:二人の雷の勝敗
残るのは顔だけになっていた。
だがそれでもまだ押されている、一体どれほどの力の持ち主なのか、水鏡は愕然とする。
これだけの時間がたっても尚この威力を保ち続けているこの攻撃は尋常ではなかった。
諦めたい気持ちが滲み出るが、それだけは出来ないと必死で支えるのは、水鏡の想い。
軋んでいる筋肉にカツを入れて、再び現実の目の前の莫大な力の塊を凝視する。
これは――――――――、決して『地獄の使者』には入れてはいけないものだ、それを排除する。
水鏡はただその一心にのみ意識をむけて、賢明に立ち向かい続ける。
鋭美はその異常な景色を顔を歪めながら見つめていた。
「『グングニルの大槍』が止まってる・・・・・・そんな・・・有り得ない」
そう、自身最強の技が、『地獄の使者』を通る手前で止まっているのだ。
「有り得ない・・・・・アレを完全に止める事の出来る『才気』なんてそうそうあるもんじゃないのに・・・・」
雷の『才気』には大きくわける時に二つにわけられる。
一つはマイスス、大多数の雷がこれに当たる、威力は個人差があるが、強い物は強い、しかし蓄積が不可能。
もう一つはプラス、世界に数人のみしか存在しない、一般に威力はマイナスに劣るのだが、蓄積が可能。
ただ、鋭美のそれはマイナス以上の威力があり、蓄積も可能という反則的な強さを持っている。
故に世界の誰にも、『グングニル』の物質部分は防げたとしても電流部分は止めれないはずである。
だがしかい、現在その有り得ないことが起こっている、『グングニル』の全てがなにものかによって止められているのだ。
だが押している、このままいけばいつかその誰かが自滅して、先攻出来るだろう、そのいつかがなかなかこないのだが。
「っち・・・・・やっぱり予想外の人材が混じっているようね・・・・」
正直この防がれる事を予測できなかったわけではない、一閃が前に居た以上ここにはある程度のプラス雷の『才気』がいるとは思っていた。
しかしまさかここまで耐えきれるプラスがいるとは思わなかった。
「はぁ・・・・・一閃ったら、どれだけ蓄積させてるんだか、こんなに蓄えてよく壊れなかったわね」
蓄積にも一応限度というものがある、その限度を超える貯蔵は本人の意思を無視して放出されて周りに物質的被害を撒き散らす。
前に『道敷大神』が言っていた。
「一般的な雷の『才気』の力を1とおくならお前の力は50だ、一秒毎の蓄積量は100くらいまぁ一時間もすれば誰も適わないな」
だとするなら今の鋭美の力はおおよそ四億、一日分の蓄積値である。
それに耐えているということは、それ相応の蓄積量があると言う事になる、一体どのくらい溜めているのか、少し興味が湧いた。
「もし耐え抜く事ができたなら僕自らの手で殺してあげよっと」
一つ楽しみが出来た、鋭美はすぐさま、今残っている全ての雷を放たれている『グングニルの大槍』に上乗せしたのち、蓄積を開始する。
もちろん、防がれる事など微塵も考えてはいないわけだが。
わかる、明らかにこの攻撃の強さが増した、多分残る力の全てを投入したのだろう。
「誰だか知らない、が!よくやり・・・・・やがる、こんな攻撃・・・・・・!!」
ブチブチと筋肉が引きちぎれてきた、その部分をすぐさま雷がつなぎ止め、より雷に近くなり力が膨れあがる。
だが、そろそろ自分でも『才気』が出せなくなる限界、というものが近づいてきたのが分かる。
【逃げたい・・・・・・】
そんな感情が水鏡の中を満たしていき、最終的にはそれが力を弱めていく。
保たない、潰れる、今抜けるだけに力を使えばおそらく自分は助かるだろう、この質量だ、当たれば死ぬではない、消える。
弱い心がどんどん自分を埋め尽くしていくのがわかった、どんどん自分が弱っていく事がわかった。
だが、いままでの自分がそれを否定する。
「――――――――――――く…………!!」
ここで逃げるというならば確かに自分は助かるであろう・・・・・しかし、自分の後ろにいる今守っているみんなの命が消え去るだろう。
