:混乱する地獄の使者
旧立帝國高校のいつもの集会所に各内部組織のボスが集まっていた。
空いているのはボス、一閃の席のみ。
「・・・・・・・・・、っというわけなの」
麗香は白銀の天使より聞いたことを包み隠さずすべてみんなに話した。
そしてもちろんのこと皆の間で混乱が生じた。
「一閃が・・・元『八皇』の構成員だっただと?ふざけてるのか、『八皇』など存在しない!!」
まっさきに反応したのは『法度』のボス、翔汰だった。
「仮にもしも存在していたとして、一閃がそれの構成員だったとして、どうして今になってこの組織を抜ける必要がある?」
もっともな意見であり、それについての回答は麗香は知らない。
あくまでも聞いた話であるからだ。
「とりあえず、どこかに一閃が隠れていないか探すぞ!それでもしもいなかったらその時また考えよう!」
いの一番に翔汰はこの教室を出ていった。
「そう、だな・・・・まずは本当にいなくなったかを確かめないとな」
次に続いたのが『覇光』のボス水鏡。
無言で去ったのは『闇の影』のボス昴。
部屋に残ったのは四人だけになった。
「その話は確証がある情報なのか、麗香?」
「ないわ、でも、私はセンちゃんのあんな姿今まで見たことなかった・・・私、どうしたら良いんだろう・・・?」
「そうか・・・・・なら俺は行く、一応確かめたいしな」
最後に出ていったのは『秩序』剛毅だった。
部屋には剛毅と入れ替えに一人入って来て、不思議そうにその様子を眺めていた。
「どう・・・・したんだ?」
「それよりなんで彰がこんな所に来たの?」
部屋にいた一人、冥が予想外の訪問者に驚き、席を勧める。
彰はその席に座って、一息つくとすかさず問う。
「っで、何があったんですか?」
冥は麗香に目で確認を取ってから、彰に今聞いた話を全て話す。
それに対する彰の反応は、
「流石一閃だな、まさかそんなにすごい力の持ち主だったとわ!」
それを聞いて大笑いするのは、瞬夜、部屋の隅の方で腹を抱えて笑っていた。
それにつられて彰も大笑いを始める。
「二人とも、笑い事じゃないんだよ~」
麗香が二人をなだめるが二人はいっこうに笑うことを止めようとはしない、むしろドンドン大きくなっていく。
麗香は溜息をついて、机に項垂れる。
冥も同感ですと言いたげな感じで溜息をつく。
その時、彰の電話が鳴った。
「ん・・・?ちょっと失礼」
彰が電話を取ると何も喋らず、聞く側に回っている、そして十分くらい聞いた後、
「《俺は遠慮する、俺はここでいい》」
そう言って通話を終えた。
麗香は何となく嫌な予感がしたのだが、念のため聞いておく。
「誰から・・・・だったの?」
「・・・・・・・・・・水鏡です」
「なんて・・・・言ってきたの?」
「聞きたいか?」
麗香は静かに首を縦に振る。
「なら言うが・・・・・水鏡が『覇光』の構成員と共に世界組織『紡ぎの糸』に転属した・・・つまり『地獄の使者』を抜けた」
「・・・・・・・うそ・・・・・でしょ・・・・・・!」
「事実だ、さっきの電話は俺にも来るように言う電話だった、俺は行かなかったがな」
「それは私につくってことかしら・・・?」
麗香は少し安堵したような声で、彰をみるが、
「すまない、それは違う、俺はあくまで一閃に仕える、だから俺は俺の為に行動し俺の為に居続ける」
これまた大笑いする瞬夜、そして同じく大笑いし始める彰。
その二人をみて先が心配になる麗香と冥だった。
「水鏡さん、彰さんはなんて?」
部下の一人が聞いてくる。
「俺はいかない、だとさ、しょうがないから俺達だけでもいくぞ!」
水鏡は歩き、その足で『地獄の使者』の領域から外にでた。
目指すは『紡ぎの糸』の総本部、『キューラー』。
「すいません・・・・・・・」
ソコに来たのは翔汰の弟、戒だった。
「ん?翔汰はどうした?」
麗香はまたも嫌な予感がしてきたのを堪える。
だがやはり戒の口からでる言葉はその予感が的中するものだった。
「そのいきなり兄貴が、ボスはお前に任せた!おれは今から大事な用があるから、戻るまでしっかりしておけ!って言ってどこかに行っちゃって」
