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この人を見よ  作者: ふじたごうらこ
第一章 出国まで
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第五十話、出国前夜の提灯行列

◎ 第50話、提灯行列




  私はお父さんのパソコンを閲覧している。お父さんがブックマークしているのを重点的に見ていった。お父さんはわりと几帳面なので私が最初からおきたことをメモ形式にしている。メモの横に感想みたいな書き込みもあったので、読んでいた。お父さんも最初からデース・池津さんのことを嫌っていたことに気付く。


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◎ 池津さんの通訳としての腕は不明だが、海外で働くことも多い女性はこんなものだろうかと思う。娘のめぐみもこの人の半分ぐらいの積極性があったらいいのに。

◎ 池津さんがめぐみに何とかしてメイデイドゥイフに興味を持つように、皇太子が好きになるようにと願っているようだ。めぐみがお手洗いに立っているときに「父親として娘の幸せを願うならばメイデイドゥイフで結婚させるのが親の務め」と説教された。明らかに通訳としての業務を逸脱している。この女性は人生カウンセラーとなにかと勘違いしているのではないか。

◎ 池津さんが私に色目を使うようになって驚いた。大山さんが席をはずしたときに二人きりになったが「お父さんは再婚なさらないのですか、いつからお一人になったのですか」という質問があり、正直に答えると「じゃあおさびしいでしょうね、私も実は独身ですのよ」とじっと私を見つめて手を握ってくる。大山さんがすぐに戻ってきてほっとした。池津さんはちょっとおかしい。

◎ マスコミにリークしたのは池津さんだと判明。本人は謝罪したというが本当だろうか。外務省は自宅謹慎にしたとはいうが、それでも甘いぐらいだ。

◎ 外務省がメイデイドゥイフ語がしゃべれる人材がないということで再度池津さんを指名しようとして娘が拒絶した。私も反対だ。池津さんもおかしいが、外務省もおかしいのではないか。この話は最初からおかしすぎる。


 お父さんもあの池津さんに怒っていた。最初のマスコミ露出もわかっていたのだ。しかも私の目を盗んでデース・池津さんにウィンクされたことまで書いている。恐るべしデース・池津! これじゃ逆セクハラだ。

 もっと強く言えばよかった。だけどお父さんの考えもわかってよかった。

 それ以外にはお父さんの親戚や近所の人たちの見覚えのある名前が一覧表になっていて、私の結婚報道を知ってからこっち彼らが言ってきた要求が書いてあった。

 ほとんどがお金をよこせ、もしくはメイデイドゥイフへ同行してめぐみちゃんの力になってやるから何かの役目をくれ等の要求だった。私が皇太子妃になることで自分もついでに有名になりたい、ついでにお金持ちになりたい、というさもしい根性が丸見えの要求ばかりだった。親戚の言動に私も傷ついた。お父さんは私の気がめいることを心配して言わなかったことだ。



 お父さんは逆にお祝いの言葉並びに感想一覧という項目も作っていた。私に関する好意的な記事をまとめてくれている。私はそれもクリックしてみた。そこは私への嫉妬による醜い罵倒の言葉はほとんどなく、見知らぬ人たちの暖かい祝福のコメントが胸に響いた。

