:剛毅の帰還、京の本性
目を開けると見慣れた自分の部屋だった、しかし、よく判らなかった。
「・・・・俺はこんな所で倒れてたのか・・・無意識に戻ってきたのか?」
体を起こして改めて周りを見渡すが、やはりどこからどう見ても自分の部屋だった。
そして、謎を解く男がいた。
「イヤンッ」
「変な声出すな、別になにもしてねぇから・・・ほら、コレでも食え」
出された食べ物を弾いて飛ばす。
皿の上の食べ物が部屋の端っこに無惨にまき散らされる。
「何するんだよ、食べ物がもったいないだろ」
「不味そうだったんだ、こんなの食える訳がないだろ・・・・っで、何でお前はそこにいんだよ?」
再砂はいらついた表情をしながら目の前にいる男、剛毅を睨み付けた。
剛毅はヤレヤレと首を振り、落ちた残飯を拾い集める。
「何でって、戻って来ちゃ悪いかよ?・・・まぁ、一人で戻ってきたんだよ、後で仲間を呼ぶ」
拾ったものをゴミ箱へと捨てて、新たに食べ物を持ってくる。
「・・・・・・・・・・食べない」
「じゃ、食わせる」
剛毅はそれを口に含んで良く噛む、そして、そのまま再砂の口に自分の口を合わせようと飛びついた。
っが、その試みは虚しく、再砂の砂により地面に叩きつけられた、食べていたものと一緒に。
「来るな変態」
「・・・・・・変態じゃねえし、てか何か食べないと、調子でないぞ」
言われてみれば体が少し重たい感じがする、筋肉もビキビキと割れるように痛い。
仕方ないので、部屋に完備してある冷蔵庫から、缶詰を取り出してほうばった。
「こっちのが栄養あるのに・・・・・」
剛毅は残った食べ物を食べ始める。
「ところで・・・・・・・・お前誰だっけ?戦場で会った気がするが、そんな細かい事覚えてられねえ」
「・・・・・そうだな、見ず知らずの奴にここまでする俺っていったい・・・・」
何か引っかかる言い方だった。
「見ず知らず・・・」
「ああ、お前が誰かは知らないが、俺にとって一番大切な奴に似ていた、だから助けたんだ」
ここに来ても、それが本人だと知っていても、知らないと言い張り、大好きという。
【こいつは・・・・それほど俺のことを・・・少しくらいは、いいか】
一閃の言いつけはこの際無視してやろう、何、少しの間だ。
「そいつの名前はなんて言うんだ?」
「瞬夜、俺からみて、誰よりも強く、とても美しい女性だった」
「瞬夜、俺と同じ名前だな」
剛毅は驚いて再砂、いや、瞬夜を見る。
瞬夜はさも当然のようにその様子をみて楽しそうな笑みを浮かべた。
「おかえり、ボス、絶対戻ってくると信じてたぞ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・突然いなくなったりするなよ、お前はこの組織の副隊長だぞ?」
「ああ、すまない・・・・俺のいない間に何かあったか?」
瞬夜は普通の調子できくのだが、剛毅はまだ堅さが抜けていない。
もちろんそんなことは気にしない瞬夜なのだが。
「聞いてくれ、一時抜けるときにある女に出会ったんだ、お前みたいなやつだった、形こそ歪だが、とても俺を心配してくれた」
「へぇ、物好きもいたもんだな」
「名前は再砂っていうんだが、俺は彼奴に何か学べる気がするんだ、それに瞬夜と同じように大好きになるかもしれん」
「へぇ・・・・・」
瞬夜は黙る、もう何も言うべきではないと判断したから。
言ってしまえばギリギリの境界線を越える気がしたから。
暗い部屋に甘い吐息の様なものが木霊していた。
その一番奥、隊長の部屋のベッドの上に、京は寝転がり、とても気持ちよさそうな顔をしていた。
そしてどこか若々しくなっているようにも見える。
「まったく、吸うだけ吸って寝るのね・・・・」
麗香はその姿を見て、恐怖と共に頼もしさを感じていた。
「これが一閃の言ってた京の本性、畜生界の化身にして、吸血鬼の始祖ね・・・ちょっと貧血かも」
麗香はとりあえず、ここを出ようと壁を這う。