少々遠慮気味に言うのは戒の性分だ、翔汰とでは気兼ねなくはなせるのだが。
それを聞いて一層瞬夜と彰の笑いが大きくなる。
冥はもう苦笑いに変わっていて、今の顔は最高に引きつっていた。
「それで一応、連絡しておこうと思いまして・・・どうかしましたか?」
「いや、なんでもない、本部に戻って待機していてくれ」
戒はなんとなく腑に落ちなそうな顔をしていたが、自分ではどうしようも無いと悟ったのか、その部屋を後にした。
冥も呆然としている。
「・・・・・・・・あなた達は、あなた達はどっち?一閃?私?自分?」
まず彰が、
「俺はさっきも言ったが自分だ、一閃以外の下につけるとは思えない」
次に冥が、
「すいません麗香様、私は彰についていきます、ですが麗香様の言うこともなるべく聞きます」
最後に瞬夜は、
「俺は麗香、君に就く、一閃がいない間は外勢力からは私が『地獄の使者』を守り抜く、だから安心して作戦を練ればいい」
そして、両手をあげてあることを特殊な意味に変換する。
「俺の名は瞬夜、麗香、あなたに忠誠を誓い、あなたが望むままの力になるぜ、俺の命が尽きるその時まで、俺は麗香の部下である」
両手をあげた状態での名乗り、それはつまり相手に対する忠誠を誓う証。
ふと、部屋の隅にあるパイプから真っ赤な液体が流れ出てきた。
それはおびただしい量の血のようなもので、それは多くなるにつれ人の形を取っていく。
できあがったソレは、『改水』のボス一ノ宮 京だった。
「一閃がいなくなったそうね、それであなたがボスになるのかしら、麗香?」
「はい、少しの間でも一閃が戻ってくるまでの間、この組織を護り抜こうと思います」
「そうか、では私の言うことはないな、私と一閃との契約はこの地を護ること、ただ、その行動が麗香という人間に引き継がれただけだ」
そして、両手をあげ、
「私の名前は一ノ宮 京、私は『改水』全員の代表として麗香に誓う、私達の命はすべてあなたの手の上に」
そう言って水がはじけるような音と共にその京がパイプに戻っていった。
それをはたから見ていた彰は、
「良かったな麗香、これで少なくとも二人の強戦士が忠誠を誓った、これで結構安全だろ」
そう言って彰は立ち上がり、踵を返す。
冥はその後を追う。
「じゃあな、次会うときに敵になっていないことを祈るよ」
「そういうこと言わないの!じゃあね麗香様、頑張ってください」
彰はそのまま出ていったのに対して、冥は一度振り返り、ペコリとお辞儀をした後、先に行ってしまった彰を追うために早足に出ていった。
「彰ってやつはなかなかオモシロいやつだったな!あいつだったら良いペアになりそうだ!」
「ところで瞬夜、アナタはなんで私なんかにつくの?あなたの実力なら何処の組織でも雇ってくれるでしょう?」
麗香は自虐的に言うのに対して、瞬夜は何を聞くのかと思えばといった口調で、
「決まっている、一閃に誓った、一閃が戻ってくるまでの間俺が『地獄の使者』を守り抜くとな」
しばらく静かに時間が流れる。
そしてボソッと麗香はつぶやく。
「・・・・・・・・・・・・・ありがとぅ」
「いやいや、大したことじゃない、そんなことよりお前はお前のしなければならないことをやるんだ」
「・・・・・・・・・・・・瞬夜、胸、貸して」
「・・・いいぜ」
麗香は瞬夜の胸に飛び込みしばらくそのままでいた、その間麗香は声を押し殺し泣き続けた。
もちろん瞬夜はその肩の震えがおさまるまで撫で続けた。
翔汰は全力疾走ではし続けていた。
『暴風』をフルに活用して普段の速度より何十倍も速く、何十倍も疲れを抑えて、走り続ける。
「一閃!貴様は言った!俺は貴様の言うことを護り続けた!それなのに貴様が先に破るか!!」
全身から怒りが漲ってくる、彼奴を殺す、彼奴を殺す、彼奴を殺す。
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す・・・・・・・・・一閃、お前を殺し尽くす!
「貴様の罪の重さをしれ!!」
翔汰は翔ける、目的の人が見つかるまで、目に映る全てを吹き割きながら。