なら逃げる事は出来ない、逃げる事など許されない、『覇光』の名を傷つける事はボスである自分はしてはいけないのだと言い聞かせる。
逃げる道理などない、ここで守り抜いたとするならば、いつか『覇光』はその役目を全うした事になるだろう。
包んでいる雷が膨れあがり、目の前の雷を押し返そうと膨張する、そのたびに筋肉はブチブチと千切れ、それを補うようにまた膨張。
そしてついにその時がきた、筋肉、内臓すらも雷と同化してしまった、感じがある。
もう後戻りは出来ない、そのことがよく実感された、後戻りなどする気もないのだが。
【いいじゃねぇか・・・・・・・・・やってやろうじゃねぇか!】
だがもう水鏡の心身はともに限界にへと近づいていた。
絶対にこうしたいという、もはや動かない強い束縛の想い、されどその想いに先に心が悲鳴をあげる。
奥底、そこで常に弱音が飛び交っている、その一端を触れてしまえばきっと立ち直れないだろう、水鏡はそこを想いでふさぐ。
全身雷、筋肉すら雷になっているの、しかしそれがとければきっと自分で歩く事すら出来ないくらいに弱っているだろう。
もう自分で自分の力が分からない、どのくらい保つのだろうか、もう保たないのだろうか。
「また、一人で戦おうとしていませんか?マスター水鏡」
後ろから有り得ない声が聞こえた。
この世界には居ないはずの声、でも確かに後ろから聞こえてきたのだ、自分を戒めるように。
「これが俺の義務であり、『覇光』というここを守る使命を与えられた組織のボスとしての、絶対しないといけない責任だ」
「ならお供しないといけませんね、私はあなた、あなたは私、私達は一心同体なのだから」
「でも実体はない雷だろう?そんなんじゃなにも出来ないだろう?」
「確かにそう・・・・・・・私には実体がない、だから自分で何かしようとすることはできないのよ」
でもねっと雷羅は続ける。
「私には心からあなたを支える事が出来る、あなたの様な強い想いもないし、実体のある体なんてない」
「ならはやく俺の心に戻ってくれよ、ちょっと力が弱っている感じがするんだ」
「そんなことはないはずよ、絶対に――――――――って、話し折らないでもらえるかしら?」
可愛く怒ったような声が聞こえてくるが、水鏡としてはそんなコトしてる余裕はない。
「ふぅ・・・・・・・でもね、私には鍛えぬかれた何者にも砕けない心がある、まぁいままで独りだったからだけどね」
とても自虐的に言っているようだが、慰めに撫でてやる事も出来ない。
「そして、どんな力にも対応出来る鍛えぬかれた体がある、生まれた時から走り続けてるんだもん」
水鏡はそれをひたすら聞き続ける、そうすることで苦しい現実から意識を背ける事が出来るから。
「私はそれをあなたにあげる、私にいっぱいいろんな大切な物をくれたあなたに私の全てをあげる――――――」
後ろにあった『才気』の感覚がなくなり、その後、体に劇的な変化が起こった。
雷の足に力が篭もった、まるでどこまでも走っていけるかのような、目標なく走り続けられるような。
強すぎる想いに負けそうになっていた弱い心は溢れてくる強い心に包まれて、強い自信に変わった。
同時にくる孤独感、恐怖感が襲いかかってくるが、それは強い想いのもと一刀両断される。
その状態でどんどん己のポテンシャルがあがっていくとともに、目の前の物を片手で耐えきれるまでになった時、後ろに人の気配がした。
その気配には心当たりがあった、分かっている、こいつは何時だって己の側に居てくれたのだから。
「おめでとう、やっと悲願が叶ったようだな――――――雷羅」
「ハイ、ありがとうございます、マスター水鏡」
横に見た事もない人間が立っていた――――――――それを見ると、もう負ける理由が見あたらなくなった。
雷羅はおもむろに足を振りかぶり、鋭美の最強不敗だった『グングニル』を真上に蹴り上げたのだった。
鋭美にとっては初めての事だった、そしてこの時、水鏡は鋭美から『グングニル』と『絶対先攻』の名を奪い取ったのだった。