第7話 リーリャとフィリー
食事を終えた2人は、もちろん歯ブラシの共有などはせず、それぞれ寝る準備を整えて、少し早いが日が落ちきった午後9時頃にはもうリーリャの部屋に向かった。ここでもフィリーは使用人達を部屋から追い出して、水を一口飲むとそのままベッドに横になった。
後に続いてリーリャもベッドに横になると、2人で夏用の薄い掛け布団に包まって向かい合わせになった。2人の身長は同じくらいであるはずが、ベッドに横になるとフィリーの頭の位置がリーリャより少し下になる。
魔石灯は光を弱めているが、互いの顔をしっかりと見られるくらいには明るく、いつの間にか晴れていた空には明るい月が浮かんでいる。あと数日後には満月だろう。
「私ね、今日リーリャが私の部屋に来たとき、後悔した。私の話にリーリャを巻き込むべきではなかった。長期間会えなくなるのは寂しいけれど、教会からの提案の通り聖女見習いを複数人連れて行けば良かった。そう思った」
「どうして?」
「だって、毛並みが悪かった。いつもの艶がなかった。尻尾もたれて少しやつれて見えて、目の下にはクマがあった。あれだけ毎日手入れをして、時間がない中でも睡眠時間はしっかり取って、食堂ではよくおかわりをしているということを聞いていたわ。だから……」
そう再び泣き出してしまいそうなほどか弱く話すフィリーのことを、気がついたら抱きしめていた。今、リーリャは聖女ではなくなったことに対して、すでに未練はないのだ。そして、彼女について辺境に行けることをうれしく思っている。聖女であることより彼女の横にいること。そのことの方が大切に感じてしまう。それほどまでにフィリーとは愛おしい存在だ。なのに、こうして罪悪感で涙を流すフィリーを見ると胸が痛くなる。自分のせいで苦しませてしまっているのではないか。そう感じてしまう。
「フィリー、ウチはこれからフィリーと一緒に過ごせると考えると、うれしくてたまらニャい。教会での暮らしも楽しかったニャけど、ウチはやっぱりフィリーと一緒にいたいニャ」
「迷惑じゃなかった?」
「うーん、そりゃあ聖女をやめろって言われたときにはショックだったニャ。アレルギー、ニャんだそりゃと思ったニャあ……。でも理由を聞いたらいろいろな難しい事情があるんだなってわかったし、今もこうしてフィリーと一緒にいるニャ。こんなに幸せなことはニャい。ウチはいま、とても幸せニャ」
そう言ってリーリャはフィリーを愛しそうにぎゅっと抱きしめる。フィリーは丸めていた背を伸ばして、ゆっくりとリーリャの背中に手をやると、2人の顔は吐息が掛かる距離まで近くなっていた。
「私も、こうしてリーリャと一緒にいられてうれしい。これからずっと一緒にいてほしい」
「わかったニャ。もう離れないニャ」
「約束?」
「約束」
そう言って小指を差し出すと、フィリーはそれに答えるように自身の小指を絡ませた。2人はその小指を愛おしそうに上下に振る。しばらくしてリーリャは指をそっとほどくと、そのままフィリーの後頭部に手を回して、優しく彼女の頭を撫でた。窓から聞こえるジーーというセミの声は、今の彼女の耳には届かない。ただ彼女の頭を撫でる音と、彼女の呼吸が聞こえるのみだ。
「リーリャ、愛してます」
そうしてフィリーは小さく微笑むと、リーリャの唇にキスをした。




