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ユメウタ  作者: 大希
3/5

〜友達〜 act2

   2.


翌月曜が始まった。

六月も二週目となると蒸し暑くなってきた。

今週こそは加藤くんに話しかけよう。

まずはきっかけとなる挨拶から。

そんな風に思っていた。


待ち伏せしてるのも変だしな。

朝礼の前に自販機の前でジュースを飲みながら悩んでいた。


「おはよ。」


一瞬驚いたが、後ろから声をかけてきたのは先生だった。


「おはよう。」


挨拶を返したものの表情は冴えない。


「どう?カトちゃんと話せた?」

「うう〜、まだなんだよね。」


「そっか〜」


先生の表情はいつもと変わらない。

ジュースを買うと隣に座る。


「土曜バーベキューしないか?」

「バーベキューかぁ。おいしそう。」


「カトちゃんも誘ってさ。」

「ほんと?!」


「話せるといいな。」

「来てくれるかなぁ・・・」


「来るだろ。」

「うん・・・」


始業のチャイムが鳴る。

朝礼に向かった。


加藤くんの姿を探す。

今日はいた。

朝礼に出ていた。

終わったら、話しかけよう。

挨拶してみよう。



「今日も一日よろしくお願いします。」

一礼をし、朝礼が終わる。


加藤くんの後ろ姿を目で追う。

廊下を進む距離を少しずつ狭めていく。

追いついたら、「おはよう」って、元気に挨拶しよう。

もう少し・・・

あと少し・・・


二人の距離が二メートルまで近づいた。

声をかけようとしたその時だった。


「おはよう!」


後ろから元気な声をかけられてしまった。

聞き覚えのある、声・・・



「おは、おはようございます。」


慌てて挨拶を返す。


「朝礼終わったか?」

「は、はいっ。終わりました。」


「丁度良かった〜、おーいっ、加藤!」


そう、加藤くんの元上司であり、私の交際相手でもある浅野 啓志。

啓志が来ていたのだった。


「加藤、久しぶりだな〜。仕事やってるか?」

「浅野さん、おはようございます。」


「そうか、そうか。いや懐かしいな〜。」

「異動してまだ二ヶ月じゃないですか。」


「いや、仕事場が変わるとなると違うもんなのだよ。加藤も来るか?」

「いえ、遠慮しときます。うちここからの方が近いんで。」


「言ったな〜、俺んちもこっちの方が近いんだぞ。」

「・・・知ってます。」


「まあ、今度飲み行こうな。」

「はい。ではまた・・・失礼します。」


そう言うと加藤は行ってしまった。

廊下に残されたのは二人・・・


「朝から穂澄に会えるとはラッキーだな。」

「ちょっ、浅野さんっ!」


廊下に誰もいないのを確認する。


「きょ、今日はどうしたのですか?」


つい、小声になってしまう。


「なんだよ、穂澄は嬉しくないのか?」

「浅野さんっ※♯×△」


「大丈夫だって。誰もいねーよ。」


そう言って笑ってみせる啓志の表情には余裕があった。


私達は当然ながら仕事場では上司と部下。

四月の異動がある前までの二年間は同じ建物で働いていた。

廊下ですれ違う時、お昼の時間が一緒になる時、帰りが同じになる時、いつもドキドキしていた。

半分は啓志に会えたドキドキ。

もう半分は誰かにバレていないかのドキドキ。


啓志は背が高いから目立つ。

おまけにカラーで髪は明るく、30過ぎの年相応には見えない。

こんな事本人の前では言えないが・・・


「今日は資料借りに来たんだ〜。」

「そ、そうでしたか・・・」


「なんだよ穂澄、つれないな〜。」

「※♯×△・・・」


冷や汗。

背中に冷たい何かを感じていた。


つい二ヶ月前までは、同じ建物にいるのが当たり前だったから。

意識していた。

廊下で、食堂で、玄関で。

啓志の姿を目で追ってしまう。

啓志も目を合わせ、微笑んでくれる。

言葉は交わさなくても伝わってくる想い。


特別、社内では話さないようにしていたわけでもない。

逆に仲が良い方だっただろう。


啓志とつきあうことになった時、仕事場でも今まで通りにしようと言われた。

急に態度を変えるのも変だし、二人で食事をしているのを見られたとしても、仲の良い上司と部下なら有りうる話だろう・・・と。



啓志と離れたこの四月から、意識しなくなった。

廊下で、食堂で、玄関で。

そこに啓志の姿はなかったから。

最初は寂しかった。

寂しかったよ。啓志の姿がないことに。

今までは仕事に来れば会えるのだから。

デートできない日が続いても、仕事で啓志に会えたから。

どんなに仕事が忙しくても、啓志の顔を見ると安心したな。


でもね、四月、五月と目まぐるしく忙しかった。

仕事が忙し過ぎて思い出に浸る時間はなかった。

だからかな。

六月に入って落ち着いた頃、啓志がやって来て。

もう、ずっと別々のところで働いていた・・・そんな錯覚に陥っていた。



「俺、そろそろ戻るわ。」

「うん。」


「木曜な。」


そう、最後に小声で言い残して啓志は歩いて行った。


「木曜な」耳元に残る啓志の声。

なんだか嬉しくて、恥ずかしくて、耳が赤くなっていくのがわかった。

今日も一日仕事がんばるぞっ!


そんな気合を入れたハズが・・・


あれれ??

頑張るのは私だった!

そうだっ!

今日は、今日こそは加藤くんに話しかけようと・・・


思い出してがっくり肩を落とした。


加藤くんに話しかけようと・・・

廊下を歩いて距離を縮めて・・・


啓志と会った。

廊下で。


そして・・・

啓志と話していたら加藤くんは去ってしまった。

せっかくの話しかけるチャンスを・・・

私は自分で台無しにしてしまったのだった。




そして、そのチャンスは再び訪れることは難しかった。

次の日も、その次の日も加藤くんと接触することはできなかったのである。


自分で作ったチャンスを、自分によって逃してしまう・・・

それをもう一度望むにはいったい何日かかるのか・・・


教訓:一度逃したものを取り返すのには倍の労力を必要とする。



そんな教訓を実感している場合ではなかったのだ。


はぁ。加藤くん・・・

やっぱり私とはまだ話したくない?

それともきっかけがないだけ?


私が勇気を出さなきゃね。

たくさんの勇気と辛い思いをさせてしまった加藤くん。


土曜日のバーベキュー、来てくれるかなぁ。



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