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9章 着色



九章 着色


彼女の考え方はとても優しいが、彼には重たい十字架となって覆い被さる。

だが彼女にとっての彼とは優しくしてあげたい、希望を与える存在だった。

罪意識で声が出ない彼とその事を察し、自分に何ができるのか考える彼女。

何かのきっかけがあれば打破できる空気だがきっかけを探す考えは2人には無かった。


「ごめんね、僕泣き虫だね。ありがとう…。」


彼は泣き止んではいないが、気を使ってくれた彼女にすぐにでもお礼と謝罪を言った。

まだ、重たい空気は続く。

そんな空間に予期せぬ来客が訪れた。

紺色の半袖を着た、何処と無く見覚えのある顔の、まだ小学生ほどの男の子だった。


「ごめんなさい、トイレってどこだっけ。」


少年はよほど尿意が迫っているのかぐるぐると走り回りながら質問する。


「トイレならここからだと、この部屋を出てずっと左に直進して廊下の突き当たりにあったかな?けど彼には悪いけど聞こえてな…」



「ありがとおじさん!」


病室から走っていく少年はお礼を言っていた。先生とも言っていた。

2人はすぐには理解できない。

1分くらい経過した。


〈今先生の言った事ちゃんと聞こえてたよね?しかもおじさんって。〉


最初に声の無い発言をしたのは彼女だった。

彼もその言葉で我に戻ると驚き始めた。

あの少年は一体誰なのか、どうして縁も関わりもない彼が見えたのか。

そう考える内に少年は扉を勢いよく開け戻ってきた。


「漏らすとこだった…おじさんの言った場所とは少し違かったけど近くにあった!。」


彼は確信した。この少年には自分が見えているのだと。

そして1つの疑問を質問してみた。

君は僕が見えているんだね?君の名前は?」

他愛もない質問だが彼は感じていた、少年に秘められた自分との関わりを。


「僕は、瀬戸 輝!おじさんは?」


その名前を聞くと同時に彼に意識を保てないほどの感情が湧き上がった。

彼にとって奇跡だった、そして彼の記憶はフラッシュバックする。

これは彼がまだ死んでいなかった頃。

彼には将来を誓いあった良き妻が居た、妻の名前は瀬戸 絢香、その当時には既にお腹に子供を宿していた。

彼らはその子供が産まれたら名前をどうするか考えていた。


「名前は何にする?宮緒さん?。」


彼の妻が質問する。


「僕はこの子に期待してるんだ。僕と絢香さんの息子だからきっと凄い子に育つよ!」


彼と彼女は同じエリート校に通い彼女は歴史研究家、彼は脳外科としての道を歩んでいた。

職種も違う彼等だが愛し合っていた。


「私は輝なんていいと思う!輝くと書いてコウね。」


彼女は自慢気に意気揚々と発言した。


「僕はコウと読むよりアキラっていう響きが好きだね。輝くって発想は好きだよ。さっすが!」


そして事件が起こった。

トラックに轢かれた少女を救えなかった彼は後先考えず、電車が走ってきたところで飛び出した。自殺だった。

残された妻と子供がどう生活しているのか気がかりではあったが死んでしまった事で諦めていた。

だが、彼の息子は今まさに自分の前に、今立っている。

彼は少年に抱きつく。息子に会えた、育った息子を抱きしめられた。

彼は感情を抑えきれず大声で泣き始める。

少年と栞菜は突然の出来事に混乱していた。


「何?おじさん、不審者?あと冷たい…。」


彼は少年が引き気味なのに気がつき正気に戻る。

すると疑問が思い浮かんだ。


「輝くんはなんで病院に来てるの?どこか悪いのかい?。」


医者らしい質問だった、病院に来るという事はどこかを悪くしているという認識があったからだ。


「あ、うん、お父さんがね、今病院で寝てるからお母さんとお見舞いに来てる!。」


彼は絶望した。

愛し合った妻も愛したかった子供も全てが見知らぬ男に奪われたのが。

彼に絶望と怒りが湧き上がる。

そんな彼を不審な目で見ている少年は質問を投げかける。


「この女の人なんで動かないの?

話さないしどこか悪いの?」


彼は少年に対して親的な怒りを覚えた。


「君、事情を知らないからって不躾な質問をするのは間違ってる、彼女はこんな状態だから、苦しいんだ。なのに何も知らない君がしゃしゃり出てますます傷つけて、人の気持ちを考えられないのか。」


彼の発言には棘や矛盾があった。

彼自身八つ当たり気味な発言に気がつかない。


〈そんなに怒らないでください、何も知らい子を責めるのは、間違ってます。私なら大丈夫です。〉


彼女が止めに入って彼は気がついた。

この少年の言葉より自分の怒り任せの言動による傷の方が大きい事、少年が泣いている事、自分が焦っていることに。

彼が反省し彼女は傷つく、そんな沈黙の中、少年は呟く。


「なんだ、お姉ちゃん話せるじゃん。

さっきはお姉ちゃんが傷つく発言してごめんなさい。」


沈黙を壊す発言に2人はまたも驚いた。

その少年の存在自体驚きだが、それ以上に聞き取れている事象に驚いた。

だが彼は先ほどまで怒りを覚えていたためすぐに冷静になる。

そして彼は状況を整理する。


〈この子は栞菜ちゃんの思考を読めるのか、もしかすると僕の存在が影響しているのではないか。〉


彼は周りを見渡す、すると彼の手が少年の肩を掴んでいることに気がつく。

怒りを表に出した際彼の手は無意識のうちに肩を掴んでいた。

彼は手を離し栞菜にこの現象を追求する手助けを仰ぐ。


「ごめん栞菜ちゃん、何か思って発言してみて…。」


栞菜は頷いたように思考を送る。

私、栞菜、君は私の声が聞こえる?。〉

だが少年は反応しない。

彼は確認のために少年に問いかける。


「輝くん、彼女の声が聞こえるかい?。」


少年は首を傾げ、首を横に振る。


〈なるほど、僕に触れられたことで、輝くんも感覚を共有できたのか。

だが、なぜこの少年には出来たんだ?〉


彼が触れたのはこの少年だけではなかった。

彼女、栞菜の母親にも触れている、何故母親には感情の共有ができなかったのか。

少年には彼が見える、会話もできる、それだけの事で彼女と共有できるとは考えられなかった。









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