後編
「今頃、何してるのかしらね?」
空をぼんやり見上げながら、シャーリーは遠く旅立ったルイを心配する。
勇者に選ばれた一か月後、ついに魔王が誕生したのだ。
旅のお供に選ばれたのは、どこかの国の剣豪とどこかの国の魔法使い、そして神殿の聖女。
ちなみに、全員女なのは、何か狙っているのかと疑いたくなった。
我が子が女豹に狙われている――! そう思ったが、実際実力はある。聖女以外は。
「年を重ねたわたしには長旅は無理――とか意味わからないわ」
聖女の同行ははじめから決まっていた。そして、普通は勇者を育てた聖女が同行する。
それなのに、なぜかシャーリーの同行は認められなかった。
建前は、年増だから旅には耐えられないだろ? ってことだが、そもそも聖女は聖女になった瞬間から人とは生の理が変わるのだ。
身体の劣化が遅くなり、齢百十九のシャーリーだって、二十代前半くらいの見た目だ。体力だってそれくらいはある。
というか、修行をさぼっている若い聖女よりも、体力もあるし強い。
自ら育てた勇者を見守り、いざとなったら命をかける――そう思っていたのに、はじめに同行を拒否したのはなんとルイ本人。
なぜか裏切られた気がした。
ただ普通に考えれば、親と一緒の旅路なんてまるで監視されているみたいで嫌だよな、わたしだって嫌だとシャーリーは自分を納得させた。
その後、どっかの役立たず聖女がルイにしなだれかかり、わたしが全部お世話しますわ、とか宣戦布告にきたときは、ちょっとイラっときた。
あの勝ち誇った顔!
もしルイに傷一つ負わせたら許さん! と怒りに燃えながら、出立式を遠目で眺めた。
しんみりとした気持ちになって、本当に立派になったなとちょっと泣きそうだった。
それからまたしばらく月日はたって……。
シャーリーは現在、めちゃくちゃ忙しかった。
若手、中堅どころが次々とやめていったから。
理由は簡単。
魔王がいなくなって、徐々に魔の気配が去り、シャーリーたち聖女の仕事が減ったから。
残っているのは強い力の魔だけ。
そんな危険な仕事、彼女たちはやりたがらないのは当然として、仕事が減ったなら結婚するわー、って感じで結婚していった。
そして、仕事が減っても必要以上に聖女がいなくなれば、残ってる仕事が増えるのは誰の目からもあきらか。
しかし、結婚を止めることはできない。今は売り手市場の聖女様。
なにせ勇者を育てた神殿に所属する聖女。
全く教育に携わっていなくとも、それくさいこと匂わせておけば、少しでも勇者と繋がりを持ちたい貴族様方やお金持ちのお坊ちゃんが、列を連なるようにせっせと彼女たちを接待した。
聖女との面会に神殿側も献金を渡されて、今一番懐が潤ってる。
神殿の上層部は誰も止めない。
全く、世の中間違ってる。
死んでしまえ! と聖女にあるまじき暴言を吐く。
そんな中でも、シャーリーはやはり結婚のけの字ももたらされない。いや、正確にはあるにはある。
後妻とか、側室とか、愛人とか……。ぶっ飛ばしそうになったけど、そこはぐっと我慢した。
自分の年齢は誰よりも一番分かっている。
だけど、すでによぼよぼの爺とか、アクセサリーとか、身体だけとか、ない。
一番マシなのが介護しろって感じの後妻っていうのがまたなんとも。一応正式な妻だし。
齢百二十になり、見た目はともかくこの年齢には腰が引けるのだ。まあ、仕方ない。
すでに五十を過ぎたあたりから結婚は諦めている。
それに、少しくらい年齢の高い聖女がいないとそれこそ統率がとれなくなる事も分かっていた。
シャーリーという共通の敵がいるからこそ、聖女内の輪が保たれているのだ。
教育なんて面倒だって思ってたけど、ルイを育てることが思いのほか楽しかったから、こうなったら、これから新しく入ってくる聖女を叩き直してして生きていくかなーって思っていたら、シャーリーの育てた勇者が帰ってきた。
凱旋式を、忙しいシャーリーは見に行くことができなかったが、話を聞くに離れている間でも成長したらしく、イケメン度が上がっているようだ。
うんうん、素晴らしい。
母親として思い残すことはない――五年しか教育してないけど……まあ、母親だ。きっと!