「おめでとう、本当におめでとう」

「ラッキーシンデレラガール」

「世界の平和のためにあなたのその優しい笑顔で国際親善を」

「どうか日本とメイデイドゥイフの国交の柱に」

「歴史的な婚姻、爆雪めぐみさんのサクセスライフストーリー」

「笑顔がステキな美人高校生が日本を代表してメイデイドゥイフに嫁ぐ」

「クラシックバレエをこよなく愛する美しい教養ある爆雪めぐみさんが明日出国」

「メイデイドゥイフ国のレイレイ使節、美しすぎる使節の貴重すぎるショット集」

「秘密のベールの包まれたメイデイドゥイフ、楽しい未知の世界へ旅立つめぐみさんの幸せを祈ります」


 私はパソコンの電源を切った。そしてため息をついた。結局のところ、みんな知らないのだ。私を妬んで嫌がらせの書き込みをする人も、逆に祝福してくれる人も。

 だって肝心の私もどうなるか知らないのに。みんなよく知らないのにこれだけの祝福する記事が溢れていてその能天気さにあきれる思いだった。

 私はグレイグフ皇太子には五分ぐらいしか会ってない。デートなんかしてない、会話もロクにしてない。それでも婚約したことになってメイデイドゥイフ国に行くのだ。私は手で顔を覆った。どうしてよいかわからない。だけど世界中から結婚祝いは来ている。行くしかないのだ。メイデイドゥイフ国へ!

 頼りにしている筆子さんがいないので私のがっかり度は半端なかった。どうしたらいいのだろう、筆子さんをすごくあてにしていたのに。

 袋小路先生ったら昨日まで元気だったのにどうしてこういう時に死んでしまうのだろう、孫の筆子さんは葬式に出ないといけないのは確かなので私が先にメイデイドゥイフに行ってしまったらきっと後で来てくれるだろう、そしていろんなことを助けてくれるだろうと思った。

 しかしレイレイは池津さんの希望通りに通訳にしてしまった。これからも私のいうことを聞いてくれなさそうだったらどうしよう、私は嫌いな池津さんが通訳になるわ、筆子さんはこないわでパニック気味だった。


 私の部屋は田中さんと鈴木さんが持ってきてくれたいろんなところからのプレゼントでいっぱいだった。こんなにたくさんメイデイドゥイフに持って行けっこないではないかのものばかり。その中でもお父さんもよく知っている人からのプレゼントは私の部屋まで持ってきてくれた。私も大豆バレエの大豆先生や大盛女学院のクラスメートたちからのプレゼントはメイデイドゥイフまで持っていくつもりだった。

 大豆先生は新しいレオタードとトウシューズ、大盛女学園からは校長は校章入りの聖書をくださった。クラスメートは色紙に寄せ書きをしてくれていた。それと手芸部のみんなからは私が大好きなラナーテのクロスステッチの小さなキットをくれた。

 これらはかさばるものでもない。それとそれとお母さんの写真。お父さんが仏壇にある写真一枚をカラーコピーしてくれたのだ。私はそれらをトートバッグにまとめて入れておいた。

 それとスマホ。これは騒ぎになってから持ち歩いてはいるものの、全く使っていない。というのはいたずらメールやワンギリ、取材要請の留守番電話でいつみても満載になっている。自然と使わなくなったのだ。あちらでは日本のスマホは使えるかどうかはわからないが、充電器と一緒に持っていくことにした。

 向うで暮らすことになるかもわからない状態だが落ち着いたら理玖や大豆先生にゆっくり話をしようと思っている。メイデイドゥイフでは充電器は使えないかもしれないが、レイレイがなんとかしてくれるだろう。

 私は久々にスマホを操作して大豆バレエの友達や理玖と一緒の写真、学校の手芸部で作品展を出したときの記念写真、そして大事にしているNAITO の画像を見た。うん、これも大事に持っていこう。

 あとの大きいものは船便でメイデイドゥイフの宮殿まで送ることにした。その一部は田中さんと鈴木さんペアがすでに送っていてくれるそうだ。船便なので二カ月ほどかかるといっていた。手回しが早いが二か月後に贈り物が届くのなら、そのころには私もメイデイドゥイフの生活に少しは慣れてお礼の手紙でも書けるだろう。

 結局お母さんを産んで捨ててしまった祖母の存在は何もわからなかった。メイデイドゥイフの亡命者ということも考えていたけれど、外務省も突貫で調査してくれたはずだがわからないままだったのだ。


