないよ。
来れないんだよ。
私が・・・
私がいるから。
来ないのでなくて、来れないのだよ。
だから先生は悪くないのだよ。
悪いのは私。
悪いのは・・・
「ほいっ、泣きグッツ。」
そう言ってティッシュが日一箱投げられた。
頭に帽子がかぶせられた。
いつの間にか涙ぐんでいるのを先生に気づかれたらしい。
その配慮が嬉しくて・・・
また泣いてしまったんだ。
「今日加藤くんが来なかったのは私のせいなの〜とかって思ってんだろ。また。」
少しして、涙が止まった頃先生が言った。
うう゛―、当たっているから言い返せない。
「そんな事考えるよりさ、今度は佐岐さんから誘ってあげたら?来週も予定立てるから。」
「うん・・・。」
「来週は何して遊ぶ?海?山?川?」
「ははは。先生それ全部制覇するの?」
「当たり前だろ!今年の夏は長いぞ〜」
先生と話していると落ち着くのはなぜだろう。
先生と話していると泣いてしまうのはなぜだろう。
同期だから?
話しやすいから?
不覚にも、二度も同じ人の前で泣くことになってしまうだなんて。
最近の私、ダメだな。
久しぶりに泣いた先週から、涙腺弱くなっているのだろうか。
それとも・・・
先生のこと、加藤くんのこと、考えながらも、別のところで啓志のことを考え、行動に出ている自分がいる。
手に持った携帯の、指で打つ文字。
『ただいま。帰ったよ〜。バーベキューの匂いついたからお風呂に直行です。』
送信。
メールって、便利だけど会話じゃない。
文字って、現れているけれど会話じゃない。
本当の会話は、向き合って話さないと意味が無いんだ。
加藤くんが向き合って伝えてくれたように。
先生が向き合って話してくれているように。
そんなことを思う夜だった。