凱旋式の夜は宴が催されている。
しかし、シャーリーに招待状はきていない。普通、勇者を育てた聖女くらい呼ぶが、なんといつのまにか勇者を育てたのが、同行した聖女の手柄になっていた。
基本的に味方の少ないシャーリーは噂話や外の情報には疎い。
別に手柄が欲しかったわけじゃないが、ちょっとだけがっかりしたのは確かだ。
自分が育てたルイの立派に成長した姿を見たいと思うのは、育ての親として当然の気持ちだと思う。
「もしかして、来てほしくないのルイの方かも」
若くして世界に名をとどろかせた勇者。
その教育係が年増聖女なのは、ちょっと嫌なのかも。
噂ではともに戦った聖女と結婚する予定だとか。
教育時代からし少しずつ愛を育んできた――とか、女性たちは喜びそうだ。
「あーあー、巡礼聖女にでもなろうかなぁ」
教育者もいいけど、外を回る聖女もいい。
各地を回り人を助けるのも聖女の役割。
中央にいても結局利用されるのが落ちなら、いっそのこと身を隠すように出ていった方がいいかもしれないなとも思った。
聖女の序列が崩壊して、痛い目見ればいいんだ! と思わなくもない。
今は重要な案件が減っているから、やるなら今だ。
そんな事を考え、シャーリーは旅支度を整え、こっそり金貨をくすね、外に飛び出す。
いや、飛び出そうとした。
その瞬間、ものすごい力が背後から襲い掛かり、シャーリーを拘束した。
「ぐえ!」
あまりの力に変な声が出た。
シャーリーを拘束できるものなど、この世にはほとんどいない。それほどの力をシャーリーは有しているのに、暴れても身体にまとわりつく腕は全く揺らがない。
「だ、誰!?」
暗がりの上、背後から抱きしめるように拘束されているので、顔が見えない。
シャーリーの問いかけに、ますます身体を拘束された。
しかし、そろそろシャーリーは限界だった。
苦しい程の拘束は、次第にシャーリーの意識を刈り取っていく。
こ、こんな事――……
意識は暗転し、シャーリーはぐったりと身体から力が抜けた。
「知らない天井だ……」
などとお決まりのセリフを口にして、シャーリーは飛び起きた。
「こ、ここどこよ!? お、思い出せ、自分! わたしは聖女。そしてここはどこ?」
おかしなことを繰り返しているシャーリーは混乱していた。
しかし、ゆっくりと深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。
「た、確か、昨日神殿を抜け出そうとして、その瞬間、拘束されたんだよね?」
神殿付きの神官ではない。それは絶対に言える。
それなら、シャーリーは簡単に拘束を解けたはずだ。
「それなら――……」
聖女の中でも力があるシャーリー。
それを簡単に拘束できる相手……。
考えても一人しか思い浮かばなかった。
「ルイ……」
「呼んだ、シャーリー?」
ひょっこり現れたルイが、悪びれもなく笑っていた。しかし、目は笑っていない。
シャーリーはベッドの上で座り込んで、ルイを睨んだ。
「これ、どういうつもり?」
首からじゃらりと繋がれているのは鎖。
しかもただの鎖じゃない。
魔の力が込められていて、シャーリーの聖の力を吸い取っていた。
身体は動くが、上手く聖の力が扱えない。
「うん、ごめん。でも、こうでもしないとシャーリーは逃げそうな気がして」
「はぁ?」
さっぱり理解できないシャーリーは訝し気な声を上げる。
「俺、すごい頑張ったんだ。シャーリーに褒めてほしくて、すごいって言ってほしくてさ」