 やがてお父さんが今部屋に戻ってくる気配がしたので、あわててパソコンの電源を切った。盗み見したのはちょっと悪かったし気が咎めている。お父さんは案の定黒いスーツを着ていた。やはり袋小路先生の葬式に行ったようだ。マスコミの方は大丈夫だったのだろうか。また筆子さんとは話ができたのだろうか。

 お父さんは私を見るなり「めぐみ、今から家に戻ろう」と言った。私は驚いた。その瞬間、葬式の話はどこかに行ってしまった。

「えっ帰宅できるの?」

「出国前に一度は戻りたいだろう、当然だよ。今夜はゆっくり住み慣れた家で過ごそう」

「えー、家に戻れるんだ。うれしい」

 手回しよく外務省が車を用意してくれていた。例の黒塗りの公用車だ。運転手はお馴染み田中さんと鈴木さんだ。久々に会ったような気がする。

 二人とも私を見ると嬉しそうな笑顔になった。

「お嬢さん、いよいよ明日ですね。ほんと先月まではこの話もなかったのに人生は不思議ですね」

「そうですね」

 宇留鷲旅館から出るともう大きなカメラをもった記者たちがぐるりと私たちを取り巻いて待ち構えていた。用意された大きな車に乗ったが私はもう顔を隠そうともしなかった。もう日本中、いえ世界中のみんなに私の顔が知られてしまったのだ。そして私がメイデイドゥイフに嫁ぐことも。

 沿道に人が鈴なりになっていて、日本国旗を持っている人までいる。私は普通の女の子なのにそんなもったいない扱いをされている。お父さんが言った。

「えーと、めぐみ。久々の帰宅だが家が東京の新名所になっているよ、きっと驚くよ」

「新名所ってどういうことなの? 古いボロ家なのに?」

「住み慣れた我が家はメイデイドゥイフの皇太子妃、メグミ・バクセツのご実家として有名になっちゃったんだよ」

「えー……」

 後ろを何気なく振り向くと私が乗っている車の後ろにも黒塗りの車がついてきている。記者ではなさそうだが田中さんに聞くとSPだという。

「広本さんたちが乗っているんだよ」とお父さんが言った。


 私とお父さんは広本さんたちをSPとして久々に家に帰宅した。家まで来るまで三十分ほどだったがその間ずっと白バイが先導してくれていた。車中の田中さんも鈴木さんもちょっと緊張して私への態度が半端開く丁寧だった。

「めぐみさん、いよいよ明日ですね、家に帰られてよかったですね」

「はい……」

 その声も自分でないような上品な声だ。私は理玖の陰で隠れてひっそりと生きていた女生徒ではなくなった。今こうして車に乗っている様子も世界中の人々に配信されているのだ。車の沿道で大勢の人が私に向かって手を振っている。信じられない、私を見るだけで皆が笑顔になって手をふってくれるなんて、夢を見ているみたいだ。

 田中さんが言った。

「お嬢さん、どうぞ手を振ってあげてください、沿道の人たちが喜びます」

「だってそんな身分でもないのに、厚かましいのでは……」

「いえいえ、お嬢さんはもう時の人です。これを機会にメイデイドゥイフと日本と国交が開始されますし遠慮はいらないですよ」

「国交が開始。お父さん、本当なの」

「どうやらそうらしいな、坂手大臣が喜んでいたよ」

「……私は日本の平和にちょっとだけ役だったというわけね?」

 田中さんが声をはずませて言った。

「ちょっとどころか、胸張ってくださいぜひ」


 車はゆっくり進む。私は沿道の人に窓越しにそっと手を振った。すると沿道にある国旗がより激しくはためき、「めぐみさーんっ」「おめでとうございまーす」というどよめきが起こってびっくりした。 

 私はほんの少ししか手を振ってないのに大騒ぎになってしまった。

「ど、どうしよう、私どうしたらいいの?」

 お父さんは「一度手を振ったら最後まで粘り強く手を振ってやれ」とかいうのでいいのかしら、と思いながら手を振り続けた。


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 やがて懐かしい我が家に到着した。小さいけどとりあえずは一戸建ての小さな我が家。二階の自分の部屋にやっと戻れるのだ。今晩はそこで眠ることができるのだ。

