一章 呪われた青年
明るい思い出の話が山を越えたのか、ザラスの顔はうつむきだした。
『仕事をしようにもな、皆わしを恐れるんじゃ、病気が移るとかなんとかでな。わしもそれを信じ込んじまっての。妻と子を追い出して別々に住みだしたんだが仕事は減る一方で遂には無一文になっちまってよ。乞食になってしまったんじゃ』
サバトが顔を上げた。疣とは言うが彼の身体はやせ細っており、疣も皮になっている。
『するとな今度は皆わしに金を恵んでくれるんじゃよ。仕事はしたくないが哀れみだけはくれるというわけじゃな。なんと働いていた時より小金持ちになったんじゃよ。この町は人の出入りも盛んじゃからの』
目を閉じたまま高飛車に笑った。
『しかしの、同情というのは一時の感情じゃ。やがて収入は減っての。妻や子とも連絡はとれんくなりどうしようかと思ったらふと物乞いをしている子供を見ると何人かは手がなかったり、眼が片方潰れていたりの。わしは勢い余って潰したんじゃ、この眼をな』
見てくれと言わんばかりにザラスは目じりに指をあてた。
『するとまた金が入るんじゃ。いくらになったのかわからんが哀れみは金になるんじゃよ。だがの、今度は眼が見えんから生活が困難になるんじゃよ、実にバカな話なんだが』
盲目は眼が付いているように子供たちの方にない眼を向けた。セベクもそれにつられ目を向く。
『そしたらの、裏道で困っておったわしをあの子らが助けてくれたんじゃ』
ザラスはそこにいる子を紹介するように言ったがもう何年、十何年も前のことである。おそらく過去にいた少年少女のことだろう。戦地やスラム地区ではどこからともなく子供が流れて、死んでいく。
『子供が肩を貸してくれた時、わしは久しぶりに人のぬくもりを思い出したんじゃよ』
『ぬくもり、、、』
セベクが呟きザラスは続けた。
『物乞いになってからわしは金のことしか見てなくてな、人の大切なことを忘れていての、そもそもわしはそれを持っていたのか怪しいが子供たちと出会うことでそれを見つけての。おっと。わしは眼が見えんかったな。まぁもしかしたら金目当てだったかもしれんが』
ザラスは笑った。
『ある日のことじゃ、真っ暗な視界が少し光って見えたんじゃよ。最初は思い出を懐かしんでいたのかと思ったのだがそれとは違っての、次第に凄くはっきりとしたものになってきたんじゃよ』
わずかながらセベクの気が少し向いた気がする。
『それをな、子供に話していたらの。子供が言うんじゃ。ザラスの言ったことが当たったよ、ってな。それからたまに見る。わしには夢になるのかの、それをみんなに話すピタリとあたるんじゃよ。これも神のおこしめしなのかもしれんが』
予知夢というのだろう。セベクは内心半信半疑だった。
『しかしな、わしの世界は常に真っ暗なんだ、、、なぁ青年よ。神とは何だと思う?』
ザラスの問いに対しセベクの回答は沈黙だった。