ギシリとベッドに座ってシャーリーの方に身を乗り出す。
そっとシャーリーの頬に触れるルイは、まるで知らない男性のようだった。
「うん、それはわたしも分かってる。あんたはすごい頑張ったよ、世界を救った勇者だし。わたしだってちゃんと顔見て偉い、わたしが育てた勇者だぞって言いふらしたかった」
それは本当だ。
魔王を倒しに行くときも、声をかけたかった。
帰ってきたときは一番初めに会いに行きたかった。どんな旅をしたのか、怪我はしなかったのか。
無能な聖女との結婚は本当か、とか――……。
色々聞きたいことはあった。
「じゃあ、どうして来てくれなかったの? 俺、期待して着飾って勲章も受け取ったのに、シャーリーは来たくないって言われたんだよ」
「……あ、理解した」
ルイの言葉で、シャーリーは事態を把握した。
シャーリーもいじけていた。育てた勇者が帰ってきたのに、夜会にさえ呼ばれなかったことを。
だから抜け出そうとしたわけだが、ルイの意思じゃなかったのを確認できて、シャーリーが邪魔だと思った聖女か、上層部のしわざだと気づいた。
腹の底から怒りが湧いてきた。
そんなシャーリーの怒り心頭な顔を見ていたルイも、誤解していたことを理解したようだ。
「そっか……ごめん、シャーリー。俺がちゃんと言わなかったから。自分で言えばよかった」
「そうね、どうして言ってくれなかったの」
「いや……だってさ、恥ずかしくて」
そういえば、目の前の青年ルイはまだ二十。
育てた母親のような存在に、自分が勲章を受け取る瞬間とか見に来て、というのは言いにくいかもしれない。
マザコンみたいに見えちゃうし。
「分かった、なんとなくね。ごめん、わたしも直接言えばよかった」
ルイのいる場所は知っていた。
会いに行こうと思えば、会いに行けたが、シャーリーもルイの迷惑になるんじゃないと思って会いに行けなかった。
忙しいというのは、ある意味口実だった。
シャーリーはにっこり笑って腕を広げた。
「ルイ、あんたはすごいよ。よく頑張った! 抱きしめてあげよう!」
子供にどう接するのがいいか、シャーリーは育児書を読んだ。
その中に親子としての触れ合いがいいとあった。
そのため、教えたことを上手くできれば抱きしめて褒めて、怒るときも拘束して叱ってやった。
後者はちょっと違うか。
はじめは暴れていたルイも、そのうち諦めて大人しくなった。
慣れてきたのか、次第に受け入れるようになって、自分からもシャーリーを抱きしめるようになったのはいい思い出だ。
ルイの身体が成長するにしたがって、さすがに止めたが、ちょっとだけ寂しそうな顔をしていたのは覚えている。
だから、今の言葉は何の他意もない。
ただ母親としての言葉だった。
ルイが嬉しそうにシャーリーを抱きしめてきて、シャーリーも力の限り抱きしめてやった。
「シャーリー」
「ルイ……本当に大きくなったね。よく頑張った……、怪我はなかった? 危ないと思ったらちゃんと逃げた?」
「心配しすぎ」
抱きしめると分かる。
身体に腕を回しても、余らせていたのが懐かしい。
温かい体温と、静かな鼓動を感じていると、しだいにルイの重みが増し、ん? と思う間もなく柔らかいベッドの上に倒されていた。
ルイの顔が前面に来て、天井がその後ろに少しだけ見えた。
「…………何? この態勢」
「ん? このままシャーリー食べておこうかなって」
食べるとは?
