17.勲章とは
昼間、マイにA組の担任が勲章に対して5度見してきた話を共有すると、向こうは向こうで、B組の担任に困った反応をされたと言っていた。やはり、大変なことをやらかしたのでは、と内心気が気でないが、逸る気持ちをぐっと堪えて今日の授業をこなした。
放課後に担任が教壇に立つとこれは本来もう少し後に言う予定だったことだと前置きをして話しを始める。
「まず、この学院内外での評価の付け方は主に何で判断されるか、覚えているかしら?――そうね…あなた、答えてくれる?」
「はい。評価の付け方は様々あるそうですが、一番はやはり年に一度開催される大会の成績です。そこでの順位はもちろん、それ以外にも自信の強さをアピールすることによって、その生徒の在学中から卒業後までの全ての評価がなされる、重要な行事です。」
「そうね。正解よ。」
担任は近くにいた生徒を指名して、生徒の答えに満足げに頷く。そして、すっと表情を変え、真剣な面持ちで続ける。
「…でもそれとは別に、勲章の数が個人の評価に関わってくることがあるの。それはなぜか。…勲章持ちの2人に聞いてみようかしら。何故でしょう。」
「それは…。」
評価に関わってくる理由、と言われても昨日も3人で話したが、祝福に関係するから。以外の理由は思い浮かばない。シロナも黙ったままなのでそう正直に伝える。
「ざっくりとあってはいるわ。まず、1つ。その勲章を持っている人というのは、長老種のどれかから祝福をもらった印なの。<祝福>というのは神の加護や精霊の守護とは違って、世界や自然そのものと繋がる力。持っている祝福の種類や数によっては国家の力関係を揺るがしかねないものになるわ。あまりの強大さに、一部では<世界の祝福>、なんて大層な名前で呼ばれたりもしてるぐらい。」
確かに、神の加護は個人の能力の底上げが多く、精霊の守護は精霊の力を借りやすく、魔法が使いやすくなるといったもの。もちろんこれらも強いが、加護や守護を持つ人は割といる。さらにそれぞれの加護、守護には対抗策も存在し、大事になることはほとんどない。しかし僕らが貰った祝福、森の祝福の内容を考えてもそこまで力が生まれるとは考えにくい。その考えが表情に出ていたのか、担任が眉間にしわをよせて深くため息をついた。
「…持ってる本人が力の強さを理解できていないのは問題ね。…そうね、例えば神の加護や、精霊の守護は神々や精霊同士の相性から、決して複数持つことが無いのは知っての通りだけれど、祝福に関しては誰でもいくつでも持つことができるの。まずこの時点で既に色々問題なのだけど、1番の問題は全ての祝福を手に入れた者が現れたとき。もしそんな時が来たら何が起こると思う?」
担任はそういって聞いてきたが、はなから答えを期待していなかったのか、少しの間ののちに驚愕の事実を告げる。
「—―その者の願いを叶えようと、世界そのものが動き出すわ。…例え、願いがどんなものでも。仮に、その祝福持ちの意思に反することをすればたとえ、相手が国だったとしても、世界の強制力によって一夜にしてなくなるそうよ。―そして、最悪の可能性として、世界を滅ぼすことが目的の人物が祝福を全て集めてしまったら?どうなるでしょうね。」
一瞬、頭が真っ白になる。
世界を滅ぼすことが目的の人間が、どんな願いも叶えられる力を、手に、入れたら…?そんなの―――想像してぞっとする。きっと、これが勲章についての説明がまだされるべきではない理由なのだろう。祝福の話も何も大貴族だけの社交の場ですら聞いたことがない。
「…分かったかしら。勲章の、というよりは祝福を持つことの危険性が。そもそもあなたたち、どうやって見つけてきたのかしら?」
「掲示板に貼っていた依頼を受けただけ。依頼内容もおかしなところは無かった。」