 我が家の前も黒山の人だかりだった。交通整理の警察官も大勢いる。みんな私を見に来ているのだ。

「あれ、お父さんあれはなになの? 家の隅っこに細長い家が建ってない?」

「ああ、それね。家ではなくてSP小屋というらしいよ。めぐみの出国が決まって急遽建てられたようだ。めぐみがメイデイドゥイフの皇太子妃になると決まったのと同時にテロ対象になったらしいな。それでSPが張り付いて警護してくれている。小屋の奥にSPの人たちの休憩所と言うか簡易トイレとシャワーまであるよ」

「驚いた、そんな騒ぎに」

 テロ対象と言われてショックを受けたが今更イヤと言うわけにはいかない。私は車から降りて家にむかった。

 車から降り立つと懐かしい我が家に走って入り、お菓子の袋と漫画を持って二階にだだっとあがって自分の部屋のベッドの直行したかったがこんなに人が大勢待っていては不可能だ。

「めぐみさーん、こっちみてくださーい」

「カメラ目線どうかお願いします」

「こっちもでーす」

 きょろきょろするわけにはいかなかった。私は緊張のあまりこわばった笑顔になったと思うがそれでも一度カメラに映るべくちょっと立ち止まった。服装なんかスーツでも何でもない。Tシャツにスパッツだ。それでも私を姿を見て記者たちの後ろにいる人たちから拍手が湧いた。

「わー、おめでとうございまーす」

「あのめぐみさんだ、おめでとう」

「本物の爆雪めぐみさんだわ、観れてよかったー」とか言っているのが聞こえた。

 えへへと照れ笑いをしそうになったがそこをぐっとこらえて、上品に微笑んで軽く手を振り、SPの警察官たちに会釈をして家に入った。


 お父さんが家に入ってから鍵をかけた。

 玄関のドアを閉めたことで周りの歓声のボリュームが少しだけ下がった。私とお父さんは顔を見合わせて同時に大きなため息をついた。これで何度目のため息だろう。ため息をつくたびに話が大きくなっていって……明日はもう出国だ。

 このお父さんともお別れだ。

 お父さんは私の頭をなでてくれた。

「明日でもう出国か、早いなあ。そしてあさってが結婚式。先月の今頃はそんな話はなかったのになあ。結婚かあ」

「玉の輿と言われてもよくわからないな……グレイグフ皇太子のこともわからないのに、みんなが喜んでいて困ってしまうなあ」

「なあに、嫌だったらすぐ帰国しよう」

「お父さん、ずっと私のそばから離れず付き添っていてよ。私が日本に帰りたくなったらレイレイにちゃんと伝えてよ」

「わかってるって。筆子さんも後から来るし百人力じゃないか。性格に問題ありでもメイデイドゥイフ語がわかる池津さんもついていく。だから言葉の不自由もないしね、大丈夫さ。さあメイデイドゥイフに持っていくものを荷造りしておきなさい」

「うん、わかった」

 荷造りといっても大したものは持っていかない。嫁入り道具なんて特にない。私は宇留鷲旅館ですでにまとめておいたものを再度確認しただけだ。着替えもちょっと考えたが新品の下着の買い置きがあるのでそれも入れておく。日本円もお小遣い三千円ほど残っていたのでそれを持っていく。使うことはないかもしれないが、空港の自動販売機でジュースを買うかもしれないし。



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お父さんは久々に家の台所で夕食を作ってくれた。

「きつねうどんでいいだろ、ネギをたくさんいれたやつ、多分メイデイドゥイフにはこんな食事はないだろうからな、食べよう」

 きつねうどんは冷凍食品だったが多分メイデイドゥイフに行ったら冷凍食品も食べられなくなるに違いない。夜の八時ごろになると家のまわりがより騒がしくなってきた。

「めぐみ。ごめんよ、言うのを忘れていた。今夜は町内会の有志が提灯行列をしてくれる」

「提灯行列ってなに?」

「ご近所がお祝いに提灯持って行列してくれるそうだ。めぐみがこの家に戻っても戻らなくても今日やると決めていたそうだ。明日は出国だからね。外国の皇太子妃になるめぐみさんへのお祝いの気持ちだと。有り難く思うよ」