「今回はちょっとしたすれ違いというか、勘違いなだけだったけど、シャーリーが俺の事知ったら本格的に逃げ出しそう――いや、敵対しそう? な気がして」
色々と不穏な言葉が飛び出してきた。
「俺さ、シャーリーの事が好きなんだ。結婚したいと考えるくらいに……でもさ、今のままだったら、絶対シャーリーは俺を受け入れないって分かってた。年の差百って字面的にもやばいし。それに、シャーリーは俺を男として見てないって知ってた」
「ちょっと、ルイ? 何言って――……」
突然の告白に混乱するシャーリーを置いてけぼりにし、ルイはさらに言った。
「シャーリー。勇者ってさ、魔王倒したら力がなくなって、普通の人間に戻るよな」
こくりと頷くシャーリー。
その通り。
余計な破壊の力はいらないとでも言うように、魔王の存在が消えたら、力が次第に消えていき、人の理の中に戻る。
つまり、勇者でいる間は聖女と同じように人の理から離れるが、勇者でなくなった瞬間に人に戻るのだ。
「だから、シャーリーとずっと一緒に生きていく術を探していた。年の差百歳なんて関係が無くなるくらい長く生きられる方法を。そんな時、魔王の本体である核を見てひらめいた。コレを食べたら、自分の力にできるんじゃないかって。人の理から外れた存在になれるんじゃないかって」
うん? 食べた? 魔王の核を……?
いや、そもそもなぜそんな発想に?
「どんな食べ物にも、人の身体に影響を与える。だから、魔王の核を食べたら、その力を取り込むことができるんじゃないかって思って」
「魔王の核は食べ物じゃ、ないんじゃないかな……」
あまりにも突飛な説明に、どうでもいい事をシャーリーは呟く。
完全に呆然としていた。
ルイはそんなシャーリーを眺めながら続けた。
「でも、案の定読みは的中。俺の中で魔の力が定着して生きてるよ。勇者の時と同じくらいに力を感じてるんだ、おそらく半永久的に生きるだろうな」
それはもはや、勇者の力を超えているのでは?
「一緒に半永久的に生きれば、百歳差なんてそのうち誤差になると思う」
「い、いいい、いやいやいや! 何言ってるの? 魔王の核を食べた? しかもルイの身体の中に力があるって? それ、魔王になったってことじゃないの!?」
ようやく止まった思考が戻ってきて、シャーリーが叫んだ。
「まあ、そんな感じになるな」
信じられなくて、ぺたぺたルイの身体に触れる。
シャーリーは、全くその力を感じ取れなかった。魔の力には敏感な方なのに……。
これのせいかと、首の鎖に触れた。
「そもそも、なによこれは!」
「うん? これね、シャーリーの聖の力を無理矢理吸い尽くす鎖。これで聖の力を空にして、空になった器に俺の魔の力を入れれば、シャーリーも俺と一緒に半永久的に生きられる身体になれるんだ。普通の人間だと、器が壊れちゃうけど、聖女は人の理から外れているから、もともと肉体は強靭なんだ。だから、魔の力を入れても大丈夫」
「大丈夫じゃないんじゃないかな!?」
もはやそれは聖女とは言わないのでは!?
「俺と一緒に生きるのはいや?」
悲しそうにルイの瞳が揺らぐ。
それを見て、シャーリーがぐっと詰まった。
たった五年とはいえ育てた子供が泣きそうになっていると、シャーリーの心が痛む。
いや、しかし……。
ここで本来ならばシャーリーがルイを討たねばならない。
シャーリーは聖女だ。
魔を滅ぼす者なのだ。
魔の存在を取り込んだルイは、すでに人ではなく、人に害を及ぼす者に近い。
いや、でも……。
こんな事例は初めてで、本当にルイが人に害を及ぼすか分からない。
人に害を及ぼす者でないのなら、別にいいのではないか……。
シャーリーの気持ちが揺れ動く。
「ねえ、シャーリー。俺は別に世界の敵になりたくないけど、もしシャーリーが俺の事受け入れてくれなかったら、世界を滅ぼしちゃうよ」
「は? 勇者が何魔王みたいな事言ってるのよ!」
「だからさ、シャーリーが側でずっと見張っててよ。そうすれば、なんの問題もないし」
色々問題だらけだ。
本来なら、即座に神殿に報告するところだが、誰が信じるものか。