担任が怪訝そうに聞いてきた質問にシロナが答えるが、先生の表情は晴れない。むしろ、余計に困惑した表情で僕のほうを向いて尋ねてくる。
「依頼で見つけたの?そういう依頼は普段は認識できないようになっているのだけれど。」
「いえ、普通にマイが掲示板から持ってきました。」
マイ、と名前を出すと担任は実に3秒フリーズしてからぼそぼそと何かを呟いている。様子を伺う限り、怒っているようで、思わずこっそりと内容を盗み聞く。
「…忘れてた。マイ・メアリー。確かにあいつならやりかねないわ。しかも無意識に。しかも、あのメンツならそのまま突破しかねない。…というか突破したのよね。ほんとに問題児め。仕事増やさないで欲しいのだけど。というかあいつに関しては、B組の人間なんだからあのくそふわふわが問題の可能性を提示しておきなさいよね。これだから…」
内容を聞く限り、かなりご立腹のようだ。しかも怒りの矛先が段々とズレていくので、思わず声をかける。
「…先生?」
「…んん゛なんでもないわ。気にしないで。ともかく、全員これを受け取りなさい。」
なんでもないと言うにはもう遅いような…。教室中から漂うそんな空気を変えるように先生は一度パン、と手をたたく。それと同時に僕らの目の前に細長い銅の棒状のものが飛んでくる。サイズ感で言ったら大体ペンぐらいだろう。全員に行き渡ったのを確認すると、先生が説明を再開する。
「それは学院から祝福を与えてくれる、長老種を探せるようにする印のようなものよ。例えば、今まで見えなかったものが見やすくなる、とかね。…どこかの天才はそれなしで見つけたみたいだけど、普通は無理。そもそも、それを付けてても見つけにくいものだから、大人しく付けておきなさい。つけ方は、それに魔力を通して、好きなアクセサリーとかに変えて持ち歩くだけよ。何に変形させてもいいけれど、体のどこかしらに接触させておくのをお勧めするわ。」
どこかの天才と言った時に明らかに棘を含んでいたこと以外は丁寧に説明をする先生は、きっと根が真面目なんだろう。…面倒くさがりではあるけど。
「あとは、それらしきものを見つけても、軽率に1人で行かないように。後でそこの2人にでも聞いたらいいけれど、祝福は見つけただけじゃもらえないわ。それに対応した試練を突破しないともらえないから。…他に体験談を聞きたかったら、今の祝福持ちは3年生に3チームと1人、2年生も3チームいたはずだから、その辺から聞きなさい。ただし!探すのも挑むのも勝手にして良いけれど、祝福関連の試練で起きたことに関して、学院側は一切の責任をとらない。…この意味、分かるわね?」
つまり、試練で死んだらそれまで。教室がいつもより静かになる。A組は比較的、静かさを好む人が多いが、今日はいつもより空気が重い。こんな空気は入学式の日以来だなと、別のことを考え始めてしまうのは、マイの影響を受け始めてしまっているのだろうか。…きっと違うはず、そう思いたい。
「ま、そこまで心配しなくてもいいわよ。試練はあんたたちがちゃんとチームで行けば、多少しくじっても生きて帰ってこれるはず。無理だったときは相当運が悪かったと諦めなさい。」
フォローになっていないフォローをかけられ、説明が終わったかと思ったが、去り際に先生があっ、と思い出したように言った。
「そうそう、試練の場所だけれど、今回は依頼にあったそうだけど、次もそうとは限らないから。なぜかは私も知らないのだけど、毎回違う場所に突如出現するから、試練の内容は参考にできても、発見場所は大した情報にならないから、気を付けなさい。」
最後にそんな爆弾発言をして先生は教室を去っていった。お陰様で普段は静かな教室が物凄く騒がしくなり、僕らはしばらく情報収集という名の尋問に遭うことになった…。
いつもありがとうございます。
Q 祝福(勲章)とは?
A ヤバいやつ
という認識でオッケーです




