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猫獣人の元聖女、辺境で孤児を鍛えます。  作者: べちてん


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第17話 リーリャ、ヴェライセンを出発する

「昨年のワインは出来がいいですね」

「ええ。未熟なものだがかなり良くなってきていますな」


 おもてなしがあると言われたフィリー一行は食後、大広間に案内された。そこには数人の演奏家がいて、この場で小さな演奏会が開催されることになった。フィリーはせっかくならと飲み比べ用に複数のワインをもらい、伯爵と話をしながら音楽に耳を傾けている。

 リーリャは夕食のもので少し酔ってしまっているため、ここではもうお酒は遠慮することとなった。代わりにただのブドウジュースをもらい、フィリーの隣に座ってじっとヴァイオリンの演奏に耳を傾けている。


「いくつかワインを購入しても?」

「もちろん。もしよろしければいいところをいくつか送りましょう。それで口に合うのがあれば追加で発注していただければ」

「ええ、それでお願いしますわ。あと例の白ワインもお願いしますね。たまには私もリーリャと呑みたいですから」

「他にもいくつか試作品があるので、合わせてお送りしましょうかな」

「それでお願いしますね」


 ダンディーなおじさまと、美しいお姫様が演奏に耳を傾けながらワインを飲んでいる光景はとても絵になっている。もしこの場に画家がいるならば、狂喜乱舞しながら筆を動かすことだろう。

 演奏会が開催されている大広間には、この地方の農園を描いた絵画や、ワインを保管するための樽のリメイク品などのこの地に関連する物品が飾られていて、華美すぎずそれでいてオリジナリティーのある作りだと感心する。

 ユートリヒ伯爵は芸術文化に多く出資をする。こうして個人的な演奏会を開催することもあれば、地域の商人との共同出資でフィルハーモニーを組織し、オーケストラやオペラの楽団を運営している。その楽団の公演は庶民でも楽しめるような価格帯に設定されており、富裕層のみならず一般の客で毎度満員に近い。収益は王都や他都市への出張公演なんかで賄っていて、そうした演奏収入が全体の3分の2を占めているとのことだ。また、王都で売れずに地方にやってきた画家や彫刻家に出資をしたり、中立な立場でありながら、国の文化政策には深く関わるという一面も持つ。

 リーリャは彼が最も貴族らしい貴族であると思っている。それは悪い意味で貴族らしいのではなく、良い意味で貴族らしいのだ。

 彼は芸術が民に行き渡ることを望んでいるのだ。


「酒と芸術は民を幸せにする。私は父からこの地位を受け継いで以降、そう信じてやって来ました。陛下は私を認めてくださっているのでしょうか」

「文化政策は伯爵が積極的に引っ張ってくださるお陰でかなり進みました。陛下もそれは認めていらっしゃいます。ただ、お酒の飲み過ぎには気をつけてと」


 フィリーがそう言うと、伯爵は演奏を壊さない程度の声でかつ豪快に笑った。


「まだまだ私のやるべきことがあるということですな」

「そうですね。我が国は山脈のお陰もありかなり安定しています。しかしそれは対立が減り、国内の上昇意欲を削ぐものでもあります。その中でいかに民にカルシュタイン王国の民としての誇りを持たせるか。陛下は文化こそ、その誇りを持たせるきっかけになるとお考えです。我々は教養を持ち、芸術に触れる余裕のある進んだ民族であると。こうして他国民と比べて高い教養を持つ王国の民としての誇りを持たせることができれば、さらに王国は発展します」

「他者を下げるというのはあまり好きではありませんが。国のためを思うのならば」

「はい。その中でいかに他国との協調を重視する国民性を育てられるかが、我々の仕事でしょう。以前のように、少数派や異民族を虐げるような国家に戻す訳にはいきませんから」

「そうですな。そのためにも王女殿下とリーリャには多文化共生の象徴として民の前に出ていただく必要がありますよ」

「ええ、わかっています。ここから先の5年間はその準備期間なのです。ユートリヒ伯爵にもお世話になることがあるかもしれません」

「そのときがあるならば、何なりとお申し付けください」









「では皆様、大変お世話になりました」

「この度は我が屋敷に足を運んでくださり大変名誉なことでございました。くれぐれもお気を付けて」


 翌朝、朝食を頂いた後リーリャ一行は伯爵家を後にすることとなった。社交シーズンが終わった今の時期、この町には多くの貴族が訪れることとなる。冬に領地生活を行う貴族は、社交シーズン終わりのこの時期に立ち寄ることが多いのだ。また、王都からわざわざワインを買い付けにやってくる貴族もいる。

 その初めに王女一行を招き入れたということは、大変な名誉である。


 リーリャ達の旅はここから王国東側領へと入っていく。山脈を迂回するように南東方向へと伸びる道を通り、一度地中海沿岸地域まで抜ける。平べったい“つ”の字型に大陸に入り込む内海の、上の部分に東西へ長く伸びている国家がここカルシュタイン王国だ。途中地中海に突き出すいくつかの半島を越えて、つの字の尻上がり付近で街道は地中海に当たる。

 地中海に当たると、旅はもう終盤にさしかかっていて、北上していけばいずれ王女領に到着する。

 ヴェライセンから分岐する街道は、王都から通っていた街道とは異なり、さらに道が悪化する。とはいっても馬車が複数台横に並んでも十分なほど広い道が整備されていて、しばらくは依然快適な道のりとなる。

 途中複数箇所で街道が分岐し、そのたびに道は細くなっていく。最終的にメインの街道から外れる道に入り、そこからはすれ違うのがやっとというほどの細い道に入っていく。 その細い道は作物が収穫される時期になると王都への貨物輸送で混雑するため、いずれは道を広げたいとの考えはあるらしい。ただ、それ以外のシーズンはあまり往来がなく、費用対効果を考えるとしばらくはこの道が維持されることだろう。


「かなり豪華ね」

「そうニャね」


 途中休憩を挟み、馬車は進み続ける。途中の昼食はヴェライセンからの積み込みを加熱したもので、移動しながら食べることとなる。

 馬車の中の小さなテーブルに2人分の食事が並べられるが、肉をメインとしたかなり豪華なものであった。ワインの絞りかすを食べて育った牛の肉は肉質がよく、柔らかくジューシーなものになる。王都周辺と比較してこの地域は牧草も豊かで、わざわざ活かしたまま牛を王都へ運び、王都近郊で屠畜の後、新鮮な状態で食べる貴族もいるほどだ。


「焼きたてを食べたかったですね」

「そうニャね」


 再加熱のステーキは肉汁が逃げていて少しパサつきがあった。それでも王宮で食べている冷めたステーキよりは柔らかく、おいしいものであった。スープは豚肉のグラーシュで、新鮮なトマトの酸味に赤ワインのコクが加わり、2人は無言で食事を楽しむ。

 昨晩久しぶりのふかふかベッドで眠った2人は、おいしい食事を取ってたいそうご機嫌な様子であり、オストリアでの楽しみについての話に花を咲かせるのであった。


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