世界を救った勇者が、逆に世界を滅ぼす魔王になったなんて。
それに、もし神々がルイを危険と判断したらきっと勇者が現れる。
それまで、側にいて見張るのが一番いいのも事実。
シャーリーは覚悟を決めた。
「分かった……。とりあえずは、側にいると誓うわ」
「うん。じゃあ、食べるのはシャーリーが全部俺の物になった時にするよ」
だから、食べるな。
そもそも、食べるって何さ……。
こうして、神殿が知らぬ魔王が生まれた。
その後、シャーリーとルイは世界を回った。
時間が止まっている二人は、同じ場所に居続けられない。
シャーリーは初めて神殿の外に出て、自由を謳歌した。
その間、噂では神殿が大変な事になっていた。
統率していたシャーリーがいなくなった結果、聖女の序列争いが起き、仕事が回らなくなり、枢機卿の腐敗も進んだ。
なんだかんだで、上層部は全てシャーリーが見張っていたのだから、仕方がない。
そして、半世紀がたち、魔王が生まれるため勇者候補が現れた。
なんとか聖剣に選ばれた勇者を育てることができたが、神殿の権威は地に落ちるばかり。
聖女たちは仕事をせず、魔は人々を蝕んでいたからだ。
そもそも、仕事のやり方を知らないのだから無理はない。シャーリーがいなくなった頃に残っていた聖女たちは、当然仕事をしたがらず、若手の聖女に押し付ける。
そして、若手の聖女はきつい仕事に早々にリタイヤ。
こんなことが繰り返し行われていたら、育つものも育たない。
さらに半世紀が過ぎて、魔王が生まれた。
しかし、勇者は一向に現れず、神殿は人々から憎しみの対象になった。
シャーリーは聖女だった。
その力が無くなっても、根付いた魂はいつまでも神殿に属し人々のために力を奮う。
勇者が全く育つ気配を見せず、我慢できずにルイと共に魔王を討った。
そして、その功績をもち民衆たちの支持の元、神殿の腐敗を一掃。
人々から聖王と大聖女として崇められ、二人は神殿を再建した。
そして、人々が神殿への信仰を取り戻すまでおよそ二百年、ルイと世界を一緒に回った百年を足して三百年以上の時が経った。
「大聖女様、聖王様とはいつ頃ご結婚の予定なんですか?」
「ぶふっ!」
可愛らしい弟子の聖女に問いかけられ、シャーリーはお茶を噴出した。
「な、なな、なに言ってるのよ!」
「ふふふ、慌ててらしてお可愛らしい。お二人はずっと仲睦ましい間柄。もういい加減、聖王様のお気持ちにこたえてあげてもよろしいのでは?」
ぶーっと唇を尖らせたシャーリーは、そっぽを向いた。
いつの頃から、シャーリーのルイへ向ける感情は、母親の物とは違ってきていた。
それを受け入れるには、相当な時間がかかった。
百歳差。
だけど、出会ってすでに三百年経過。
ルイの言った通りだ。
三百年という月日を重ねて、シャーリーは百歳差という言葉がどうでも良くなってきていた。
なにせ、この先も永遠に近い生を生きるのだから。
そもそも、はじめはルイの気持ちも疑った。
ただの刷り込みではないかと。
綺麗でかわいい女性を見れば、気持ちが変わるのではないかと。
しかし、そんな事もなく。
いつだってシャーリーを大事にしてくれていた。
さすがに、そこまでいけばルイを疑うのは失礼で。
ため息が零れた。
今更どうしろと?
なんて答えればいいのだろう。
などと考えていたら、ある日いきなりルイに取っつかまり、あれよあれよという間に、結婚式を挙げることになった。
シャーリーの気持ちの変化など、とっくの昔にルイは気づいており、いい加減我慢がならなくなったのだ。
結婚式前夜、二人で話をした。
「シャーリー、俺はずっとシャーリーだけしか見ていなかったよ。愛してる、この先もずっとね」
ぎゅうっと抱きしめてくるルイに、シャーリーはずっと待たせていたことを謝った。
「うん、ごめん。実は、ちょっとルイの気持ちを疑ってたけど、今は信じてるよ。わたしも、ずっとルイだけだと思う」
「……思うって何?」
引っかかりを覚えた、ルイに身体で散々教え込まされたのは、その直後の事だった。
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