 私は提灯行列の意味がわからない。でもみんなが祝ってくれるのって気が重かった。

「……そんなにみんなに祝福されたって、肝心の私が何もわからない状態でメイデイドゥイフに行くのに、案外すぐに離婚になって戻ってくるかもしれないのに、みんなお気楽主義と言うかなんというか」

「まあ気持ちだけ受けって置いてやってくれ。ほら、テレビ局もきている。生中継だよ、ほらもう映っている」

 私の家がテレビに映っていた。自分が今いる家をテレビで見るというのは、変な気分だ。まわりはもう暗くなっているが近所の人々が一人につき一個の提灯をもって私の家のまわりをぐるぐるまわってくれている。見慣れた近所のおばさんやおじさん、いつも朝の通学時間に見かける犬を連れたおじいさんも提灯を持って私の家の前で万歳三唱をしてくれていた。テレビの声と同時に外側から聞こえてくる声が重なった。

「爆雪めぐみさんのご結婚を心からお祝いもうしあげますー」

「ばんざーい、ばんざーい、ばんざーい」

 テレビでは、明日出発する爆雪めぐみさんのご実家でお祝いされています、とテロップで流れている。大豆バレエの先生や生徒たち、大盛女学園の校長先生はじめ保健の先生、クラスメートはじめ顔見知りの人たち全員が私の結婚を祝福してくれていた。驚いたことに私をいじめていた小学校の時のクラスメートも全員来ている。理玖目当てに毎朝駅前で待ち構えていた男の子たちまでいる。一瞬いじめられた時のことがフラッシュバックして呼吸が荒くなったがみんなは私を嘲笑っているのではなく、祝福しにきているのに気付く。みんな提灯を振っている。お母さんに抱っこされた小さな赤ちゃんまで小さな提灯を持っている。赤ちゃんはもちろん意味がわからないので提灯を両手で握りしめてうれしそうな顔をして振っている。夜も更けてあたりは真っ暗だがその分提灯の列は長く明るく続いていく。

「めぐみ、ちょっと外にでてやれよ、みんなが待っている」

「……そんな感じね……この服でもいいのかな。あっそうだ、手芸クラブで作った浴衣を着ようかな、あれは一度も着ていないし。蛍の柄なんで提灯行列にいいかも」

「そんな浴衣があるのか。お父さんもみたいな、着ておいでよ」




 浴衣は自己流の着付けだったがなんとか着れた。草履がないけどサンダルにした。浴衣を着た私が家の前に出ると提灯を持った人々からの歓声でどよめいた。

「きゃあ、かわいい」

「浴衣だわ、浴衣を着ていらっしゃるわ」

「めぐみさん、よくお似合いですう」

「こっち向いて、めぐみさーん」

 私が浴衣を着ただけでこんなに大勢の人々に喜ばれるなんてうそみたい。嬉しいというより怖い。それでも長らく待たせてしまった人々のために私は笑顔を作り、手を振った。

 お父さんがこれを持ってあげて、と提灯を渡される。提灯には筆文字で獅子町内会有志、爆雪めぐみさんを送る会と書いてあった。皆が私の結婚をそんなにまで喜んでいるのだ。私は提灯を片手に持ち片手でみんなに手を振り続ける。多分この情景も世界中に配信されるのだろう、私は笑顔を作りながら小さく手を振りながら家の前にずっと立っていた。私は今や町内のみならず日本だけでなく世界中の人から注目されているのだ。

 何度でもいうが、私は嬉しいというよりも怖かった。











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